真砂土 真砂土の概要

真砂土

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/29 18:54 UTC 版)

代表的な客土として用いられる反面、特殊土壌地帯災害防除及び振興臨時措置法(特土法)で指定されている特殊土壌[4]であり、普通土とは異なる性質を持つ。

名称

真砂土は“きれいな砂”から名が付いたと考えられているが、いつ頃どの地域の誰が名付けたかは不明[5]。古くから文学的表現に用いられていたという[5]

読みは業界によって異なる(2014年時点でNHKでは土砂災害のニュース(土木系)で「まさど」、趣味の園芸(園芸系)で「まさつち」[6])。

地盤工学会では「まさ土」表記[3]で定義されているように「まさ」「マサ」[2][7]のかな表記が用いられている。2018年平成30年7月豪雨での大手新聞各社における表記は、読売[8]・朝日[9]は「まさ土」、毎日[10]は「真砂土」、産経は「まさ土」[11]あるいは「真砂土」[12]を用いている。

瀬戸市周辺の愛知県から岐阜県にかけての地域では「砂婆(さば)土」と言われる[13][14]。静岡県富士山周辺に富士マサと呼ばれる土壌があるが、これは火山噴出物であるため別ものになる[4]

特徴

花崗岩表面。白っぽいのが石英、黒が雲母[7]

花崗岩質岩石(花崗岩・花崗閃緑岩・花崗斑岩等)は石英長石雲母などの鉱物結晶が密接している[5][7][15]。これらの結晶粒子は数mm程度のほぼ等粒で、それぞれで熱膨張率が異なるため、温度差の大きい所では粒子間の結合が弱まり風化しやすい[7][15][16]。膨張などの物理的風化・加水分解などの化学的風化が進行すると、細粒状になったり更に長石・雲母の一部は粘土鉱物カオリナイトイライト・ハロイサイト等)になったりするなどバラバラの状態になる[16][17][18]。この風化花崗岩の粒を“まさ(マサ・真砂)”といい、これが集まって堆積したものを“まさ土(マサ土・真砂土)”と定義している[7][16]

まさ土は基本的性質として、粒径が不均一で鉱物組成の変化が多く、弱酸性で、ほぼ砂質土状であるが粘質土的な特徴もある[15][19][20][21]。これは構成する鉱物が花崗岩質岩石の種類や地形によって異なること、加えて風化の進行度によって生まれる粘土鉱物も異なるためである[22][19]。砂と定義されているものもあるが[1]シルトや粘土化した細粒土も含まれ、更に広義ではも含まれる[5]。土質工学会『日本の特殊土』でまとめられている一般的な沖積との比較は以下の通り[15]

沖積砂 まさ土

一次的性質

  • 土粒子の鉱物種
  • 土粒子の比重
  • 粒度、粒径
  • 質的変化少ない
  • 均一(2mmから1⁄16mm)
  • 質的変化多い
  • 不均一
  • 変化しやすい
[15]

二次的性質

  • 含水比
  • 間隙比飽和度
  • 土の構造
  • 教科書のモデルが適用できる
  • 水と土粒子の関係が複雑
  • 土粒子内空隙が重要
[15]

工学的性質

  • 透水性
  • 強さ
  • 圧縮性
  • 締固め特性
  • 主として二次的性質に依存
  • 一次・二次的性質共に重要
[15]

また自然状態に近いまさ土は岩石としての特徴を残しているためある程度の粘質土的特性を残しているが、強風化や流出・撹拌などによってそれを失ったまさ土は完全に砂質土化する[15]。こうしたことから、粘性を残したまさ土は通気性・水はけが悪い[21][23]、失ったまさ土は通気性・通水性に富む[23][24]、という正反対の特徴が現れる。状態によっては、締め固まりやすくもなるが[25]、僅かな水でも流動しやすくもなる[24]

分布

宮島弥山頂上。宮島は全島が花崗岩で形成されており[26]、これら巨石群も花崗岩でその周りがまさ土。

花崗岩は大陸地殻の全域にわたって世界中広く分布しているが[7]、その風化残留土であるまさ土の分布は一致しない[19]。これはまさ土の生成に際し、岩質・地形・地質構造・地史・気候と様々な条件に左右されるためである[16][19]。例えば花崗岩の風化が進んでも侵食が激しければ、あるいは降水量が多ければ、まさ土としてその場に残らない[19][27]

日本において特土法で指定されているまさ土地帯は、中国地方の大部分、九州四国近畿の一部になる[4]。花崗岩は全国いたるところに存在し[28]、まさ土は東日本にも少なからず存在するが特に分布するのは西日本になる[23]


  1. ^ a b 真砂土”. コトバンク. 2018年8月6日閲覧。
  2. ^ a b c d e マサ土”. コトバンク. 2018年8月6日閲覧。
  3. ^ a b c 地盤工学用語辞典 (PDF)”. 地盤工学会. 2018年8月6日閲覧。
  4. ^ a b c 特殊土壌地帯対策の概要 (PDF)”. 農林水産省. 2018年8月6日閲覧。
  5. ^ a b c d 西田 1971, p. 3.
  6. ^ 道浦俊彦 (2014年8月21日). “道浦俊彦TIME”. 読売テレビ. 2018年8月6日閲覧。
  7. ^ a b c d e f 藤田崇. “深成岩の特性とその見方”. 斜面防災対策技術協会. 2018年8月6日閲覧。
  8. ^ 西日本豪雨 土砂災害その時何が”. 読売新聞大阪 (2018年8月3日). 2018年8月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年8月6日閲覧。
  9. ^ 広島の土石流、「まさ土」広範囲に 14年豪雨災害でも”. 朝日新聞 (2018年7月10日). 2018年8月6日閲覧。
  10. ^ 夜の住宅街襲う水 4年前の悪夢再び(その2止) 広島、もろい真砂土”. 毎日新聞 (2018年7月7日). 2018年8月6日閲覧。
  11. ^ 大規模土石流、住宅街襲った爪痕”. 産経新聞 (2018年7月14日). 2018年8月6日閲覧。
  12. ^ 林業被害は658億円…林野庁、26日に現地調査へ”. 産経新聞 (2018年7月24日). 2018年8月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年8月6日閲覧。
  13. ^ サバ土”. コトバンク. 2018年8月6日閲覧。
  14. ^ a b 瀬戸のやきものと有田のやきもの”. 瀬戸市. 2018年8月6日閲覧。
  15. ^ a b c d e f g h i 広島の「マサ土」 (PDF)”. 住宅地盤品質協会. 2018年8月6日閲覧。
  16. ^ a b c d 花崗岩 -風化作用-”. 岐阜大学教育学部理科教育講座. 2018年8月6日閲覧。
  17. ^ 西田 1971, p. 11.
  18. ^ 西田 1971, p. 14.
  19. ^ a b c d e 西田 1971, p. 25.
  20. ^ 西田 1971, p. 73.
  21. ^ a b 真砂土(まさつち)”. NHK みんなの趣味の園芸. 2018年8月6日閲覧。
  22. ^ 西田 1971, p. 22.
  23. ^ a b c d 上之薗辰忠; 濱洲良介; 久富拓也; 平山雄太; 羽部信泉 (2011). “路床・路盤材として真砂土とシラス混合時の強度関係と耐久性についての研究” (PDF). 平成23年度建設技術研究開発助成採択案件 (九州建設技術管理協会). http://www.kyugikyo.com/pdf/h23/09.pdf 2018年8月6日閲覧。. 
  24. ^ a b c 斉藤健; 松木勝; 栃林貞義; 高居和弘 (1985). “農地の保全と防災 (その5)” (PDF). 農業土木学会誌 53巻 10号 (農業土木学会): 907-916. doi:10.11408/jjsidre1965.53.10_907. https://doi.org/10.11408/jjsidre1965.53.10_907 2018年8月6日閲覧。. 
  25. ^ a b 土づくり”. 日本の花会. 2018年8月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年8月6日閲覧。
  26. ^ 海堀正博. “世界遺産・厳島の土砂災害と庭園砂防 (PDF)”. 日本応用地質学会. 2018年8月6日閲覧。
  27. ^ 西田 1971, p. 26.
  28. ^ 西田 1971, p. 4.
  29. ^ 用土(ようど)”. NHK みんなの趣味の園芸. 2018年8月6日閲覧。
  30. ^ a b 古河幸雄; 藤田龍之 (2003). “コンクリート用細骨材としてのまさ土の利用に関する基礎研究” (PDF). 土木学会論文集 2003 巻 750 号 (土木学会): 159-170. doi:10.2208/jscej.2003.750_159. https://doi.org/10.2208/jscej.2003.750_159 2018年8月6日閲覧。. 
  31. ^ 海砂採取の全国的傾向 (PDF)”. 環境省. 2018年8月6日閲覧。
  32. ^ a b 西田 1971, p. 111.
  33. ^ a b 土砂災害、全国に危険52万カ所”. 日本経済新聞 (2014年8月27日). 2018年8月6日閲覧。
  34. ^ a b 中山義久; 西田一彦; 西形達明; 井上啓司 (1999). “まさ土の物性と液状化特性” (PDF). 土木学会論文集 1999巻 638号 (土木学会): 207-215. doi:10.2208/jscej.1999.638_207. https://doi.org/10.2208/jscej.1999.638_207 2018年8月6日閲覧。. 


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