欧州石炭鉄鋼共同体 欧州石炭鉄鋼共同体の概要

欧州石炭鉄鋼共同体

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/13 06:35 UTC 版)

欧州石炭鉄鋼共同体
スペイン語: Comunidad Europea del Carbón y del Acero
デンマーク語: Det Europæiske Kul- og Stålfællesskab
ドイツ語: Europäische Gemeinschaft für Kohle und Stahl
ギリシア語: Ευρωπαϊκή Κοινότητα Άνθρακα και Χάλυβα
英語: European Coal and Steel Community
フランス語: Communauté européenne du charbon et de l'acier
イタリア語: Comunità europea del carbone e dell'acciaio
オランダ語: Europese Gemeenschap voor Kolen en Staal
ポルトガル語: Comunidade Europeia do Carvão e do Aço
フィンランド語: Euroopan hiili- ja teräsyhteisö
スウェーデン語: Europeiska kol- och stålgemenskapen
設立時 消滅時
原加盟国 消滅時の加盟国 ††
拠点都市 ブリュッセル
ストラスブール
ルクセンブルク市
公用語
アルジェリアは欧州石炭鉄鋼共同体設立当時、フランスの支配下にあった。
†† 旧東ドイツは再統一時に旧西ドイツに編入された。

国際カルテルから生まれ、生産割当・価格制限・情報共有・投資調整・安全保障・エネルギー政策といった機能が不可分に結びついていた。第二次世界大戦前における石炭、鉄鉱石の関税撤廃も目的の1つである。

概要

欧州石炭鉄鋼共同体はシューマン宣言に基づき、1951年のパリ条約により設立された。条約の調印にはフランスとドイツ(当時は西ドイツ)だけでなく、イタリアとさらにオランダベルギールクセンブルクベネルクス3か国も加わった。欧州石炭鉄鋼共同体の発足によりこれらの調印国の間で石炭鉄鋼共同市場を創設することが企図されていた。欧州石炭鉄鋼共同体は加盟国政府の代表、議会の議員、独立の立場にある司法の監督を受ける最高機関の下で運営がなされた。

1956年、石炭価格規制が解除されて加盟国間で価格が自由化された。自由化直後は、翌年に連邦議会選挙を控えて、ゲオルクを解散するなどして石炭価格は低く抑えられていた。選挙が済むやいなや、炭鉱会社は価格の引き上げをECSCの高等機関へ一斉に働きかけた。価格は据え置かれて、石炭需要側はアメリカ炭に切り替え出した。そこで西ドイツは1969年まで石油税を課した。[1]

1957年のローマ条約では欧州経済共同体欧州原子力共同体が設立された。欧州石炭鉄鋼共同体は、これらと加盟国や一部の機関を共有した。1958年にアメリカ炭がダンピングをかけてきて、また1960年には世界の重油価格が1958年比で5/8程度に急落した。[2]

1967年、ローマ条約に鼎立した欧州諸共同体の運営機関が統一された。諸共同体は存置された。この後西ドイツは年率10%のペースで石油の消費量を増やし、天然ガスの使用量も倍増させ、原子力発電も実用化しだした[3]。より具体的には、ジーメンスAEGの共同子会社KWU が、AEI系7カ国コンソーシアムのTNPG と技術協定を結んだ。TNPG は既にヒンクリー・ポイントBを建設した実績があった。後にハンターストン原子力発電所B原発も建設する。

これより先、欧州石炭の国際競争力は失墜した(#成果と失敗)。外資が投下され、金融面ではユニバーサル・バンク化が進んだ。ベルリンの壁崩壊翌年にドイツで固定価格買い取り制度が導入された。

2002年にパリ条約が失効し、特に更新もなく、欧州石炭鉄鋼共同体の活動や資源は欧州共同体にうけつがれた。

カルテルの究極

パリ条約第65条は原則としてカルテルを一切禁止する[注釈 1]過度経済力集中排除法にあたる規定も存在した。

しかし共同市場は産業の合理化に都合が良いから標榜されたのであって、参加国の独占資本には抜け道が用意してあった。共同体は、自らの権限で生産割当や価格制限をすることができたし、場合によって[注釈 2]カルテルを認可することもできた(65条第2項)。認可された例は、西ドイツ製鐵メーカーのアメリカ炭輸入協定、イタリア・フランスの薄板・特殊鋼供給契約、そしてベルギーの鉄鋼カルテルである。認可の下りなかった例として、西ドイツ・イタリアの鉄くずカルテルがあるけれども、共同体全体でスクラップの共同輸入を1953年から1958年末にかけて行い、事実上そのカルテルを存続させた。共同体内に発生したスクラップには賦課金をかけ、輸入鉄くずに補償金を与えた。しかも鉄くずの使いすぎに罰金を課して、銑鉄使用に補助金を出した。[4]

また、民間企業の設備投資は原則として各企業の自由であった。しかし共同体は五カ年計画のようなこともやった。民間企業から投資設計を報告させるなどして需要予測を立てた。それに照らして需給バランスに問題を認めるときは、警告したり自ら救済融資に動いたりすることができた。1957年に銑鉄が不足し鉄くずの消費が増大したときは、警告の上銑鉄部門に融資を行った。また、この数年後にわたり共同体は西ドイツ鉄鋼メーカーへ何度も融資をした。それは例えばザルツギッターへの1億マルク信用保証とか、ティッセン事業拡大への融資などである。この頃ちょうど共同体はクーン・ローブなどから多額の融資を受けており、外の金融カルテルとも関係していることが分かる(ベルギー#独立と永世中立国化を参照)。共同体は、生産割当・価格制限・情報共有というカルテルの伝統的な機能だけでなく、投資調整まで可能であった。[4]

共同体の機関は最高機関、共同総会、閣僚特別理事会、司法裁判所の四部構成であるが、そのうち共同総会と司法裁判所は共同体の設立からほどなく欧州原子力共同体と共有された。欧州石炭鉄鋼共同体発足時は原子力大国フランスの発言力が大きかった。原子力問題省Bundesministerium für Atomfragen の設立とチュニジアの独立を経た後、1958年、西ドイツ下院で核武装が決議された。ボタンはNATO が持つことになった。これはニュークリア・シェアリングと呼ばれている。そしてこの頃、共同体は西ドイツ鉄鋼メーカーへ継続的に資金を提供していたのである。共同体は、投資調整と安全保障とエネルギー政策を不可分な形で担ったのである。

共同体内の鉄鋼業は国際輸出カルテルを結んでいた。1953年3月に発足したブラッセル・コンベンションである。原加盟国はフランス・ベルギー・ルクセンブルクであったが、同年9月オランダと西ドイツが参加した。いつしかイタリアも加盟した。協定品目は画期的、つまり鉄なら大体全部であった。罰金の徴収・管理は戦前から引続きスイス信託会社が請け負った。ブラッセル・コンベンションは共同体内よりも高い価格で輸出し、関税及び貿易に関する一般協定の総会で問題にされた。最高機関はブラッセル・コンベンションを条約違反と宣言したが、条約の規制する競争制限は共同体内に限り輸出は規制外という抗弁が通ってしまった。[4]

1968年、ブラッセル・コンベンションはブラッセル体制を敷いた[5]。そしてこの年にユーロクリアができたのである。


注釈

  1. ^ 「共同市場において競争が正常に行われることを阻止・制限・歪曲することを、直接または間接の目的とする企業間の協定、企業団体の決定および通謀行為はすべて禁止される。」
  2. ^ 以下の①②③を満たすことが認可の要件。ときどきの市況にって判断される。更新制の有無は不明。
    ①生産・分配の顕著な改善に貢献すること。
    ②先の改善にカルテルが不可欠であり、改善に不必要なほどに競争を制限しないこと。
    ③価格・販路を統制する決定力がないこと。決定権を外へ移譲したり、共同体内のアウトサイダーに元々競争力があったりするときは要件を満たす。

出典

  1. ^ Falk Illing, Energiepolitik in Deutschland: Die energiepolitischen Maßnahmen der Bundesregierung 1949-2013, Baden-Baden: Nomos. 2012, pp.69-70.
  2. ^ Michael T. Hatch, Politics and Nuclear Power: Energy Policy in Western Europe, Lexington: University Press of Kentucky, p.196.
  3. ^ a b ドイツ経済諮問委員会(いわゆる五賢人委員会)HPの統計資料(2016年1月11日アクセス
  4. ^ a b c 江夏美千穂 『現代の国際カルテル』 日本評論新社 1961年 第4章
  5. ^ Convention on jurisdiction and the enforcement of judgments in civil and commercial matters”. 欧州連合理事会. 2014年11月6日閲覧。
  6. ^ 早坂忠 『ケインズ全集第2巻 平和の経済的帰結』 東洋経済新報社 1977年 178頁
  7. ^ a b c The European Communities” (English). CVCE Centre for European Studies. 2013年8月9日閲覧。 (要Flash Player)
  8. ^ a b Treaty establishing the European Coal and Steel Community, ECSC Treaty” (English). EUポータルサイト "EUROPA". 2008年5月31日閲覧。
  9. ^ Orlow, Dietrich (English). Common Destiny: A Comparative History of the Dutch, French, and German Social Democratic Parties, 1945-1969. Oxford. ISBN 978-1-57181-225-4 
  10. ^ a b Chopra, Hardev Singh (English). De Gaulle and European Unity. New Delhi: Abhinav Publications. ISBN 978-81-7017-012-9 
  11. ^ a b c d e f g h i The Treaties establishing the European Communities” (English). CVCE Centre for European Studies. 2013年8月9日閲覧。 (要Flash Player)
  12. ^ Office of the US High Commissioner for Germany Office of Public Affairs, Public Relations Division, APO 757, US Army, January 1952 "Plans for terminating international authority for the Ruhr" , pp. 61-62 (英語、PDF形式)
  13. ^ Ceremony to mark the expiry of the ECSC Treaty (Brussels, 23 July 2002)” (English). CVCE Centre for European Studies (2002年7月23日). 2013年8月9日閲覧。(要Flash Player)
  14. ^ a b European Economic and Social Committee and ECSC Consultative Committee” (English). CVCE Centre for European Studies. 2013年8月9日閲覧。
  15. ^ The seats of the institutions of the European Union” (English). CVCE Centre for European Studies. 2013年8月9日閲覧。 (要Flash Player)
  16. ^ Members of the High Authority of the European Coal and Steel Community (ECSC)” (English). CVCE Centre for European Studies. 2013年8月9日閲覧。 (要Flash Player)
  17. ^ Negotiations on the ECSC Treaty: Multilateral negotiations” (English). European NAvigator. 2013年8月9日閲覧。 (要Flash Player)
  18. ^ Council of the European Union” (English). CVCE Centre for European Studies. 2013年8月9日閲覧。 (要Flash Player)
  19. ^ Michael T. Hatch, Politics and Nuclear Power: Energy Policy in Western Europe, Lexington: University Press of Kentucky. 1986, p.195.
  20. ^ a b Mathieu, Gilbert (1970年5月9日). “The history of the ECSC: good times and bad” (English). Le Monde, accessed on CVCE. 2013年9月8日閲覧。 (要Flash Player)


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