核異性体 核異性体の概要

核異性体

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/07 06:31 UTC 版)

ここで言う励起とは、通常よく言われる電子が受ける電磁気力に基づく原子が励起した状態のことではなく、原子核内の陽子中性子の間に働く強い力核力)に基づく原子核のエネルギー状態を意味する。

また原子核レベルのことなので、ある程度の時間というのは通常、10−6(100万分の1)秒から長くて秒単位である。ただし、まれには秒単位をはるかに超えて長いものもある。

核異性体は、あるいは異性核、核異性、準安定核とも言う[1]

概要

原子核では陽子や中性子が互いに深く束縛されエネルギーのもっとも低い状態のときが安定した状態であり、これを基底状態という[3]。しかし、核衝突などで原子核がエネルギーをもらうとエネルギーの高い励起状態になる[3]

ほとんどの原子核ではエネルギーの高い状態は不安定であり励起状態を保つことが出来ず10−12(一兆分の一)秒程度、長くて10−6秒以内に通常はガンマ線を放射する形でエネルギーを放出し元の安定した低エネルギーの基底状態に戻る[1][3]。しかし中には10−6秒を超え原子核の励起状態を保つものがある[1]。そういった10−6秒を超え原子核の励起状態を保つものを準安定状態ととらえ核異性体という。

高エネルギー状態でエネルギーが解放されず準安定状態を保ってしまうのは、高エネルギー状態での核子のスピンの状態と低エネルギー状態でのスピンの差が大きいためにガンマ崩壊しにくくなるためだと考えられている[1][3]

しかし中には半減期が62秒でベータ崩壊する42mSc(スカンジウム)や半減期45秒でα崩壊する212mPo(ポロニウム)などの例外もある[4]

核異性体が基底状態に半数が戻る半減期で長いものは秒単位から時間単位であるが、ときに年単位、中には180m1Taの場合のように核異性体の方が基底状態よりはるかに安定で非常に寿命が長く、1200兆年と宇宙の年齢よりはるかに長いものも存在する[5]。励起された核異性体がガンマ線を放出して基底状態にガンマ崩壊することを核異性体転移(Isomeric transition)という。

個々の同位体の準安定同位体は "m" (準安定同位体が複数あるときは、m1, m2, m3, …)をつけて表現する。この記号は、Co-58mまたは58mCoのように質量数の後ろにつける。準安定状態が複数ある場合は励起エネルギーの小さい順に記号をつける(例:177m1Hf:1315.4504(8) keV、177m2Hf:1342.38(20) keV、177m3Hf:2740.02(15) keV)。

脚注

[脚注の使い方]

  1. ^ a b c d e 培風館『物理学辞典』p 82
  2. ^ 丸善『物理学大辞典』p 175-176
  3. ^ a b c d e 丸善『物理学大辞典』p 181
  4. ^ 丸善『物理学大辞典』p 176
  5. ^ 国立天文台ニュース2010年7月1日 (PDF) 2017年10月25日閲覧


「核異性体」の続きの解説一覧




核異性体と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「核異性体」の関連用語

核異性体のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



核異性体のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの核異性体 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS