抗不整脈薬 分類

抗不整脈薬

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/04 06:32 UTC 版)

分類

抗不整脈薬はVaughan-Williams分類(英語版)Sicilian Gambit分類(英語版)に従って分類される[1]。各々の分類は抗不整脈薬の考え方が異なる。

ヴォーン・ウィリアムズ分類

標準的な心筋の活動電位遷移モデル[2]

ヴォーン・ウィリアムズ分類(Vaughan-Williams分類)[3]は比較的単純で経験的に不整脈の種類に対する効果を反映するので今でもよく用いられる古典的な分類である。基本的に活動電位に及ぼす作用を、基に抗不整脈薬を分類している。1980年代より既にこの分類の限界は示されている。まずは分類法が活動電位だけを基準にしておらずβブロッカーやCa拮抗薬という分類になっていることがあげられる。これでは同じ薬物が複数の群に属してしまう可能性がある。また抗不整脈薬として重要なATPジゴキシンアトロピンなどが含まれていない。また単純心筋の活動電位に対する薬理学的な効果で分類しているため、特殊心筋や病的心筋に対する作用はよくわからない。そして薬効の強さが、分類に反映されていないといったことがあげられる。

I群

I群に分類される薬は活動電位の最大立ち上がり速度を減少させるものである。具体的にはNaチャネル抑制効果をもつ薬物であり、膜の安定化作用をもつ薬物である。I群はさらに活動電位持続時間に対する作用によって3つに細分化される。Iaは活動電位持続時間を延長させるものであり、Ibは活動電位持続時間を短縮させるものである。Icは活動電位持続時間を変化させないものである。

Ia群

活動電位の最大立上り速度を減少させ、活動電位持続時間を延長させるNaチャネル遮断薬である。キニジン(キニジン)、プロカインアミド(アミサリン)、ジソピラミド(リスモダン)、シベンゾリン(シベノール)、ピルメノール(ピメノール)などが含まれる。上室性不整脈、心室性不整脈どちらにでも使うことがある群である。歴史的にはキニジンが有名であるが用いられることは少ない。同様に経口薬のプロカインアミドもあまりもちいられない。

プロカインアミド
静注薬としては非専門医でも扱いやすいと言われている、安全性の高い薬物である。その場合は他のIa群やIc群の代用として用いられることが多い。600mg程度の投与であれば不整脈治療の経験がほとんどない医師でも対応可能な範囲内の効果が期待できる。400mg投与あたりで徐脈、QRS拡大といった心電図変化がみられる。
ジソピラミド
Naチャネル遮断作用と一部のKチャネル遮断作用と強い抗コリン作用をもつ。抗不整脈薬の代表格のひとつである。尿閉、口渇は頻度の多い副作用である。まれだが低血糖を起こすこともある。
シベンゾリン
Naチャネル遮断作用と一部のKチャネル遮断作用とわずかなCaチャネル遮断作用と弱い抗コリン作用をもつ。副作用はジソピラミドより少ないが、まれに低血糖を起こすのは変わらない。
ピルメノール
Naチャネル遮断作用と一部のKチャネル遮断作用をもつ。他のI群薬に抵抗性の心房細動で非常に効果的であることがある。
Ib群

活動電位の最大立上り速度を減少させ、活動電位持続時間を減少させるNaチャネル遮断薬である。リドカイン(キシロカイン、オリベス)、メキシレチンフェニトインアプリンジン(アスペノン)などが含まれる。心室性不整脈に用いられる。

リドカイン
心室性不整脈、特にVTの停止と予防の目的で用いられる薬である。キシロカインとしては静注用2%(100mg/5mL)が存在する。1回に0.5~1バイアルを使用する。10%キシロカイン点滴用は現時点では誤点滴が多かったため使用できなくなっている。同様のリドカイン製剤にオリベス点滴用1%と静注用2%がある。通常、塩酸リドカインとして、1分間に1~2mg(0.1~0.2mL)の速度で静脈内注射する。必要な場合には投与速度を増してもよいが,1分間に4mg(0.4mL)以上の速度では重篤な副作用があらわれるので、1分間に1~2mgに留めるのが常識である。無効時はプロカインアミド500mg(1Aが100mg/1mL)をブドウ糖液で20mLとし静注する。オリベスはキシロカインと同じリドカイン製剤である。こちらは静注用は100mg/5mLである。静注では1回50~75mgまたは1mg/kgの投与で10~20分毎の反復投与となる。1時間の最大投与は300mgまでとする。点滴では1000mg/10mLである。5%ブドウ糖液で100mLとすると10mg/mLとなるため、6~24mL/hrで維持をする。一日2000~2500mgまで投与可能で24mL/hr以上の速度で投与はしない。

キシロカインにはエピレナミン(アドレナリン)含有の物もあるので注意する。

メキシレチン
リドカインとほとんど使い勝手は変わらないが経口薬があるためこちらがよく用いられる。リドカインと同様に安全域は非常に高く、症状を伴うPVCなどではよい適応となる。経口薬では300mg分3などで用いられることが多い。静注はリドカインアレルギーの際にリドカインの代用として用いる。静注での維持量は0.4~0.6mg/kg/hrであるためメキシチール4A(1000mg)を5%ブドウ糖で100mlとすると10mg/mLとなるので、体重が50kgならば2~3mL/hrで維持ができる。
アプリンジン
Ib群の中で唯一、上室性不整脈に効果がある薬である。安全性が高く、心房細動の治療ではよく用いられる。
Ic群

活動電位の最大立上り速度を減少させ、活動電位持続時間を変化させないNaチャネル遮断薬である。フレカイニド(タンボコール)、プロパフェノン(プロノン)、ピルシカイニド(サンリズム)などが含まれる。上室性不整脈、心室性不整脈の両方に使うことがある。不整脈の治療で用いられるようになったのは比較的近年である。他剤で無効であったら投与開始とするべきとされているが、2008年現在、最初から使用することを躊躇する危険性はほとんどない。

ピルシカイニド
心房細動でよく用いられる。心臓以外の影響がほとんどない安全性の高い抗不整脈薬である。非常によく用いられるのは薬効の高さではなくリスクの少なさによるところが大きい。同様の安全性の高さで心房細動の患者の動悸といった症状に対応できる薬としてはIb群のアプリンジンが知られている。
フレカイニド
器質性心疾患を背景としないPSVTやPafに対して安全で高い効果が期待できる薬である。心房粗動にはほとんど無効である。CASTスタディで用いられたため患者の予後を悪くする抗不整脈薬のイメージがあるが、それはあくまでも器質性心疾患の場合である。
プロパフェノン
特に特徴がないIc群の薬である。

II群

β受容体遮断薬である。プロプラノロール(インデラル)やアテノロール(テノーミン)ビソプロロール(メインテート)などが含まれる。洞頻脈に用いられる。

III群

活動電位持続時間を延長させる薬物である。ほとんどのものがカリウムチャネル遮断薬であるが、それ以外の作用機序のものも含まれる。他の抗不整脈薬が無効である場合の第二選択として用いられることが多い。アミオダロン(アンカロン)、ソタロール(ソタコール)、ニフェカラント(シンビット)などがある。

アミオダロン
肺毒性、甲状腺機能異常といった副作用が強いが薬効は他の抗不整脈薬を卓越している。非専門医が用いるのは危険である。
ソタロール
肺機能障害がありアミオダロンが使いにくい時に用いられる薬。

IV群

カルシウム拮抗薬(Ca拮抗薬)である。発作性上室性頻拍(PSVT)に用いられることが多い。頻脈性不整脈に使用されるのは非DHP系カルシウム拮抗薬のベラパミル(ワソラン)、ジルチアゼム(ヘルベッサー)、ベプリジル(ベプリコール)である。一方、DHP系カルシウム拮抗薬ニフェジピン(アダラート)などは抗不整脈作用を持たず、あくまで降圧薬や狭心症の発作予防としてのみ用いる。これらの薬剤による個性は洞結節や房室結節のCaチャネルと血管のCaチャネルとの親和性の違いで説明されている。

ベラパミル
心房細動や心房粗動のレートコントロールやPSVTの停止と予防に使用される。特発性心室頻拍のうち右脚ブロックと左軸偏位型のものはベラパミル感受性であることが知られており、リドカインではなくベラパミル投与で停止させることができる。欧米では降圧薬として使用されているが、日本では適応を取得していない。
ジルチアゼム
古典的なCa拮抗薬のうちベラパミルとジルチアゼムが抗不整脈作用のあるCa拮抗薬として知られており海外では汎用されている。アムロジピンが登場する以前はCa拮抗薬と言えばニフェジピンジルチアゼムベラパミルの3つが主流であった。ジルチアゼムはニフェジピンとベラパミルの中間的な性格を持っている。すなわち降圧効果、冠スパズム防止効果(狭心症治療)と徐脈効果をもっている。降圧効果はアムロジピンに劣るが、徐脈効果はアムロジピンよりも強いため心拍数の高い高血圧患者の治療を1剤で行いたいとき、あるいは心筋酸素消費量を抑制し冠スパズム予防効果に優れることから狭心症(特に冠スパズム)の第一選択薬に用いられる。国内ではベラパミルに比べて頻拍性不整脈には汎用されていないが、心抑制作用が少なく、心抑制をきたしたくない場合などのPSVT治療に用いる。心房細動に対しリズムコントロールと比較検討したAFFIRM試験では、レートコントロール群の3割以上の症例に使用されていた。
ベプリジル
アミオダロンと同様にマルチチャネル遮断薬のため、他のCa拮抗薬とは扱い方が大きく異なる。多剤併用でコントロール不能である心房細動などに用いられることが多い。あくまでも他剤で無効であったら用いる薬物であり、200mg/dayを超えて投与されることはあまりない。

ヴォーン・ウイリアムズ分類に含まれない抗不整脈薬(V群)

ATP

ATP(アデホス)は脱リン酸化を経てアデノシンとして作用する。房室伝導を強力に抑制するため、房室結節を回路に含む頻拍はすべて停止させることができる。とくに発作性上室性頻拍(PSVT)ではよく用いられる。半減期が10秒であるために急速に静注する必要がある。気管支攣縮や冠動脈攣縮を起こす可能性があるため、気管支喘息の患者や虚血性心疾患の患者には用いない。ジピリダモール(ペルサンチン)が投与されていると効果が遷延するので注意が必要である。約20%の患者に胸部の不快感が出現することがある。ATP5mgを生理食塩水で希釈し5mLとし、1秒間で投与する。ATP5mgでは効かないことがほとんどであるので、3分後にATP10mgを生理食塩水で希釈し5mlとし、1秒間で投与する。無効ならば20mgまで行う。大抵は10mgでPSVTは停止する。カルシウム拮抗薬と異なり陰性変力作用は認めないため血圧低下時には非常に使いやすい。ただしPSVTの停止はできてもその後の再発予防効果は期待できない。βブロッカーよりはベラパミルの方が陰性変力作用が弱いため、再発予防にはベラパミルを用いることがある。

シシリアン・ギャンビット分類

1990年、イタリアのシシリー島で開かれたSicilian Gambit会議で提唱された分類がシシリアン・ギャンビット分類(Sicilian Gambit分類)である。これは抗不整脈薬を活動電位ではなくイオンチャネル、ポンプ、受容体に対する作用で分類しようという概念である。この分類を用いることで不整脈のマネジメントは不整脈を心電図や身体診察で診断し、診断された不整脈の機序に基づいて標的となる蛋白質を同定し、それに対する薬物療法を用いるという論理的なアプローチが可能となることを目標としている。考え方としては非常によいのだが、でき上がった分類は抗不整脈薬の性質のデータベースのようなものであり非専門医には扱いにくいものとなってしまった。

Sicilian Gambit 分類(2009年版ガイドライン)
薬剤 VW
分類
イオンチャネル 受容体 ポンプ 臨床効果 心電図所見
Na Ca K If α β M2 A1 Na-K
ATPase
左室
機能

調律
心外
PR QRS JT
リドカイン Ib L M
メキシレチン Ib L M
プロカインアミド Ia HA M H
ジソピラミド Ia HA M L M ↑↓
キニジン Ia HA M L L M ↑↓
プロパフェノン Ic HA M L
アプリンジン Ib HI L L L M
シベンゾリン Ia HA L M L L
ピルメノール Ia HA M L L ↑→
フレカイニド Ic HA L L
ピルシカイニド Ic HA L
ベプリジル IV L H M L
ベラパミル IV L H M L
ジルチアゼム IV M L
ソタロール III H H L
アミオダロン III L L H M M H
ニフェカラント III H L
ナドロール II H L
プロプラノロール II L H L
アトロピン V H M
ATP V G L
ジゴキシン V G H H
遮断作用の相対的な強さ
L:低、M:中、H:高、G:アゴニスト
添字
A:活性化チャネルブロッカー、I:不活性化チャネルブロッカー



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