心臓ペースメーカー 電磁波・医療機器の影響

心臓ペースメーカー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/11 09:45 UTC 版)

電磁波・医療機器の影響

一般機器の影響

一般生活で使用される機器の電気化・電子化・ワイヤレス化に伴い、これらの機器からの電磁波が人体や植込み型心臓ペースメーカーシステムに到達する機会は増えてきている。

ペースメーカー使用者進入禁止マーク

一般生活で使用または接近する可能性のある機器のうち、厚生労働省・総務省・日本不整脈デバイス工業会より植込み型心臓ペースメーカーへの電磁波の影響について注意喚起されている機器の例として、以下のようなものがある[3][4][5][6][7][8][9][10][11][12][13][14][15][16]

など

また現在普及が進んでいる電気自動車やプラグインハイブリッド自動車の充電に用いられる急速充電器から発せられる電磁波が影響を与えることも懸念されている[17]

2010年(平成22年)の総務省の調査では、携帯電話やPHSの発する電波は、ペースメーカーの動作には大きな影響が見られないことが発表された。ただし、旧型の携帯電話端末や心臓ペースメーカーが使用されている可能性を踏まえ、「携帯電話端末の使用及び携行に当たっては、携帯電話型端末を植え込み型心臓ペースメーカー装着部位から22cm以上離すこと」とした、 1997年度(平成9年度)の指針は現在でも妥当であるとしている[18]

2013年(平成25年)1月、総務省は距離指針を改正し、15cmに緩和し、「満員電車などでは電源を切るよう配慮することが望ましい」という1文を削除した[19][20][21]

2G携帯電話では影響が考えられたが、3GLTEではほとんど影響がない[注釈 1]とされたことを受け、2014年(平成26年)7月、関西地区の私鉄とJRでは携帯電話電源オフ規制は「混雑時、優先席付近だけ」とした。2015年(平成27年)10月、東日本旅客鉄道(JR東日本)をはじめとする東日本地方の鉄道各社も、「車内での通話は控え、混雑時のみ電源を切る」方針に改めた[22]

東京女子医大循環器内科臨床教授の庄田守男は、規制が正しい理解を妨げるとしている[23]

過去には以下のような事例がある。

  • 1996年(平成8年)と1997年(平成9年)に、不要電波問題対策協議会(現:電波環境協議会)が「医用電気機器への電波の影響を防止するための携帯電話等の使用に関する指針」が公表され、この中で協議会が収集したデータに基づく暫定指針として、「携帯電話はペースメーカー装着部位から22cm以上離すことが望ましい」とされた[24][25]
  • 2000年(平成12年)に電波産業会が総務省からの委託調査の結果として「ペースメーカーと携帯電話を22cm以上離すこと」は妥当であるとして発表[26]
  • 2003年(平成15年)頃まで公共交通機関等でもペースメーカーへの影響を理由とした携帯電話使用の制限に関するアナウンスが行われていたが、現在は「ペースメーカー」という言葉は削除され、マナーを重視したアナウンスがなされている。

医療機器の影響

MRI

従来ペースメーカー植込み患者に対してはMRI検査は避けるべき、あるいは原則禁忌とされていたが、一定の条件を満たした場合にMRI検査が可能となる条件付きMRI対応 (MR Conditional[27]) に分類される植込み型心臓ペースメーカーが2008年にCEマークを取得し臨床使用されている。

日本では2012年に条件付きMRI対応に分類される植込み型心臓ペースメーカーが薬事承認を受け、2012年10月より使用が開始されている[28]。日本においては、従来の心臓ペースメーカーおよびリードも含め、体内にMRI対応していない植込み機器がある場合にはMRI検査は原則禁忌となっている。またハードウェアとしての構成が条件付きMRI対応であっても、MRI検査時期において患者・ペースメーカー・MRI検査様式等のパラメータが規定条件をクリアしていなければ、従来のペースメーカーと同様にMRI検査は原則禁忌となる。2013年5月時点において条件付きMRI対応ペースメーカーは複数のメーカーのものが日本で薬事承認・使用されているが、MRI撮像部位や撮像時間等が限定されるものやされないものがあり、MRIへの適応度合は一律ではない。

CT

X線CT検査により植込み型心臓ペースメーカーでオーバーセンシングが起きる可能性が指摘され、2005年に厚生労働省よりすべてのペースメーカーに対する製品添付文書の改訂指示が出されている[29]。指示によれば、CT検査でのX線束がペースメーカー本体部分を走査するのに要する時間に注目しており、5秒以内であれば特別な対応を必要としていない。この事象はCT装置からのX線束がペースメーカーにとって強弱のあるパルス状のエネルギーとして到達することで起き得る現象であり、原理上は現在流通している植え込み型ペースメーカーであれば普遍的に起き得るが、現在使用されている多くのCT装置の性能では、CTが本体上を走査するのに5秒以上かかるケースはごく稀である。

X線

被検査者の放射線被曝量を低減するために、近年のX線診断装置では断続的なパルス状にX線を照射する方式が選択できる。2009年にこのパルス状X線照射により植え込み型心臓ペースメーカーにオーバーセンシングが起きたケースが確認され、同年に厚生労働省よりすべてのペースメーカーに対する製品添付文書の改訂指示が出されている[30]。指示ではパルス状X線照射がペースメーカー本体部にかからないように注意を喚起している。


注釈

  1. ^ 3Gでは3cm以上離れれば問題がない。通常より過酷な条件で1.5cmで生命に影響のない変化が認められている。

出典

  1. ^ Bernstein A, Daubert J, Fletcher R, Hayes D, Lüderitz B, Reynolds D, Schoenfeld M, Sutton R (2002). “The revised NASPE/BPEG generic code for antibradycardia, adaptive-rate, and multisite pacing. North American Society of Pacing and Electrophysiology/British Pacing and Electrophysiology Group”. Pacing Clin Electrophysiol 25 (2): 260–4. PMID 11916002. 
  2. ^ a b Bernstein A, Camm A, Fisher J, Fletcher R, Mead R, Nathan A, Parsonnet V, Rickards A, Smyth N, Sutton R (1993). “North American Society of Pacing and Electrophysiology policy statement. NASPE/BPEG defibrillator code”. Pacing Clin Electrophysiol 16 (9): 1776–80. PMID 7692407. 
  3. ^ 使用上の注意 (PDF) - 一般社団法人日本不整脈デバイス工業会
  4. ^ IH式電気炊飯器等による植込み型心臓ペースメーカ、植込み型除細動器及び脳・脊髄電気刺激装置(ペースメーカ等)への影響について– 医薬品・医療機器等安全性情報185, 厚生労働省
  5. ^ 電波の医用機器等への影響に関する調査結果-ワイヤレスカードシステム等が植込み型医用機器へ与える影響について確認 - 2002年度調査結果, 総務省
  6. ^ ワイヤレスカードシステム等から発射される電波による植込み型の医用機器(心臓ペースメーカ及び除細動器)への影響について– 医薬品・医療機器等安全性情報190, 厚生労働省
  7. ^ 万引き防止監視及び金属探知システムの植込み型心臓ペースメーカ、植込み型除細動器及び脳・脊髄電気刺激装置への影響について– 医薬品・医療機器等安全性情報155, 厚生労働省
  8. ^ 電波の医用機器等への影響に関する調査結果(電子商品監視機器、無線LAN機器等が植込み型医用機器へ与える影響について確認)- 2003年度調査結果, 総務省
  9. ^ 盗難防止装置及び金属探知器の植込み型心臓ペースメーカ,植込み型除細動器及び脳・脊髄電気刺激装置(ペースメーカ等)への影響について– 医薬品・医療機器等安全性情報173, 厚生労働省
  10. ^ 盗難防止装置等による電波の医用機器への影響– 医薬品・医療機器等安全性情報203, 厚生労働省
  11. ^ 植込み型心臓ペースメーカ及び植込み型除細動器(いわゆるスマートキーシステムとの相互作用)– 医薬品・医療機器等安全性情報224, 厚生労働省
  12. ^ 電波の医用機器への影響に関する調査結果(新たな方式の携帯電話端末及びRFID機器が植込み型医用機器へ与える影響について確認)- 2004年度調査結果, 総務省
  13. ^ 新方式携帯電話端末及びRFID機器による植込み型医用機器(心臓ペースメーカ及び除細動器)への影響について– 医薬品・医療機器等安全性情報216, 厚生労働省
  14. ^ UHF帯RFID機器及び新方式携帯電話端末の心臓ペースメーカ等の植込み型医療機器へ及ぼす影響について – 医薬品・医療機器等安全性情報237, 厚生労働省
  15. ^ 電波の医療機器への影響に関する調査結果(携帯電話(1.7GHz帯)及び電子タグシステム(950MHz帯)の電波が植え込み型医療機器へ与える影響の確認)- 2006年度調査結果, 総務省
  16. ^ WiMAX方式の無線通信システム端末から発射される電波による心臓ペースメーカ等の植込み型医療機器に及ぼす影響に関する調査結果 - 2010年度調査結果, 総務省
  17. ^ 電気自動車の充電器による植込み型心臓ペースメーカ等への影響に係る使用上の注意の改訂について
  18. ^ 携帯電話端末による心臓ペースメーカ等の植込み型医療機器への影響に関する調査結果 - 総務省
  19. ^ 各種電波利用機器の電波が植込み型医療機器へ及ぼす影響を防止するための指針 総務省 平成26年(2014年)5月
  20. ^ 平成25年度電波の医療機器等への影響に関する調査結果及び当該結果に基づく「各種電波利用機器の電波が植込み型医療機器へ及ぼす影響を防止するための指針」の改訂 総務省 平成26年5月23日
  21. ^ 「電波の医療機器等への影響に関する調査」報告書 総務省 平成26年3月
  22. ^ 優先席付近における携帯電話使用マナーを「混雑時には電源をお切りください」に変更します
  23. ^ 電車内携帯オフは日本だけ…「電波は危険」誤解も 産経新聞 2014年(平成26年)8月29日付。
  24. ^ 不要電波問題対策協議会の作成した「医用電気機器への電波の影響を防止するための携帯電話等の使用に関する暫定指針」について – 医薬品等安全性情報第137号, 厚生省(現 厚生労働省), 平成8年5月1日
  25. ^ 医用電気機器への電波の影響を防止するための携帯電話端末等の使用に関する指針 – 1997年, 不要電波問題対策協議会
  26. ^ 電波の医用機器等への影響に関する調査研究報告書 – 2001年3月, 社団法人電波産業会
  27. ^ American Society for Testing and Materials (ASTM) International, Designation: F2503-05. Standard Practice for Marking Medical Devices and Other Items for Safety in the Magnetic Resonance Environment. ASTM International, West Conshohocken, PA, 2005.
  28. ^ メドトロニック製品情報ページ
  29. ^ X線CT装置等と植込み型心臓ペースメーカ等の相互作用に係る「使用上の注意」の改訂指示等について - 厚生労働省通知, 平成17年11月25日,医政総発第1125001号 薬食安発第1125001号 薬食機発第1125001号
  30. ^ X線診断装置等と植込み型心臓ペースメーカ等の相互作用に係る「使用上の注意」の改訂指示等について -厚生労働省通知, 平成21年9月24日, 医政総発0924第3号、薬食安発0924第5号、薬食機発0924第4号





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