子宮頸癌 子宮頸癌の概要

子宮頸癌

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/11 15:03 UTC 版)

発生頻度は発展途上国ほど高い。発症は20代から40代で高い。主な原因に、性交によって感染するヒトパピローマウイルス (HPV)の感染がある。持続感染が起こる場合があり、子宮頸癌のリスクを上昇させる。子宮頸癌の人々の87.4%に、HPVの感染が確認されている。そのため、海外ではHPVワクチンが接種されている[2]。HPVが感染していても除染をせずに、性交を続けてゆくと、相手にも感染させて仕舞い、パートナーの陰茎癌の原因にも成り得る。

5年生存率は、日本産科婦人科学会婦人科腫瘍委員会の統計で、ステージI期で92.1%、Ⅱ期で74.2%、Ⅲ期で52.0%、Ⅳ期で29.8%となっている [3]

妊娠適齢期に子宮を取り除く手術もあることや若い母親世代の死因となるため、HPVは『マザーキラー(Mother killer)』とも呼ばれている。2021年時点でHPVワクチン接種率の低い日本では毎年約3000人が子宮頸癌で死亡している(2018年診断数10,978例、2019年死亡数2,921人)[4][5][6][7][8]

概要

2004年における10万人毎の子宮頸癌による死亡者数(年齢標準化済み)[9]
  データなし
  2.4人以下
  2.4人から4.8人
  4.8人から7.2人
  7.2人から9.6人
  9.6人から12人
  12人から14.4人
  14.4人から16.8人
  16.8人から19.2人
  19.2人から21.6人
  21.6人から24人
  24人から26.4人
  26.4人以上

2007年の世界保健機関 (WHO) の報告では、全世界で年間約50万人に子宮頸癌が発生し、約27万人が死亡していると推定されている。子宮頸癌の発生頻度は、アフリカ、南アジア、東南アジア、中南米、カリブ海沿岸地域で高い[2]

2018年に日本産科婦人科学会が発表した資料によれば、日本の1年間の子宮頸癌の罹患者数は約1万人で、死亡者数は約2,800人である[10]

年齢別罹患率

年齢別にみた子宮頸癌罹患率は、20歳代後半から40歳前後まで増加した後、横ばいになる[11]。近年の日本の子宮癌全体の罹患者数の推移では、39歳以下で罹患者数の増加が認められる(39歳以下の子宮癌のほとんどは子宮頸癌で、子宮体癌の大部分は40歳以降に発生する)。 また39歳以下では、子宮頸癌は乳癌の次に罹患率が高い。

主な死亡層は高齢者となる。イギリスの2010-2012年の死亡データからは、25歳未満の子宮頸癌による死亡は年7人であるが、65歳以上では同449人となり、この層が全年齢層の半分以上を占める[12]。日本のデータでは特に80歳前後でピークの死亡者数となる[2]。 

治療

ほかの部位の癌よりは早期発見で医療措置を受ければ生存率が高い[13]。進行は他の癌より遅く、早期で子宮頸癌を治療すれば95%の生存率、それ以前の状態では生存率は100%に近いとされる[14]

転移

2021年1月、国立研究開発法人国立がん研究センターは、出産直後の乳児が母親の子宮頸癌の癌細胞が混じった羊水を肺に吸い込むことによって、母親の子宮頸癌の癌細胞が子どもの肺に移行して小児での肺癌を発症した2事例を発表した[15]。1組目の男児は免疫療法薬で治療できたが、2組目の男児は手術で肺癌を切除した。母親2人は出産後や出産時に癌と診断され、その後死亡したと報道されている[16]

原因

最大の危険因子は一部の型のヒトパピローマウイルス (HPV) の感染である。続いて喫煙であり[17]、他にも様々な原因が関与する[18]

ヒトパピローマウイルス

ヒトパピローマウイルスの16型と18型が、世界の子宮頸癌の原因の75%を占め、31型と45型では10%を占める[19]

日本では子宮頸癌の人々の87.4%に、あらゆる型のHPVの感染が確認されている[2]。信頼性の高いPCR/シークエンス法による調査では、16型18型は子宮頸癌のほぼ50%から検出されている[2]。好発部位は扁平上皮化発生領域であり扁平上皮化癌が約90%である[1]。子宮頸部扁平上皮癌はヒトパピローマウイルスという腫瘍ウイルスの感染が原因で引き起こされる。

HPVには100以上もの種類があり、皮膚感染型と粘膜感染型の2種類に大別される。子宮頸癌は、粘膜感染型HPVの中でも高リスク型HPVと呼ばれている性交渉によって感染する一部のHPVが長期間感染することによって引き起こされる。が、性交経験がなくても発症はある。

高リスク型に分類されるHPVの型は16, 18, 31, 33, 35, 39, 45, 51, 52, 56, 58, 59, 68, 73, 82である[20]

HPVに感染しても多くの場合は、免疫によってHPVが体内から排除される。HPV感染の大半は2年以内に自然消失するが、免疫が誘導されにくいため、何度でも感染する。約10%の人では感染が長期化(持続感染化)する。HPVが持続感染化するとその一部で子宮頸部の細胞に異常(異形成)を生じ、さらに平均で10年以上の歳月の後、ごく一部(感染者の1%以下)が異形成から子宮頸癌に進行する。

HPVによって引き起こされる他の疾患としては、尖圭コンジローマ疣贅がある。このほかHPV感染者とのオーラルセックスなどに起因して口腔癌のリスクを高めるとの報告がある。

喫煙

現行あるいは過去の喫煙者では、浸潤性の子宮頸癌のリスクが2倍から3倍であり、受動喫煙ではリスクの増加に関連するがその度合いは低い[21]

ほか

経口避妊薬を5年から9年間使用していた場合に、リスクの約3倍と関連し、10年以上では約4倍である[21]

既にHPVに感染している場合に、妊娠したことのない女性に比較して、1回から2回の満期妊娠を経験している場合に2倍から3倍である[21]


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  18. ^ Stuart Campbell; Ash Monga (2006). Gynaecology by Ten Teachers (18 ed.). Hodder Education. ISBN 0-340-81662-7 
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