交響曲第3番 (ブルックナー) 自筆譜の行方

交響曲第3番 (ブルックナー)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/02/01 13:55 UTC 版)

自筆譜の行方

交響曲第3番の自筆譜は、上述の2台ピアノ編曲作業を手伝った経緯から、マーラーが所持していた。マーラーの夫人アルマは、アルマ自身とマーラー、3度目の夫ヴェアフェルのいずれもユダヤ人の出自であったことと、ナチスがブルックナーの音楽を(ワーグナーと同様に)政治利用していたため、ナチスから所持品を没収されることを憂い、マーラーの遺品のトランクの中からこのブルックナーの交響曲第3番の自筆譜を見つけ出し、1939年にアメリカへ密輸した後、戦後オークションにかけた[4]

出版の経緯

1878年および1890年、レティッヒ社から「初版」が出版された。前者は1877年稿を、後者は1889年稿を基にしているが、弟子の校訂が加わっているとも言われる。

ローベルト・ハース主導の国際ブルックナー協会の第1次全集編纂においては、この第3交響曲の校訂譜を残せないままハースが失脚し、主幹校訂者がレオポルト・ノヴァークに移ることとなった。ただしその際、ハース校訂譜の版権が東ドイツに残った関係から、戦後フリッツ・エーザーが東ドイツにて、ハースの意志を受け継いでこの第3交響曲の校訂を行った。これは「エーザー版」と呼ばれ、通常、第1次全集の範疇に含められる。この楽譜はヴィースバーデンのブルックナー出版から出版された(1950年)が、現在絶版である。このエーザー版は、第2稿を元に校訂していた。

国際ブルックナー協会の校訂作業がノヴァークに代わった後、ノヴァーク校訂によるこの曲の楽譜が次々と出版された。まず1959年に、第3稿に基づくノヴァーク版が出版された(ノヴァーク版第3稿)。つづいて1977年にノヴァーク版第1稿、1980年にはアダージョ第2番、さらに1981年にノヴァーク版第2稿が出版された(アダージョ第2番は1876年に作曲されたと思われる、緩徐楽章の異稿であり、第1稿と第2稿の中間段階のものと思われる)。ノヴァークの死後レーダーが1995年に校訂報告書を出版し、異稿問題は一応の学問的決着をみた。

各稿・版の評価

第2稿をもとにしたエーザー版とノヴァーク版第2稿は、本質的には同一のものであるが、エーザーは1878年の出版の際の指示を一部採用している。大きな相違は第3楽章のコーダであり、エーザーは「印刷しない」の指示を採用し、これをスコアには含めてない。ノヴァーク版ではそのままスコアに含めている。

第3稿をもとにしたノヴァーク版第3稿と初版は、本質的には同一のものであるが、後者は表情付けなど細かい指示が随所でなされている。たとえば第1楽章の100小節目の木管の和音は、ノヴァーク版第3稿では単なる延ばしの和音だが、初版ではcresc.が付記され、次のヴァイオリンの旋律への布石にもなっている。

第1稿には、ワーグナーの楽劇の旋律の引用が随所に見られたが、第2稿・第3稿と改訂が進むにつれ、引用箇所は削除されていった。また終楽章で、第1稿では先行3楽章の主題が全て回想されるが、第2稿では第1楽章の回想のみ、第3稿では回想がなされない。その他、第1稿では、第2稿以降に比べると、主題・旋律に要する小節数が不均等である(交響曲第4番の第1稿においても、同様の傾向がみられる)。

概して、第3稿の完成度の高さを評価する演奏者が多く、実際の演奏でも、ノヴァーク版第3稿が使用されることが多い。ただし、第2稿・第1稿の方に評価を与え、これらを使用する指揮者も少なくない。第3稿については、音楽の展開が晩年のブルックナーのスタイルになってしまっており(特に第1楽章)、第2稿の方が、この曲の主題や楽想にふさわしいとの評価もある。第1稿については、「未整理」「冗長」と評されることも多いが、逆に「革新的」という視点で捉える指揮者もいる。

楽器編成

フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、ティンパニ弦五部


  1. ^ 『ブルックナー交響曲』ハンス=ヨアヒム・ヒンリヒセン、高松佑介 訳、春秋社 2018年
  2. ^ p. 97に写真掲載
  3. ^ Anton Bruckner Gesamtausgabe Briefe 1852-1886 p. 144 (Musikwissenschaftlichter Verlag Der Int. Brucknergesellschaft Wien)
  4. ^ Paul Kildea, Benjamin Britten: A Life in the Twentieth Century, p. 166
  5. ^ 『作曲家◎人と作品シリーズ/ブルックナー(音楽之友社)』より


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