ベラルーシ 軍事

ベラルーシ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/26 15:33 UTC 版)

軍事

国境をパトロールする兵士

陸軍及び空軍・防空軍の二軍からなる国軍を有する。ベラルーシ国防省の管轄下にあり、大統領が最高指揮官となる。この他に準軍事組織として、内務省のベラルーシ国内軍ベラルーシ国家国境軍委員会がある。ロシアを中心とした集団安全保障条約に加盟しており、北大西洋条約機構(NATO)には加盟していないが、アフガニスタンへの国際治安支援部隊(ISAF)展開を支援するなど、部分的には協力を行っている。

国軍は1991年の独立に伴い、旧ソ連軍を改編して創設された。

地理

ベラルーシは内陸国で、国土の大部分が低地であり、最高点のジャルジンスカヤ丘陵でも海抜345mである。最低点はネマン川の海抜90mである。国土の20%を占めるなど湿原が豊富で、南部に最大の湿原であるポレーシエ湿地がある。約1万1000もの湖があり、それを突き通すように、北部を通るダウガバ川、西部を通るネマン川、東部を通るドニエプル川とその支流であるプリピャチ川ベレジナ川ソジ川などの主要河川がある。気候はおおむね温暖で湿度が高いが、東部は冷涼で、大陸性気候の特徴が見られる。

ベラルーシの主な天然資源は森林で、国土の45.3%もの面積を占めている。その他に泥炭花崗岩泥灰岩チョークが採れる。少量の石油天然ガスも産出されるが、国内需要を満たす規模ではなく、エネルギー資源の大半をロシアからの輸入に依存している。

地方行政区分

主要都市

経済

国際通貨基金(IMF)の統計によると、2018年のベラルーシの国内総生産(GDP)は596.43億ドルである。一人あたりのGDP(為替レート)は6,283ドルで、バルト三国を除く旧ソ連構成国の中では、ロシア(11,289ドル)、カザフスタン(9,401ドル)についで3番目であり、隣国ウクライナ(3,112ドル)の約2倍である。[17]

1991年の独立後、他のCIS諸国と同様に市場経済化を推進していた。しかし、1995年に大統領に就任したルカシェンコは、「社会主義市場経済」を導入して社会主義政策を開始した。これに基づき、統制価格の導入や、政府による民間企業への介入により自国の製造業の保護に努める傍ら、ロシアと関税同盟を結ぶなどの経済統合政策により、経済成長を実現させた。しかし、1998年8月に発生したロシア財政危機に伴い、1998年から1999年の2年連続で悪化し、激しいインフレーションや生産の低下に見舞われた。2000年1月1日にはデノミネーションが実施された。以降はロシア経済の急速な回復に支えられ順調な経済成長を続けているが、2016年7月には再びデノミネーションを実施している。

対露経済統合はロシア側に政治、経済的に大きく左右される事、ベラルーシ側に大幅な貿易赤字をもたらすなど問題があり、近年はロシアに自国の産業が脅かされるとの警戒感から、経済統合政策は事実上停滞している。ただ、当分の間ベラルーシは西欧型の市場経済からは離れ続けると見られているが、2011年に入り、国内の経済状況が極度に悪化しており、ロシアがベラルーシの吸収合併へ向けた動きを加速させている。

2009年5月29日、ロシアのアレクセイ・クドリン財務相は、ベラルーシが近い将来支払不能(すなわち破産)に陥るとの見方を示した。これは、ベラルーシが市場改革を行わず、ソ連型社会主義体制のままであることによる。天然資源にも乏しく、国家財政の基盤となるものが脆弱なのにも関わらず、ルカシェンコ個人の趣味であるアイスホッケー場を多数建設させたり、食品や生活用品の価格に税金をかけず、逆に国の補助金で安く抑えたりするなどの放漫財政を行っている。ただ、こうした政策を行っているからこそ、ルカシェンコによる独裁体制が支持されているという側面もあった。ルカシェンコ大統領は体制維持のためロシアと欧州連合(EU)を天秤にかけ、双方から経済支援を引き出すしたたかな外交を展開していた。しかし、この手法も2010年代に入ると、もはや通用しなくなった。

まず、2010年6月21日より、ロシアのガスプロム天然ガスの代金未払いを理由にベラルーシへのガス供給の削減を開始した。しかし今度はベラルーシがガスプロムに対して「欧州向け天然ガスにおけるパイプラインの通過料が未払いであり、翌日(24日)の朝までに支払われなければ、欧州向け天然ガスの供給を全面的に停止する」と警告をした。これにより、『欧州を含めた、新たな天然ガス供給に関する紛争』が生じ、ルカシェンコ大統領は「ロシアとの間でガス戦争が始まった」と発言したが、6月24日にベラルーシ側が未払い代金を支払い、ガス戦争は早々と終結した。しかし、ベラルーシとロシア間で強いわだかまりが残る結果となった。

そして、2010年12月にルカシェンコが四選を果たした直後から、2009年のロシアのクドリン財務相の予言通り、ベラルーシが経済危機に陥った。ロシア産石油・天然ガスの価格引き上げと、先述したバラマキ放漫財政に耐えられず、外貨準備が底をついている。ベラルーシ各地の両替所では外貨を求める人々の長蛇の列ができ、物価高騰を恐れる庶民は商品買い占めに走った。ロシア側はベラルーシの国営企業売却などを求め、これによりベラルーシのインフラを掌握し、また、通貨をロシアルーブルにすべきだという意見も出て、ベラルーシをロシアに事実上吸収合併しようとする動きを強めた。過去に「ロシアに泣きついて頭など下げない」(ロシアの経済支援棚上げについて)などといった強気の発言を繰り返してきた、「ヨーロッパ最後の独裁者」と呼ばれているルカシェンコ大統領は崖っぷちの状況に陥った。この状態を打破するには、ルカシェンコが採用していたソ連型社会主義経済から、完全な市場経済社会へ向けた痛みを伴う大掛かりな改革が必要であると指摘された[18]

紆余曲折の末、ルカシェンコ大統領がロシア主導の「ユーラシア連合」への参加を表明し、その見返りにロシアは天然ガスを特別割引価格で提供、また、ガスパイプラインをロシアが買い取る協定が結ばれ、ベラルーシ経済がロシアに掌握された格好となった。

だが、国営企業で働く従業員の賃金未払いや工場の操業停止など、深刻な経済状況は依然として続き、更に、ロシアは国営企業民営化の遅れなどを理由にベラルーシへの資金援助を2013年に打ち切った。崖っぷちのルカシェンコ大統領は中華人民共和国へ急接近し、中国との間で15億ドルの経済投資協定を締結。中国は欧州進出の足掛かりを得て、ベラルーシは財政破綻を回避できた[19]。同時期には蘇州工業園区に倣った中国-ベラルーシ工業園区英語版も開設され、これによりベラルーシの軍事パレードでは中国の紅旗がパレードカーになって中国人民解放軍もベラルーシ軍とともに行進し[20][21]、中国製武器の購入[22][23]弾道ミサイルを共同開発[24][25] するなど経済的にも軍事的にも密接な関係が続いている。

色と面積で示したベラルーシの輸出品目(2009年)

ベラルーシの鉱業は、原油、天然ガス、ソリゴルスクで採掘される岩塩(カリ塩 KCl)に限定されている。原油だけは自国内の消費量の数割を賄える。農業では、類の生産に向く気象条件から世界第4位(150万トン、2002年)のライ麦を筆頭に、大麦燕麦の生産が盛ん。春小麦の栽培も見られる。工芸作物としては世界第5位(3万2000トン)の亜麻の生産が際立つ。工業は繊維業、化学工業(肥料)が盛ん。生産量は世界第4位(8万トン)で、カリ塩の採掘に支えられたカリ肥料生産は世界第3位(369万トン)となっている。硝酸の生産量は世界第8位(88万トン)。

第三次産業では、理工系教育を重視していた旧ソ連時代からの伝統で、情報技術(IT)分野の人材が豊富である。『World of Tanks』(WOT)を開発したウォーゲーミング社は1998年にベラルーシで創業した(法人登記を2011年にキプロスへ移した後も本社機能はミンスクにある)。ベラルーシ政府は2005年にIT企業への税制優遇プログラムを導入し、Viberなどを生み出した。ルカシェンコ大統領は2017年にデジタル産業育成令を発布した[26]

ルカシェンコ独裁体制下で司法の独立が欠如していることから、企業が政府から不当な圧力を受け、特に破綻に追い込まれる問題が存在している[26]。一方、ルカシェンコの統治の下ではロシアやウクライナのように、国有企業の民営化の結果として巨大な影響力を持つオリガルヒが出現していないため、財界から政界への干渉や政財界の癒着が少ない[27]

貿易

2002年時点では輸入90億ドルに対し、輸出は81億ドルであり、わずかに入超である。主な輸入品は原油、機械類、鉄鉱。輸入相手国は、ロシア、ドイツ、ウクライナである。ロシアとの取引が65%を占める。主な輸出品は、石油製品、自動車、機械類であり、輸出相手国はロシア、ラトビアイギリスである。輸出ではロシアの占める割合は50%に留まる。日本との貿易では、乳製品を輸出(全体の44%)し、無線通信機器を輸入(全体の35%)している。

ベラルーシ原子力発電所

北西部フロドン州オストロベツ郊外に、ロシア国営原子力企業ロスアトム系列のアトムストロイエクスポルトが建設したベラルーシ原子力発電所が2020年11月に完成した。ベラルーシ初の原発である。加圧水型軽水炉2基(出力合計240万キロワット)を備える。ベラルーシの電力需要の30%を賄えるが、原発建設と100億ドルの費用の融資をロシアに頼ったため、エネルギーのロシア依存を減らすことにはならなかった。1号機は2021年、2号機は2022年に商業運転開始を予定しているが、近接するリトアニアは安全性を懸念しており、同国を含むバルト三国は2020年8月末、ベラルーシとの電力取引を原発稼働後は停止することで合意した[28]


  1. ^ a b UNdata”. 国連. 2021年10月10日閲覧。
  2. ^ a b c d World Economic Outlook Database, October 2021” (英語). IMF (2021年10月). 2021年11月4日閲覧。
  3. ^ a b c 服部倫卓、越野剛編著『ベラルーシを知るための50章』明石書店〈エリア・スタディーズ〉、2017年、58-59頁。ISBN 978-4-7503-4549-9
  4. ^ 伊東孝之、井内敏夫、中井和夫 編『世界各国史20 ポーランド・ウクライナ・バルト史』(山川出版社、1998年)p110
  5. ^ *J. P. Mallory, "Zarubintsy Culture", Encyclopedia of Indo-European Culture, Fitzroy Dearborn, 1997.
  6. ^ Kazakov V.S., Demidchik E.P., Astakhova L.N. et.al., Thyroid Cancer after Chernobyl, Nature 359, 21-22, 1992
  7. ^ 「統合迫るロシア ベラルーシ反発/プーチン氏 資源輸出で揺さぶり/両首脳、作業部会設置は合意」東京新聞』朝刊2019年1月13日(国際面)2019年1月28日閲覧。
  8. ^ 「ベラルーシ下院選、大統領系が全議席 ルカシェンコ氏、6選出馬へ」『読売新聞』朝刊2019年11月20日(国際面)。
  9. ^ 2011年2月3日の『朝日新聞』朝刊9面
  10. ^ “Belarus Police Stifle Protests On Independence Day”. Radio Free Europe Radio Liberty. (2011年7月3日). http://www.rferl.org/content/belarus_marks_independence_amid_crackdown_on_dissent/24254152.html 2011年7月9日閲覧。 
  11. ^ “ロシアなど3ヵ国がユーラシア経済連合条約に署名−2015年1月1日に発効、域内の経済統合が加速− (ロシア、ベラルーシ、カザフスタン)”. JETRO. (2014年6月2日). http://www.jetro.go.jp/biznews/538be118a7f80?ref=rss 2014年8月1日閲覧。 
  12. ^ ベラルーシの旅客機緊急着陸は「空の海賊行為」 アイルランド政府が非難”. AFP (2021年5月24日). 2021年6月21日閲覧。
  13. ^ 欧米諸国、ベラルーシに一斉制裁 旅客機強制着陸で”. AFP (2021年6月21日). 2021年6月21日閲覧。
  14. ^ a b c 日本放送協会. “ベラルーシ五輪選手 “スピード亡命”の舞台裏”. NHKニュース. 2021年8月10日閲覧。
  15. ^ a b 露・ベラルーシ統合強化「共通軍事ドクトリン」署名『読売新聞』長官2021年11月7日(国際面)
  16. ^ 公務員のビザ優遇停止へ”. 47NEWS (2021年9月30日). 2021年9月30日閲覧。
  17. ^ World Economic Outlook Database, October 2019” (英語). IMF (2019年10月). 2020年8月10日閲覧。
  18. ^ “「欧州最後の独裁者」ルカシェンコ大統領窮地 ベラルーシ経済危機 露、統合路線を加速”. 『産経新聞』. (2011年5月31日). http://sankei.jp.msn.com/world/news/110531/erp11053100570002-n1.htm 2011年5月31日閲覧。 
  19. ^ “中国に急接近の独裁国家ベラルーシ 「スラブの兄弟」露はいらだち”. 『産経新聞』. (2013年7月3日). http://sankei.jp.msn.com/world/news/130730/erp13073023220007-n1.htm 2013年8月3日閲覧。 
  20. ^ Independence Day parade in Minsk” (2018年7月3日). 2018年7月4日閲覧。
  21. ^ 中国のパレードカー、ベラルーシの閲兵式に登場” (2015年7月5日). 2016年8月21日閲覧。
  22. ^ ベラルーシ、中国製ロケット砲を公開” (2016年7月1日). 2018年5月7日閲覧。
  23. ^ The Belarusian Army Is Using A Lot Of Chinese Hardware” (2017年7月9日). 2018年5月7日閲覧。
  24. ^ Belarus Tests Secretive Rocket Launcher System in China” (2015年6月16日). 2017年6月22日閲覧。
  25. ^ Belarusian defence industries: doubling exports and launching ballistic missile production” (2018年4月30日). 2018年5月7日閲覧。
  26. ^ a b 「欧州最後の独裁国家ベラルーシ/下院選 110議席全勝」「IT開花 経済変革」毎日新聞』朝刊2019年11月20日(国際面)同日閲覧。
  27. ^ Are There Any Oligarchs in Belarus?” (英語). Office for a Democratic Belarus (2012年5月2日). 2021年4月28日閲覧。
  28. ^ ベラルーシ初の原発稼働へ 2021年、住民らによぎる「悪夢」隣国リトアニアも猛反発『日経産業新聞』2020年11月25日グローバル面
  29. ^ a b c d 服部倫卓、越野剛編著『ベラルーシを知るための50章』明石書店〈エリア・スタディーズ〉、2017年、122-127頁。ISBN 978-4-7503-4549-9
  30. ^ a b Population classified by knowledge of the Belarusian and Russian languages by region and Minsk City”. Belstat.gov.by. 2017年8月3日閲覧。
  31. ^ Gordon, Raymond G., Jr. (ed.), 2005. Ethnologue: Languages of the World, Fifteenth edition. Dallas, TX: SIL International. Online version: Ethnologue.com.
  32. ^ 半年無職だと「罰金3万円」を科せられる「ニート罰金法」 もし日本で制定されたら? 弁護士ドットコムニュース(2015年05月12日)2020年11月28日閲覧 ベラルーシで「社会的寄生虫税」撤回求め抗議、大統領辞任要求も ロイター(2017年3月14日)2020年11月28日閲覧 【世界ミニナビ】「社会寄生虫駆除法」成立 働かない者は罰金、拘束も 産経WEST(2015年5月26日)2020年11月28日閲覧
  33. ^ ベラルーシ大統領に「おもちゃ」で抗議、男性に有罪判決 ロイター(2012年2月23日)2020年11月28日閲覧
  34. ^ ベラルーシの「拍手デモ」を警官隊が鎮圧、「蜂起を夢想するな」と大統領 AFP(2011年7月4日)2020年11月28日閲覧
  35. ^ イグノーベル賞、日本人が7年連続受賞「タマネギを切ると涙が出る理由」「オペラでマウスが延命」ハフィントン・ポスト(2013年9月13日)2020年11月28日閲覧
  36. ^ Canadian Citizenship and Immigration – Cultures Profile Project – Eating the Belarusian Way Archived 20 March 2007 at the Wayback Machine. (1998); retrieved 21 March 2007.
  37. ^ Belarusian traditional clothing”. Belarusguide.com. 2013年4月29日閲覧。
  38. ^ Belarus – Ornament, Flags of the World”. Fotw.fivestarflags.com. 2013年4月29日閲覧。






ベラルーシと同じ種類の言葉


固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

「ベラルーシ」に関係したコラム

  • 株式の取引が行われる証券取引所の一覧

    2012年6月現在の日本の証券取引所、および、世界各国の証券取引所の一覧です。▼日本東京証券取引所(東証)大阪証券取引所(大証)名古屋証券取引所(名証)福岡証券取引所(福証)札幌証券取引所(札証)TO...

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ベラルーシ」の関連用語

ベラルーシのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ベラルーシのページの著作権
Weblio 辞書情報提供元は参加元一覧にて確認できます。

  
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのベラルーシ (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2022 GRAS Group, Inc.RSS