フォスファテリウム フォスファテリウムの概要

フォスファテリウム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/19 08:21 UTC 版)

フォスファテリウム
復元図
保全状況評価
絶滅(化石
地質時代
新生代 始新世初期
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
亜綱 : 獣亜綱 Theria
下綱 : 真獣下綱 Eutheria
上目 : アフリカ獣上目 Afrotheria
階級なし : 近蹄類 Paenungulata
: 長鼻目(ゾウ目) Proboscidea
階級なし : † 近ゾウ型類 Plesielephantiformes
: †フォスファテリウム科 Phosphatheriidae
: フォスファテリウム属 Phosphatherium 
Gheerbrant et al., 1996
学名
Phosphatherium escuillei
Gheerbrant et al., 1996
和名
フォスファテリウム
  • フォスファテリウム・エスキレイ
    P. escuillei Gheerbrant et al., 1996

生息時代・生息域

タイプ標本と思われる骨片
(国立自然史博物館 (フランス))

フォスファテリウムは早期始新世ヤプレシアンに北アフリカのモロッコで生息していた。化石はウルド・アブドゥン盆地から発見されており、同盆地では暁新世後期のエリテリウムや、始新世に生息していたダオウイテリウム等も見つかっており、ゾウ目の起源を探る上で重要な地層となっている[2]

発見

もともとは、化石ディーラーより軟骨魚類の歯と一緒に入手した2つの左上顎骨の欠片で、1996年に記録された。一つは第四小臼歯(dP4)と第一大臼歯(M1)の組み合わせの化石片であり、もう一つは第三・第四小臼歯(P3-4)と第一・第二大臼歯(M1-2)に加えて犬歯や第三切歯の歯槽まで揃った下顎骨片でありタイプ標本となっている。ウルド・アブドゥン盆地のリン酸塩鉱床から発掘されたものだが、化石の発見者や正確な発見場所は分かっていない。同時に見つかった軟骨魚類(サメ)の生息年代から後期暁世代(サネティアン)と推定されていた[3]

しかし、その後の2000年代の発掘でウルド・アブドゥン盆地の北東に位置するグランド・ダオウイ採掘場から頭蓋骨や下顎骨などのいくつかの化石が発見されたことで、正確な発掘地層の年代を推定することが可能となり、早期始新世のヤプレシアンに生息していたことが判明した[4]

形態

フォスファテリウムの頭骨

フォスファテリウムは中節骨と思われる骨片を除いて、頭部の化石しか見つかっておらず、ポストクラニアル(体骨格)については良く分かっていない。頭蓋の長さがおよそ 170 mm であることから、体重は 17 kg までで、肩高は 30 cm と推測されている[5]。 歯式は、上顎歯は分かっているものの下顎歯に欠損があり もしくは と考えられている[2]。 さらに頭蓋骨の形態など多数の化石による個体差が大きく、ゾウ目では比較的一般的ではあるが、フォスファテリウムも性的二形の可能性を指摘されている[6]

  • 切歯
上顎前歯列は化石が残っていないため良く分かっていない。しかし、上顎骨の歯槽からヌミドテリウム同様に第一から第三切歯(I1-I3)と犬歯が残っていたと考えられている。I2 は最も大きな上切歯であった。対して下顎切歯は2本で、他の原始的なゾウ目同様に下顎第一切歯(i1)が発達している[6]
  • 臼歯
上顎臼歯は最古のゾウ目と言われるエリテリウムよりもより進化したバイロフォドント(二稜歯)に近い形態であるが、ヌミドテリウムダオウイテリウムのような真正バイロフォドントの臼歯と比べると原始的で、両者の中間状態といえる[2]エナメル質は2層構造で、外部の放射状エナメルと内部の HSB とで構成される。より進化したゾウ目の共有派生形質である 3Dエナメルプリズムはまだ獲得していない[7]
下顎においては小臼歯は第三・第四小臼歯以外は非常に小さい歯槽しかないため、犬歯なのか第一小臼歯なのかは明確に判断できず歯式が定まっていない[6]。第二小臼歯(p2)が小さい点はヌミドテリウムを除けば本属の特徴となっている。下顎大臼歯は良く保存された標本が見つかっており、すべてはっきりとバイロフォドントである[2]
  • 頭蓋骨
フォスファテリウムは縦に細長い頭蓋骨を持っている。横から見た場合、歯列は頭蓋骨の中央部分までしかない。眼窩は前縁が第四小臼歯(P4)の上にあり、全体的に前方に位置する。頭頂部の盛り上がりとなる矢状稜英語版は頭蓋骨自体のほぼ半分に広がっている。ゾウ目の頭骨はその重量を支えるため前後方向に短く進化していくが、まだ後頭部が長く伸びる原始的な頭蓋骨の形状をしている[6]
鼻腔は大きく前方に位置し、生前の大きな鼻を示唆しているが、モエリテリウムやヌミドテリウムのものほど容量は大きくない。フォスファテリウムの頭蓋形態に鼻の証拠はないが、眼窩下孔やその下の溝は、前唇を作動させる筋肉への神経伝達の経路を意味しており、のちのゾウ類の鼻の発達の前兆となっている[2]

  1. ^ phosphorus の語源”. Onlune Etymology Dictionary. 2024年5月18日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g Evolution and Fossil Record of African Proboscidea
    Sanders (2024)
  3. ^ a b c A Palaeocene proboscidean from Morocco
    Gheerbrant et al. (1996)
  4. ^ The mammal localities of Grand Daoui Quarries, Ouled Abdoun Basin, Morocco, Ypresian : A first survey
    Gheerbrant et al. (2003)
  5. ^ Shoulder height, body mass and shape of proboscideans
    Larramendi (2016)
  6. ^ a b c d e f Nouvelles données sur Phosphatherium escuilliei (Mammalia, Proboscidea) de l'Eocène inférieur du Maroc, apports à la phylogénie des Proboscidea et des ongulés lophodontes
    Gheerbrant et al. (2005)
  7. ^ Evolution of the tooth enamel microstructure in the earliest proboscideans (Mammalia)
    Tabuce et al. (2007)
  8. ^ Stable isotope evidence for an amphibious phase in early proboscidean evolution
    Alexander et al. (2008)
  9. ^ 渡邊 誠一郎. “哺乳類の系統分類”. 名古屋大学 理学部. 2024年5月14日閲覧。
  10. ^ Anthracobunids from the Middle Eocene of India and Pakistan Are Stem Perissodactyls
    Cooper et al. (2014)


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