ヒドロ虫
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/09 19:36 UTC 版)
生活環
この類では、一般的にはいわゆる世代交代が見られる。ポリプは無性生殖により増殖し、その体の上に無性的にクラゲを形成する。クラゲは独立すると成長の後、有性生殖を行う。受精卵は孵化後に定着してポリプとなる。
ヒドロ虫綱でも分類群によってはポリプが発達しないものもある。ポリプがよく発達するものは主として花クラゲ目と軟クラゲ目、それにヒドロサンゴ目に多い。普通はヒドロ虫といえば前2者を指すと思ってまず間違いはない。
先述のように、有性生殖はクラゲでの配偶子形成によるが、クラゲの形成にはさまざまな段階がある。よく発達したクラゲを形成する種もあり、場合によってはヒドロ虫とクラゲで別の名を持つ例もある。しかし、クラゲが退化傾向を持つものがあり、ごく小さな寿命の短いクラゲしか作らないもの、あるいはクラゲの形にはなるが、独立せずに終わる例もある。さらには、ごく簡略化された形のクラゲを体の一部に作る例もあり、このような遊離しないで生殖細胞のみを作るクラゲ由来の構造を子嚢 (Sporosac) という。さらに、ヒドラなどごく一部のものではポリプの上に生殖細胞が作られるが、これも子嚢由来であるかどうかは不明である。
なお、クラゲは出芽によって形成されるが、その位置は共肉上の場合、ポリプの側面の場合、触手の内側の場合などさまざまである。特にクラゲを形成する個虫が分化している場合、これを子茎と言う。有鞘類では子茎は生殖筴におさまる。
卵は孵化するとプラヌラとなって体外に出て、基盤に定着してポリプとしての生活を始める。一部にはアクチヌラ幼生を出すものもある。
生態
ごく一部に淡水性、汽水性の種があるが、ほとんどは海産である。潮間帯から深海底に至るさまざまな場所で発見される。ほとんどはちょっと見ただけでは見つからない程度からせいぜい10cmの小型の動物で、岩や海藻の表面などに固着している。中には数十cm以上の大型になる樹枝状のもの、さらに大きなサンゴになるものもある。
食性は基本的には肉食で、触手で動物プランクトンのような小型動物を捕まえている。アナサンゴモドキは共生藻類を持ち、造礁サンゴとして生活している。また、カイヤドリヒドラなど一部に寄生性の種もある。
生きた動物に付着して生活する例もある。ウミエラヒドラやハナヤギウミヒドラは同じ刺胞動物であるウミエラやハナヤギの体に付着している。また、サカナウミヒドラはイトオコゼの体表に付着する。エダクダクラゲのポリプはニンギョウヒドラと呼ばれ、多毛類のエラコの棲管の口に棲んでいる。カニウミヒドラはタカアシガニに付着している。
貝殻上に棲むものもある。カイウミヒドラは巻き貝の1種シワホラダマシの殻の表面を覆い尽くす。タマクラゲのポリプはムシロガイの上に生活する。これらの場合、宿主との共生関係があるかどうかは不明であるが、イガグリガイの場合、ヤドカリの殻について、ヤドカリの成長と共に殻も伸ばすので、ヤドカリは宿替えの必要がなくなる。
利害
人間にとって、利となることはほとんどない。
利用される局面はほとんどないに等しい。科学上は、ヒドラがモデル生物として用いられる。また、ベニクラゲは不老不死であることが知られ、その方面で注目を浴びている。
害になる面では、一部に刺胞毒の強いものが知られる。アナサンゴモドキ類にはかなり強い毒のものがある。
北海道などでは、記録的高水温から昆布やホタテにヒドロ虫が大量に付着して商品価値が半減する被害が起きている。[1][2]
この類は、昭和天皇が強い関心を持っていた生物としても知られている。
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