ヒト免疫不全ウイルス 歴史

ヒト免疫不全ウイルス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/02 01:53 UTC 版)

歴史

1983年に、パスツール研究所リュック・モンタニエフランソワーズ・バレシヌシらによってエイズ患者より発見され「LAV」[注釈 1]と命名された。1984年に、アメリカ国立衛生研究所(NIH)のロバート・ギャロらも分離に成功しており、「HTLV-III」[注釈 2]と命名した。続いて、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のレヴィらも分離に成功し、「ARV」[注釈 3]と命名した。LAV、HTLV-IIIおよびARVは、のちにいずれも同じウイルスであることが明らかとなりHIV-1と改称され、1985年には、モンタニエらが、エイズ患者から新たな原因ウイルスを分離し、「LAV-2」[注釈 4]と命名し、LAV-2はその後HIV-2と改称された。

最初の発見者をめぐって、モンタニエとギャロの仏米の研究チームが長年にわたって対立し、1994年に両者がともに最初であるとして決着したが、長期の対立はエイズ治療薬の特許が絡むもので、治療薬の発売を遅らせないための政治的決着であった。2008年10月6日、フランスのモンタニエとバレシヌシの2人がウイルスの発見者として、2008年のノーベル生理学・医学賞を授与された。

カリフォルニア大学バークレー校教授のピーター・デュースバーグ英語版などのようにAIDSの原因がHIVであると認めないエイズ否認主義者もいるが、この考え方は科学界で否定されている[2]

起源

ヒト免疫不全ウイルス(模式図)上段:細胞から出芽直後の未成熟 (immature) なウイルス粒子。 下段:出芽後に成熟 (mature) したウイルス粒子。

ウイルスの分類上は、エンベロープを持つプラス鎖の一本鎖RNAウイルスであるレトロウイルス科レンチウイルス属に属する。以下の2つが存在する。

霊長類自然宿主とするサル免疫不全ウイルス(SIV[注釈 7])が、突然変異によってヒトへの感染性を獲得したと考えられている。ウイルスの塩基配列を比較すると、「HIV-1」はチンパンジーから分離されたSIVcpzに近く、「HIV-2」はマカクやマンガベーなどのサルから分離されたウイルスSIVmacSIVsmmに近い。以上から、SIVに感染したサルからヒトへと感染し、HIVに進化したと考えられている。「HIV-1」と「HIV-2」の基本的な遺伝子の構造はほぼ同じであるが、塩基配列の類似性は低く60%ほどであり、もっとも大きな遺伝子の相違として、「HIV-1」には vpu が、「HIV-2」には vpx がそれぞれに存在し、この相違はSIVcpzSIVsmmの間にもみられることから、「HIV-1」と「HIV-2」はそれぞれ独立した祖先から、人間に感染する能力を持ったウイルスに進化したものと考えられている。

種類

HIV-1

HIV-1は、塩基配列により以下の4つのグループに分類される。

Group M (Major)
世界的に分布しているウイルスの多くがグループMに属し、A、B、C、D、E(のちに組換え体であるCRF01_AEであることが判明。純粋なEは未発見)、F、G、H、J、Kの10のサブタイプ (CRF: circulating recombinant form) が存在し、15種類が確認されている。日本での感染者の主なサブタイプは、サブタイプBとCRF01_AEであり、サブタイプBがおよそ75%、CRF01_AEが20%、残りがその他のサブタイプとなっている。
Group O (Outlier)
西アフリカや中央アフリカで主に認められる。
Group N (non-M/non-O)
1998年カメルーンでの感染者に発見された。
Group P (pending)
2009年、フランス在住のカメルーン人女性に、ゴリラ由来のHIV-1とみられる新種が発見された。

HIV-2

HIV-2感染は地域性があり、西アフリカ地域に集中的に認められ、ほかの地域での感染は低く、日本でも報告されている感染者はまだ数名である。A - Gの7のサブタイプに分類される。また構造的にNNRTIに耐性である。


注釈

  1. ^ 英語: lymphadenopathy-associated virus
  2. ^ 英語: human T-lymphotropic virus type III
  3. ^ 英語: AIDS-associated retrovirus
  4. ^ 英語: lymphadenopathy-associated virus-2
  5. ^ 英語: human immunodeficiency Virus type1
  6. ^ 英語: human immunodeficiency Virus type2
  7. ^ 英語: simian immuno-deficiency virus
  8. ^ 英語: long terminal repeat
  9. ^ 英語: negative regulatory element
  10. ^ 英語: group specific antigen
  11. ^ 英語: matrix
  12. ^ 英語: nucleo capsid
  13. ^ 英語: protease
  14. ^ 英語: mature
  15. ^ 英語: reverse transcriptase
  16. ^ 英語: integrase
  17. ^ 英語: virion infectivity factor
  18. ^ 英語: viral rrotein R
  19. ^ 英語: vilal rrotein U
  20. ^ 英語: trans activator
  21. ^ 英語: negative factor
  22. ^ 英語: Alison Rodger

出典

  1. ^ 知られざるHIV治療の最前線と日本の課題 - 感染に気付いていない人が5千人以上!?”. 2017年12月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。
  2. ^ Cohen, J (1994). "The Duesberg phenomenon". Science 266 (5191): 1642–4.
  3. ^ Clin Neurol Neurosurg. 2018 Sep;172:124-129. PMID 29990960
  4. ^ Ann Neurol. 1986 Jun;19(6):517-24. PMID 3729308
  5. ^ Ann Intern Med. 1988 Feb;108(2):310-1. PMID 3341666
  6. ^ Acta Neurol Scand. 1990 Feb;81(2):118-20. PMID 2327231
  7. ^ Parkinsonism Relat Disord. 2018 Sep;54:95-98. PMID 29643006
  8. ^ Arch Neurol. 2010 May;67(5):634-5. PMID 20457966
  9. ^ J Int Assoc Provid AIDS Care. 2014 Sep-Oct;13(5):409-10. PMID 24759449
  10. ^ J Neurol. 2015 Jan;262(1):65-73. PMID 25297924
  11. ^ Lancet Neurol. 2010 Apr;9(4):425-37. PMID 20298966
  12. ^ Neurology. 1998 Jan;50(1):244-51. PMID 9443487
  13. ^ Ann Neurol. 2005 Apr;57(4):576-80. PMID 15786466
  14. ^ 限られた感染経路 エイズ予防財団
  15. ^ a b 出河雅彦「血液製剤とHIV感染」『The Journal of AIDS Research』2013 Vol.15 No. 2,pp.91-95、日本エイズ学会
  16. ^ HIVの感染経路 京都府健康福祉部健康対策課
  17. ^ a b c エイズの経験をコロナに生かす 米LGBTコミュニティー(AFP=時事)”. Yahoo!ニュース. 2022年2月13日閲覧。
  18. ^ アフリカのエイズ問題:エイズによる経済的社会的被害”. www.ajf.gr.jp. 2020年5月13日閲覧。
  19. ^ http://www.hiv-map.net/works/pdf/file.pdf
  20. ^ 知られざるHIV治療の最前線と日本の課題 - 感染に気付いていない人が5千人以上!?
  21. ^ HIV感染者及びエイズ患者の国籍別、性別、感染経路別報告数の累計. 診断区分. 感染経路. エイズ予防情報ネット (PDF)
  22. ^ 「10代の感染者93%は同性・両性性接触」대한민국 오후를 여는 유일석간 문화일보(2018年4月23日)
  23. ^ HIV Among Gay and Bisexual Men CDC(2019年9月9日)
  24. ^ Rodger, Alison J; Cambiano, Valentina; Bruun, Tina; Vernazza, Pietro; Collins, Simon; Degen, Olaf; Corbelli, Giulio Maria; Estrada, Vicente et al. (2019-06-15). “Risk of HIV transmission through condomless sex in serodifferent gay couples with the HIV-positive partner taking suppressive antiretroviral therapy (PARTNER): final results of a multicentre, prospective, observational study” (英語). The Lancet 393 (10189): 2428–2438. doi:10.1016/S0140-6736(19)30418-0. ISSN 0140-6736. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0140673619304180. 
  25. ^ HIV治療に感染防止効果 コンドーム不使用でも 研究”. AFPBB News (2019年5月4日). 2019年5月4日閲覧。
  26. ^ a b HIV感染者の内定取り消しは違法 雇用主側に賠償命令”. 朝日新聞デジタル (2019年9月17日). 2019年9月17日閲覧。
  27. ^ HIV感染告げなかったことを理由に内定取り消し 社会福祉法人に賠償命令 札幌地裁”. 毎日新聞 (2019年9月17日). 2019年9月17日閲覧。
  28. ^ HIV内定取り消しで賠償命令=「告知義務ない」-札幌地裁”. 時事ドットコム (2019年9月17日). 2019年9月17日閲覧。






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