ヒト免疫不全ウイルス 感染経路

ヒト免疫不全ウイルス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/02 01:53 UTC 版)

感染経路

エイズの主要感染経路は、「性行為による感染」「(肛門性交による裂傷原因を含む)血液を介しての感染」「母親から乳児への母子感染」の3つである[14]。血液を介しての感染はかつては血液製剤によるものがあったが[15]、麻薬常習者などでの注射針の打ちまわしによるものが確認されている[16][17]。件数自体は男女の性交渉での感染割合が多いが、異性愛者の人数が圧倒的に同性愛者両性愛者数よりも多いからである。男性同性愛者の間だけで感染が止まらない背景には、両性愛者の男性が女性との性行為で移すことが異性愛者の男性に移す通り道になっている。厚生労働省の調査では、男性の場合、男性との性的経験を持たない男性と比較すると、同性愛者や両性愛者で感染している人の割合が高く、HIVで約140倍、エイズで約50倍である。実際にアフリカ全体の調査でも、国ごとの感染率はさまざまだったが、研究されていた国々の大半で、異性愛者よりも同性愛者の男性の感染率が著しく高く、西アフリカの一部の地域では、男性同性愛者の感染率が10倍高かった。両者とも関係を持ったすべての異性が、異性間性交しかしていない場合、エイズ感染の可能性は生まれた際の「母親から乳児への母子感染」によるものであることが多い。ただしすべての性行為相手の全員が、アナルセックスなど出血を伴いやすい性行為をしていないかを確認することは不可能であり、異性間しか性行為しない男性/女性であっても、感染の注意が必要ではある[18][19]

日本
1970年代の後半から1980年代の半ばごろまでは、汚染された非加熱輸入血液製剤による血友病患者の感染が多かった。1980年半ば以降は非加熱輸入血液製剤の危険性が認知されていき、血液製剤による新たな感染は防がれるようになっていった[15](詳しくは薬害エイズ事件を参照)。2017年の第31回日本エイズ学会学術集会・総会会長を務めた生島嗣は、現在では日本国内では感染経路の約8割が男性同士での性交だと説明している。女性へ感染した原因は感染した男性と性接触による感染と述べている[20]。「日本国内のHIV感染者及びエイズ患者の国籍別、性別、感染経路別報告」によると、2017年12月時点で日本国内に日本国籍・外国籍で合計約2万9,000人がHIV感染者およびエイズ患者である。その内訳は男性が約2万6,000人であり、その約1万5,500人の感染経路は男性同士間の性的接触である。男性間の性的接触が感染原因の大半であり、男性間の性的接触にはコンドーム必須との周知など予防策が求められている[21]
韓国
韓国では2006年12月から2018年1月までの10代の感染者に限れば、93%が同性愛・両性愛での性的接触行為をした者だった[22]
アメリカ合衆国
1981年に米国で初のエイズ患者が確認された。以降からエイズ危機は20年にわたって、米国で猛威を振るい、2022年時点も死者が出ている。多かった感染者は、同性愛者の男性やバイセクシャルの男性、アフリカ系男性やヒスパニック系男性、そしてトランスジェンダー女性(性同一性が女性の人)だった。エイズ(AIDS、後天性免疫不全症候群)が広がり始めた時のLGBTコミュニティの反応について、「誰も真剣に受け止めていませんでした」と語っている[17]。1985年に当時のロナルド・レーガン大統領がエイズ研究を政府の優先事項に掲げたの、1987年にHIV感染はしてもAIDS発症は服薬で抑えられる方法が初開発された。アメリカ政府の統計によると、エイズによる米国の死者は2000年末までに最低でも45万人に上る[17]。アメリカ疾病予防管理センターの2014年の統計によると、ゲイとバイセクシャル、男性と性的関係を持ったことのある男性は全人口の2%に過ぎないが、13歳以上の男性でHIV感染し者の83%が同性愛者や両性愛者であった。13歳から24歳の間でHIVだった人の92%が同性愛者や両性愛者だった[23]

注釈

  1. ^ 英語: lymphadenopathy-associated virus
  2. ^ 英語: human T-lymphotropic virus type III
  3. ^ 英語: AIDS-associated retrovirus
  4. ^ 英語: lymphadenopathy-associated virus-2
  5. ^ 英語: human immunodeficiency Virus type1
  6. ^ 英語: human immunodeficiency Virus type2
  7. ^ 英語: simian immuno-deficiency virus
  8. ^ 英語: long terminal repeat
  9. ^ 英語: negative regulatory element
  10. ^ 英語: group specific antigen
  11. ^ 英語: matrix
  12. ^ 英語: nucleo capsid
  13. ^ 英語: protease
  14. ^ 英語: mature
  15. ^ 英語: reverse transcriptase
  16. ^ 英語: integrase
  17. ^ 英語: virion infectivity factor
  18. ^ 英語: viral rrotein R
  19. ^ 英語: vilal rrotein U
  20. ^ 英語: trans activator
  21. ^ 英語: negative factor
  22. ^ 英語: Alison Rodger

出典

  1. ^ 知られざるHIV治療の最前線と日本の課題 - 感染に気付いていない人が5千人以上!?”. 2017年12月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。
  2. ^ Cohen, J (1994). "The Duesberg phenomenon". Science 266 (5191): 1642–4.
  3. ^ Clin Neurol Neurosurg. 2018 Sep;172:124-129. PMID 29990960
  4. ^ Ann Neurol. 1986 Jun;19(6):517-24. PMID 3729308
  5. ^ Ann Intern Med. 1988 Feb;108(2):310-1. PMID 3341666
  6. ^ Acta Neurol Scand. 1990 Feb;81(2):118-20. PMID 2327231
  7. ^ Parkinsonism Relat Disord. 2018 Sep;54:95-98. PMID 29643006
  8. ^ Arch Neurol. 2010 May;67(5):634-5. PMID 20457966
  9. ^ J Int Assoc Provid AIDS Care. 2014 Sep-Oct;13(5):409-10. PMID 24759449
  10. ^ J Neurol. 2015 Jan;262(1):65-73. PMID 25297924
  11. ^ Lancet Neurol. 2010 Apr;9(4):425-37. PMID 20298966
  12. ^ Neurology. 1998 Jan;50(1):244-51. PMID 9443487
  13. ^ Ann Neurol. 2005 Apr;57(4):576-80. PMID 15786466
  14. ^ 限られた感染経路 エイズ予防財団
  15. ^ a b 出河雅彦「血液製剤とHIV感染」『The Journal of AIDS Research』2013 Vol.15 No. 2,pp.91-95、日本エイズ学会
  16. ^ HIVの感染経路 京都府健康福祉部健康対策課
  17. ^ a b c エイズの経験をコロナに生かす 米LGBTコミュニティー(AFP=時事)”. Yahoo!ニュース. 2022年2月13日閲覧。
  18. ^ アフリカのエイズ問題:エイズによる経済的社会的被害”. www.ajf.gr.jp. 2020年5月13日閲覧。
  19. ^ http://www.hiv-map.net/works/pdf/file.pdf
  20. ^ 知られざるHIV治療の最前線と日本の課題 - 感染に気付いていない人が5千人以上!?
  21. ^ HIV感染者及びエイズ患者の国籍別、性別、感染経路別報告数の累計. 診断区分. 感染経路. エイズ予防情報ネット (PDF)
  22. ^ 「10代の感染者93%は同性・両性性接触」대한민국 오후를 여는 유일석간 문화일보(2018年4月23日)
  23. ^ HIV Among Gay and Bisexual Men CDC(2019年9月9日)
  24. ^ Rodger, Alison J; Cambiano, Valentina; Bruun, Tina; Vernazza, Pietro; Collins, Simon; Degen, Olaf; Corbelli, Giulio Maria; Estrada, Vicente et al. (2019-06-15). “Risk of HIV transmission through condomless sex in serodifferent gay couples with the HIV-positive partner taking suppressive antiretroviral therapy (PARTNER): final results of a multicentre, prospective, observational study” (英語). The Lancet 393 (10189): 2428–2438. doi:10.1016/S0140-6736(19)30418-0. ISSN 0140-6736. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0140673619304180. 
  25. ^ HIV治療に感染防止効果 コンドーム不使用でも 研究”. AFPBB News (2019年5月4日). 2019年5月4日閲覧。
  26. ^ a b HIV感染者の内定取り消しは違法 雇用主側に賠償命令”. 朝日新聞デジタル (2019年9月17日). 2019年9月17日閲覧。
  27. ^ HIV感染告げなかったことを理由に内定取り消し 社会福祉法人に賠償命令 札幌地裁”. 毎日新聞 (2019年9月17日). 2019年9月17日閲覧。
  28. ^ HIV内定取り消しで賠償命令=「告知義務ない」-札幌地裁”. 時事ドットコム (2019年9月17日). 2019年9月17日閲覧。






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