ハマダラカ 生活環

ハマダラカ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/03 08:33 UTC 版)

生活環

他のカの仲間と同様に、ハマダラカの生活環は4つのステージ(幼虫成虫)によって成り立っている。卵から蛹までは水中で過ごし、その期間はは通常5–14日である(種や外気温によって異なる)。成虫になると、メスのハマダラカはマラリアの媒介者となる。メスの成虫は1か月以上生きることもあるが、通常自然界では1–2週間程度の寿命しかない。

メスの成虫は1回の産卵で50–200個の卵を産む。卵は左右対称の長い楕円体で左右両側に浮嚢を持ち、水面に卵塊を形成せずにばらばらに産み落とされる。成虫で同定困難な互いに酷似した近縁種でも、浮嚢の形状や紋理が種によって異なることが多く、卵の形質のみが同定の手がかりになることがある。卵に乾燥耐性はなく、通常水面を浮遊しながら2–3日で孵化に至る。ただし、低温条件では孵化に2-3週間かかることもある。

幼虫

ハマダラカの幼虫(体長約8mm)

ハマダラカの幼虫は、摂食のために発達した頭部と大きい胸部を持つが、脚はない。また他のカの幼虫とは違い、ハマダラカの幼虫の1対の気門は第8腹節背面から伸びる呼吸管先端にではなくこの節の背面の平坦な気門盤に開き、また後述の方法で水面直下の浮遊物を摂食する。そのため、他のカの幼虫のように呼吸管の先端で水面下に斜めに懸垂する形で定位するのではなく、多くの時間、水面直下にて水面と平行に定位する。腹部の主背毛の一部が節ごとに対を成すカエデの葉のような掌状毛に変化し、これが気門盤とともに水をはじいて水面からの懸垂を助け、水面と平行な定位を可能にしている。

幼虫は摂食に際しては水面直下に背面を上に定位したまま頭部を180°回転させ、頭部下面の口器を水面にあてがい、口器前方のブラシ状の口刷毛(こうさつもう)を動かして水面直下に浮遊する藻類バクテリアなどを濾過摂食している。移動の際には、口刷毛を使いながら、全身をくねらせて泳ぐ。

幼虫は4齢まで成長し、その後蛹になる。各齡の終わりには脱皮を行い、外骨格を脱ぐことでさらに成長する。ただし、ほとんどのハマダラカの幼虫は8mm以上の大きさに成長することはない。

ハマダラカの幼虫は、淡水湿原、塩性湿地、マングローブ林水田、側溝、川の沿岸、水たまりなど様々な環境に生息しているが、ほとんどの種は澄んだ水を好む。

蛹を横から見ると、コンマ(,)のような形をしている。蛹の状態では、頭部と胸部が合着して頭胸部を形成し、この背面から出る1対の呼吸管を水面に出して呼吸を行っている。蛹になってから2-3日経つと、背側の外皮が裂けて、そこから成虫のハマダラカが現れる。

成虫

ハマダラカが卵から成虫になるまでの期間は種の違いや外気温の違いによって異なるが、最短で5日である。しかし熱帯性気候であれば、通常成虫になるまで10-14日かかる。

成虫は他のカと同様胴体が細い。胴体部は昆虫の通例どおり頭部、胸部および腹部の3つに分けられる。

頭部は摂食機能を担うほか、2つの眼と触角によって外部情報をキャッチしている。触角は吸血相手の匂いを捕らえるほか、メスが産卵する場所の匂いも探知している。また頭部には、餌をとるために伸長した口吻と、感覚器官として用いられる1対の小顎鬚(しょうがくしゅ・こあごひげ)がある。小顎鬚はナミカ亜科の通常のカと異なり、メスでも口吻とほぼ同じ長さにまで伸長している。

胸部には3対の脚と1対の翅、1対の平均棍があり、移動手段として機能している。

腹部は食物の消化と卵の産生を行っている。メスが食物(血液)を捕食した際には、腹部が大きくふくらむ。血液は卵巣の成熟を促し[5]卵を作るためのタンパク源として供給される。

ハマダラカは、メスでも小顎鬚が口吻とほぼ同じ長さになること、翅に鱗片によって形成されるまだら模様が発達する一方、翅と脚以外の部位に鱗片が非常に少なく、特に腹部の大部分に鱗片を欠くことで、他のカ、つまりナミカ亜科と区別される。また成虫は、とまって休む際に腹部を急角度で浮かせ、斜めの倒立状態で定位することが多く、その点でも他のカと区別できる。

成虫のハマダラカは、蛹から出て2–3日の間に交尾を行う。ほとんどのハマダラカは、オスが夕暮れ時に群れ(いわゆる蚊柱)をつくり、メスが交尾のためにその群れに加わる。

オスの寿命は約1週間で、花の蜜など糖分に富んだ液体を餌にしている。メスも蜜をエネルギー源にしているが、通常卵を作るためのタンパク源として血液を必要とする。十分な量の血液を吸うと、メスは数日かけて血液を消化し、卵をつくる。卵の産生量などは温度に依存するが、熱帯気候であれば2-3日で十分に卵をつくるすることが出来る。卵を産み終わったら、メスは次の吸血相手を探して飛び回る。

このサイクルはメスが死ぬまで続けられる。通常寿命は1-2週間であるが、1ヶ月もの間生存することもある。寿命は気候や湿度によって異なる。また、血液を吸うことが出来るかどうかによっても、寿命は異なってくる。


  1. ^ ナチス、マラリア蚊の兵器使用を計画?ナショナルジオグラフィック公式サイト
  2. ^ Anopheles at dictionary.com.
  3. ^ a b Calvo E, Pham VM, Marinotti O, Andersen JF, Ribeiro JM. (2009) The salivary gland transcriptome of the neotropical malaria vector Anopheles darlingi reveals accelerated evolution of genes relevant to hematophagy. BMC Genomics. 10(1):57
  4. ^ デング熱媒介蚊 ヒトスジシマカ”. 厚生労働省. 2019年12月21日閲覧。
  5. ^ 花岡和則、「生物コーナー 蚊の脳(卵巣成熟)ホルモン」 化学と生物 1979年 17巻 9号 p.603-605, doi:10.1271/kagakutoseibutsu1962.17.603, NAID 40000426627
  6. ^ 佐々學、高橋弘、淺沼靖、北海道の蚊に關する1947年度の知見 日本細菌学雑誌 1948年 3巻 2号 p.53-54, doi:10.3412/jsb.3.53
  7. ^ CDC内のハマダラカのページ
  8. ^ 横山卓也、青沼宏佳、嘉糠洋陸、「病原体を運ぶ蚊の免疫システム」 化学と生物 2012年 50巻 3号 p.196-202, doi:10.1271/kagakutoseibutsu.50.196
  9. ^ Yoshida S, Shimada Y, Kondoh D, et al. (2007). “Hemolytic C-type lectin CEL-III from sea cucumber expressed in transgenic mosquitoes impairs malaria parasite development”. PLoS Pathog. 3 (12): e192. doi:10.1371/journal.ppat.0030192. PMID 18159942. http://www.plospathogens.org/article/info:doi/10.1371/journal.ppat.0030192. 
  10. ^ (Charlwood et al., 1997, Survival And Infection Probabilities of Anthropophagic Anophelines From An Area of High Prevalence of Plasmodium falciparum in Humans, Bulletin of Entomological Research, 87, 445-453)





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