ギター 歴史

ギター

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/26 06:37 UTC 版)

歴史

ギターはおそらくスペイン起源の楽器であり[3]ヨーロッパ中世後期の楽器であるギターララティーナ(=くびれた胴と4本の弦をそなえた楽器)をもとにして、16世紀初期に派生したものである[3]。初期のギターは、現代のギターと比べてもっと細身で厚みがあり、くびれの程度も少なかった[3]。そしてギターはビウエラという、スペインでリュートの代わりに演奏されていた、ギターに似た形の楽器と緊密な関係がある[3]

もともとはギターは4組の弦を持ち、そのうち3組が2本で、残りが1本の弦だった。そしてヴァイオリンのような糸巻き(ペグボックス)をそなえ、つまり直接ペグの棒に弦を巻きつけていた[3]。共鳴板(=ボディー表側の薄くて振動しやすく音を増幅する木板、soundboard)にはサウンドホールという丸い穴があけられ、しばしば周囲が木彫りで装飾された[3]。16世紀のギターは各弦がC-F-A-D'に調律された[3]。なおこれはリュートやビウエラの、真ん中の4弦の調律と同じである[3]

16世紀から19世紀にかけてギターにいくつかの変化が生じた。1600年の前に5組目の弦が加えられ更に18世紀の終わりころには6組目の弦が加えられた[3]。この弦の増加は音域を広げることにつながった[4]。またこのころ、弦に巻き弦が採用されることで強度が上がり、これを受けて複弦から単弦への移行が起きた[4]。こうして1800年以前に2本組の弦が、シングルの(つまり1本だけの)弦へと置き換えられE-A-D-G-B-E'という調律がされるようになった(そしてこの調律が現在でも標準的な調律になっている)[3]。こうしてこの時期、おそらくフランスかイタリアにおいて、現在使われている6単弦のギターが誕生した[5]。これによりギターの出せる音域が拡大し、楽器として広く利用されるようになった[4]

ヴァイオリンに似た糸巻き(ペグボックス)は1600年ころに、わずかに後ろに傾いたヘッドの後ろにペグが配置される形になった。19世紀に単純なペグの代わりに金属製のネジが用いられるようになった[3]

初期のギターでは指板にガット(羊などの腸で作った細い紐)を巻いて結んだフレット(tied-on gut)であったが、18世紀に指板にあらかじめ象牙金属を組み込んだフレットへと変更された[3]。指板は最初はボディーに接するところで終わり(つまり共鳴板の上へは伸びず)、象牙や金属のフレットは初期には共鳴板の表面にも直接配置された[3]。19世紀に指板が(共鳴板の表面から遠ざかる方向に)わずかに高くなるように変更され、そして指板は共鳴板の上へ伸び、サウンドホールの縁まで延長された[3]。19世紀後半に入ると、スペインの名工であるアントニオ・デ・トーレスによってボディや丸みの大型化や弦の65cmへの延長がなされ、音質と音量が大きく改善した。彼の改良により、クラシック・ギターの基本的な形状はほぼ完成した[6][7]

一方、アメリカに伝わったギターは、19世紀中頃に在来のバンジョーの影響を受けて弦が従来のガットから金属弦へと変化した[8][9]。この変化により大音量の出せるようになったギターはバンジョーに変わってアメリカで人気のある楽器となったが、さらなる大音量化が求められて種々の試行錯誤が行われ、1920年代にはボディに金属の共鳴器を取り付けたリゾネーター・ギターが開発された[10]

上記のようにアコースティック・ギターは発展していったが、構造的に大音量化の限界に直面していた。この解決策としてアンプによって音量を増幅させることが考案され[11]、1930年代初頭にエレクトリック・ギターが発明され、普及していった[12]。当初のエレクトリック・ギターは通常のギターと同じく内部に空洞のあるものであったが、構造的にハウリングを起こしやすかった[13]ため、1950年には内部の空洞をなくしたソリッド・ギターが発売され[14]、以後エレクトリック・ギターの主流はこのタイプのものとなった。


注釈

  1. ^ 周波数はA=440Hz平均律の場合の物であり、あくまで一例である。
  2. ^ ただし一音半以上のチューニングは、デスメタルやブルータル系ブラックメタルなど、一部のジャンルに使用されることがほとんどである。
  3. ^ 近年のクラシックギター以外のギターでは、くぼみのないデザインのものもある。
  4. ^ a b 基本的にクラシック音楽以外では普通、足台は使わない。
  5. ^ 右手で行うミュートもあるが、目的は別のものであることが多い。

出典

  1. ^ Oxford Dictionary "guitar"
  2. ^ 「見て読む本 世界なるほど楽器百科」p30 株式会社ヤマハミュージックメディア編 ヤマハミュージックメディア 2008年11月10日初版発行
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n Britannica "guitar".
  4. ^ a b c 「図説 50の名器とアイテムで知る楽器の歴史」p22 フィリップ・ウィルキンソン 大江聡子訳 原書房 2015年2月15日第1刷
  5. ^ 「写真で分かる! 楽器の歴史 楽器学入門」p83 守重信郎 時事通信出版局 2015年9月30日発行 ISBN 978-4788714175
  6. ^ 「世界の楽器百科図鑑」p119 マックス・ウェイド=マシューズ 別宮貞徳監訳 東洋書林 2002年11月12日発行
  7. ^ 「図説 50の名器とアイテムで知る楽器の歴史」p22-23 フィリップ・ウィルキンソン 大江聡子訳 原書房 2015年2月15日第1刷
  8. ^ 「知ってるようで知らない ギターおもしろ雑学事典」p18-19 湯浅ジョウイチ ヤマハミュージックメディア 2007年11月20日初版発行
  9. ^ 「日用品の文化誌」p179-180 柏木博 岩波書店 1999年6月21日第1刷
  10. ^ 「日用品の文化誌」p180 柏木博 岩波書店 1999年6月21日第1刷
  11. ^ 「知ってるようで知らない ギターおもしろ雑学事典」p20 湯浅ジョウイチ ヤマハミュージックメディア 2007年11月20日初版発行
  12. ^ a b 「図説 50の名器とアイテムで知る楽器の歴史」p21 フィリップ・ウィルキンソン 大江聡子訳 原書房 2015年2月15日第1刷
  13. ^ 「知ってるようで知らない ギターおもしろ雑学事典」p22 湯浅ジョウイチ ヤマハミュージックメディア 2007年11月20日初版発行
  14. ^ 「知ってるようで知らない ギターおもしろ雑学事典」p26-27 湯浅ジョウイチ ヤマハミュージックメディア 2007年11月20日初版発行
  15. ^ アコギとは”. コトバンク. デジタル大辞泉. 2021年9月26日閲覧。
  16. ^ エレキギターとは”. コトバンク. 精選版 日本国語大辞典. 2021年9月26日閲覧。
  17. ^ エレキとは”. コトバンク. 精選版 日本国語大辞典. 2021年9月26日閲覧。
  18. ^ 「知ってるようで知らない ギターおもしろ雑学事典」p217 湯浅ジョウイチ ヤマハミュージックメディア 2007年11月20日初版発行
  19. ^ クラシックギターのしくみ:クラシックギターにはこんな特徴が - 楽器解体全書”. ヤマハ株式会社. 2021年11月5日閲覧。
  20. ^ Wire World ~知る・楽しむ~”. 日鉄SGワイヤ株式会社. 2021年9月19日閲覧。
  21. ^ 次世代のギター弦 NYXL について”. D'Addario. 2021年9月19日閲覧。
  22. ^ 「知ってるようで知らない ギターおもしろ雑学事典」p217-218 湯浅ジョウイチ ヤマハミュージックメディア 2007年11月20日初版発行
  23. ^ 「知ってるようで知らない ギターおもしろ雑学事典」p219 湯浅ジョウイチ ヤマハミュージックメディア 2007年11月20日初版発行
  24. ^ a b 「知ってるようで知らない ギターおもしろ雑学事典」p212 湯浅ジョウイチ ヤマハミュージックメディア 2007年11月20日初版発行
  25. ^ オープン・チューニング[open tuning]”. 音楽用語ダス. ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス. 2021年10月9日閲覧。
  26. ^ 11 ноября 2015: OKER (Норвегия) Kei Nakano (Япония) ТОПОТ аркестра (Россия)”. dom.com.ru. 2018年12月8日閲覧。
  27. ^ 日本特許第6709929号 【発明の名称】弦楽器 【特許権者】中野 圭”. patents.google.com. 2023年6月30日閲覧。
  28. ^ a b Martin, Jennifer (2022年11月16日). “29 Lefties that'll make you wish you were a member of the southpaw club”. CBS. 2023年1月29日閲覧。
  29. ^ a b UG Team (2015年7月31日). “10 Famous Left-Handed Guitarists Who Play Right-Handed”. Ultimate Guitar. 2023年1月29日閲覧。
  30. ^ Bacon, Tony (2021年8月13日). “Musical Implications of Being a Left-Hander”. Reverb.com. 2023年1月29日閲覧。
  31. ^ Starkey, Arun (2022年8月31日). “How Tony Iommi got his first left-handed guitar”. Far Out. 2023年1月29日閲覧。
  32. ^ 【アコースティックギター全般】左利きなのですが、弦を左右反対に張り替えれば「左利き用」として使えますか?”. ヤマハ. 2022年12月24日閲覧。
  33. ^ Hodgson, Peter (2022年11月27日). “The secrets of Jimi Hendrix's guitar setup: Roger Mayer reveals what made the guitar hero's Strat tone sing”. Guitar World. 2023年1月29日閲覧。
  34. ^ Thompson, Art (2022年7月1日). “Here’s How to Replicate the Magic of the Blues Greats”. Guitar Player. 2023年1月29日閲覧。
  35. ^ a b c YAMAHA、クラシックギターの弾き方
  36. ^ a b c [1]






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