イデアル (環論)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/30 07:27 UTC 版)
イデアルの種類
- 以下簡単のため可換環でのみ考えることにして、非可換版の詳しい話は各項に譲る。
イデアルの重要性は、それが環準同型の核となることであり、また剰余環を定義することができることにある。異なる種類の剰余環が定義できると言うことに従って、様々な種類のイデアルが考えられる。
- 極大イデアル
- 真のイデアル I が極大イデアル (maximal ideal) とは、I を真に含む真のイデアル J が存在しないことを言う。極大イデアルによる商は一般には単純環、可換環の場合は体になる[2]。
- 極小イデアル
- ゼロでないイデアルが極小 (minimal) であるとは、それが零でも自身でもないイデアルを含まないことを言う。
- 素イデアル
- 真のイデアル I が素イデアル (prime ideal) とは、R の元 a, b が ab ∈ I を満たすならば必ず a と b の少なくとも一方が I に属すことを言う。素イデアルによる商は一般には素環、可換の場合は整域となる。
- 根基イデアルまたは半素イデアル
- 真のイデアル I が根基 (radical) または半素 (semiprime) であるとは、R の任意の元 a に対してその適当な冪 an が I に属すならば a ∈ I となることを言う。根基イデアルによる商は、一般には半素環であり、可換の場合は被約環になる。
- 準素イデアル
- イデアル I が準素イデアル (primary ideal) とは、R の元 a, b が ab ∈ I を満たすとき、a ∉ I ならば bn ∈ I が適当な正の整数 n に対して成り立つことを言う。任意の素イデアルは準素イデアルだが逆は必ずしも成り立たない。半素な準素イデアルは素イデアルである。
- 主イデアル
- 単項生成なイデアル。
- 有限生成イデアル
- 加群として有限生成なイデアル。
- 原始イデアル
- 左単純加群の零化域を左原始イデアルと呼ぶ。右原始イデアルも同様。しかしその名称にも拘らず、左または右原始イデアルは実は常に両側イデアルになる。原始イデアルは素イデアルである。左(または右)原始イデアルによる商は左(または右)原始環と言う。可換環の場合は原始イデアルは極大であり、従って原始環は体になる。
- 既約イデアル
- イデアルが既約 (irreducible) であるとは、それがそれを真に含むイデアルの交わりに書けないことを言う。
- 互いに素なイデアル
- 2つのイデアル I, J が互いに素 (coprime, comaximal) であるとは I + J = R となることを言う。
- 正則イデアル
- いくつか異なる流儀がある。
- 冪零元イデアル
- イデアルが冪零元イデアル (nil ideal) とは、その任意の元が冪零であることを言う。
必ずしも環の中で閉じているわけではないが、「イデアル」と呼ばれる重要な例を二つ挙げる。詳細はそれぞれの項を参照。
- 分数イデアル:通常は R が商体 K を持つ可換整域である場合に定義される。名前が示唆する通り、分数イデアル (fractional ideal ) は K の特別な性質を持つ R –部分加群である。分数イデアルが完全に R に含まれる時には、真に R のイデアルを成す。
- 可逆イデアル:通常は、可逆イデアル (invertible ideal) A は分数イデアルであって、別の分数イデアル B で AB = BA = R を満たすものが取れるものと定義される。文献によっては、R が整域ではなく一般の環で、通常のイデアル A, B が AB = BA = R を満たすときに、「可逆イデアル」と言う呼称を用いるものがある。
注釈
- ^ ここで述べる通説には細部において批判的意見も提出されているが、それについては適宜脚注にて記載する。理想数も参照のこと。
- ^ クンマーの主な動機は高次相互法則であり、フェルマーの最終定理ではなかった、という指摘がある。Harold M. Edwards, Fermat's Last Theorem: A Genetic Introduction to Algebraic Number Theory, p. 79, - Google ブックス
- ^ クンマーの論文は「理想数」を「イデアル」に置き換えることで容易に読むことができる、という主張もある。Lemmermeyer, Franz (2011). "Jacobi and Kummer's Ideal Numbers". p. 2. arXiv:1108.6066。また、アンドレ・ヴェイユによれば、クンマーの論文は驚くほど間違いが少ない。Mazur, Barry (1977). page = 980 “Review: André Weil, Ernst Edward Kummer, Collected Papers”. Bulletin of the American Mathematical Society 83 (5): 976–988 .
出典
- ^ Lang 2005, Section III.2
- ^ 可換単純環は体である。See Lam (2001), p. 39.
- ^ 高木 1931, pp. 321-323.
- ^ a b 高木 1931, p. 323.
- ^ The Story of Algebraic Numbers in the First Half of the 20th Century: From Hilbert to Tate, p. 43, - Google ブックス
- ^ Dirichlet; Dedekind (1871). Vorlesungen über Zahlentheorie (2 ed.). p. 452
- イデアル (環論)のページへのリンク