イデアル (環論)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/30 07:27 UTC 版)
イデアルの生成
R を(必ずしも単位的でない)環とする。R の空でない左イデアルの族の交わりはまた左イデアルになる。R の任意の部分集合 X に対し、R の X を含む任意のイデアル全ての交わり I はやはり X を含む左イデアルであって、また明らかにそのようなイデアルの中で最小である。このイデアル I を X によって生成された左イデアルと呼ぶ。左イデアルの代わりに右イデアルもしくは両側イデアルをそれぞれ考えることにより、それぞれ同様の概念が定義される。
R が単位的ならば、R の部分集合 X が生成する左、右、両側イデアルは内部的な演算によって記述することができる。即ち、X の生成する左イデアルは
によって与えられる。実際これが左イデアルを成し、これらの元が X を含む任意のイデアルに属することは明らかであるから、確かにこれは X の生成する左イデアルである。同様に X の生成する右、両側イデアルはそれぞれ
によって与えられる。
規約として、0 は0 項からなる和と見做すことにより、イデアル {0} は空集合 ∅ の生成する R のイデアルと考える。
R の左イデアル I が R の有限集合 F によって生成されるならば、イデアル I は有限生成であるという。有限集合で生成される右イデアル、両側イデアルについても同様である。
生成系 X が R の適当な元 a のみからなる単元集合 {a} とすると、X = {a} の生成する各イデアルは簡単に
と言う形に書くことができる。これらは a によって生成される左、右、両側の主イデアル(単項イデアル)と呼ばれる。a の生成する両側イデアルを簡単に (a ) と書くことも広く行われている。
上で述べたことは、単位的でない環 R に対しては少しく変更が必要である。X の元の有限積和に加えて、任意の自然数 n と X の元 x に対して、x の n-重和 x + x + … + x および (−x) + (−x) + … + (−x) を考えるのである。単位的環 R に対してはこの余分な仮定は過剰な条件になる。
- 整数環 Z はその任意のイデアルがただ一つの数で生成され(したがって Z は主イデアル整域)、主イデアル nZ の生成元は n または −n のちょうど二つである(その意味ではイデアルと整数との差異はこの環ではほぼ分からない)。任意の整域において aR = bR は、適当な単元 u が存在して au = b を満たすことを意味し、逆に任意の単元 u に対して aR = auu−1R = auR が満たされる。故に可換主イデアル整域において、主イデアル aR を任意の単元 u に対する au が生成することができる。Z の単元は 1 と −1 の二つのみであるから、これは Z の場合をも含んでいる。
注釈
- ^ ここで述べる通説には細部において批判的意見も提出されているが、それについては適宜脚注にて記載する。理想数も参照のこと。
- ^ クンマーの主な動機は高次相互法則であり、フェルマーの最終定理ではなかった、という指摘がある。Harold M. Edwards, Fermat's Last Theorem: A Genetic Introduction to Algebraic Number Theory, p. 79, - Google ブックス
- ^ クンマーの論文は「理想数」を「イデアル」に置き換えることで容易に読むことができる、という主張もある。Lemmermeyer, Franz (2011). "Jacobi and Kummer's Ideal Numbers". p. 2. arXiv:1108.6066。また、アンドレ・ヴェイユによれば、クンマーの論文は驚くほど間違いが少ない。Mazur, Barry (1977). page = 980 “Review: André Weil, Ernst Edward Kummer, Collected Papers”. Bulletin of the American Mathematical Society 83 (5): 976–988 .
出典
- ^ Lang 2005, Section III.2
- ^ 可換単純環は体である。See Lam (2001), p. 39.
- ^ 高木 1931, pp. 321-323.
- ^ a b 高木 1931, p. 323.
- ^ The Story of Algebraic Numbers in the First Half of the 20th Century: From Hilbert to Tate, p. 43, - Google ブックス
- ^ Dirichlet; Dedekind (1871). Vorlesungen über Zahlentheorie (2 ed.). p. 452
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