アロキュティビティ 通言語的な適用

アロキュティビティ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/25 13:49 UTC 版)

通言語的な適用

聞き手の性別が動詞に標示される現象は、バスク語の他にも、ベジャ語 (クシ語派)・マンダン語英語版 (スー語族)・ナンビクワラ語英語版 (ブラジル孤立した言語)・プメ語英語版 (ベネズエラの孤立した言語) に見られる[10]。Antonov (2015) は、系統使用地域も異なるこれらの言語を、アロキュティビティの観点から比較している。それ以前に"allocutive"という術語をバスク語以外の言語へと適用した研究としては、例えば、ベジャ語の形態論を扱ったAppleyard (2007) がある[13]

スベロア地方のバスク語には、親しい聞き手の性別を表すアロキュティブ標識 (前節で述べた-k, -n) に加えて、聞き手への敬意を表すアロキュティブ標識 (-sy) が存在する[14][12]。Antonov (2013) は、現代日本語の「-です」「-ます」や、現代韓国語の「-습니다/ㅂ니다(-supnita/pnita)」「-어요/아요(-eyo/ayo)」を、これに相当する形式と見做している。

アジアに分布する50以上の言語を対象とした文末助詞英語版の横断的研究であるPanov (2020) は、日本語の「よ」「ね」[2]広東語の「[15]タイ語ครับ (khráp), ค่ะ (khâ)[16][2]等を、アロキュティブな文末助詞として分析している。

聞き手敬語とアロキュティビティ

敬語の中でも聞き手に対する敬意を表すものは、言語類型論において聞き手敬語 (addressee honorifics)と呼ばれる [17]。例えば、インドネシアで話されるジャワ語スンダ語マドゥラ語では、尊敬すべき人物を聞き手とする場合に、通常とは異なる語彙が用いられる[18]。また、タイ語ビルマ語には聞き手への敬意と話し手の性別を同時に標示する文末助詞が存在する[18]

日本語及び奄美群島沖縄本島琉球諸語[18]に見られる聞き手敬語 (丁寧語) の接尾辞は、バスク語スベロア方言の-sy [12] のような動詞アロキュティビティの標識と考えることができる[19][20][21]。実際、「私が彼を殴りました」という日本語の文において、敬意の対象である聞き手は、動詞の項としては現れていない[22]

動詞形態論を通したアロキュティビティの標示は、韓国語にも認められる[23]。なお、現代韓国語の聞き手敬語「-습니다/ㅂ니다(-supnita/pnita)」は、中期朝鮮語の目的語敬語接辞-sop-と、同じく中期朝鮮語の聞き手敬語-ngi-が融合したものが由来であるが[24]、日本語の「-ます」もまた、目的語敬語の「まゐらす」から発展した形式である[25]


  1. ^ Antonov (2015), p. 56.
  2. ^ a b c d Panov (2020), p. 41.
  3. ^ Antonov (2013).
  4. ^ Antonov (2013), p. 317.
  5. ^ Bonaparte (1862), pp. 18–21.
  6. ^ a b Trask (1997), p. 234.
  7. ^ Antonov (2015), pp. 56–57.
  8. ^ グロスの日本語訳は執筆者による。
  9. ^ Hualde & Ortiz de Urbina (2003), p. 243.
  10. ^ a b Antonov (2015), pp. 57–58.
  11. ^ Hualde & Ortiz de Urbina (2003), p. 242.
  12. ^ a b c Antonov (2015), p. 57.
  13. ^ Appleyard (2007), p. 467.
  14. ^ Hualde & Ortiz de Urbina (2003), p. 246.
  15. ^ Panov (2020), p. 29.
  16. ^ Panov (2020), p. 14.
  17. ^ Velupillai (2012), p. 373.
  18. ^ a b c アントノフ (2016).
  19. ^ Miyagawa (2012).
  20. ^ Antonov (2013), p. 319.
  21. ^ Yamada (2019), p. 107.
  22. ^ Antonov (2013), p. 321.
  23. ^ Antonov (2013), pp. 326–328.
  24. ^ Antonov (2013), pp. 328–329.
  25. ^ Antonov (2013), p. 325.





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