アメリカ国家安全保障局 セキュリティ技術

アメリカ国家安全保障局

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/18 06:09 UTC 版)

セキュリティ技術

暗号やセキュリティ技術に関して、NSAは世界最高の水準にあるが、その研究内容は秘密にされることが多い。しかし、NSAの技術のいくつかは広く一般に使われている。NSAが関わったクローズドソースつまりブラックボックスの一般向け暗号・セキュリティ技術については、バックドアの存在が疑われている。

NSAは暗号方式DESの策定に大きく関わっている。アメリカ国立標準技術研究所 (NIST) の前身、アメリカ国立標準局(NBS)が公募した標準暗号アルゴリズムに対し、IBMLuciferという暗号方式を提出するが、ここでNSAは、の長さを128ビットから56ビットに短縮し、S-BOXの内容を変更し、DESとして公式暗号となった。説明なしに行われたこの改造に対して、疑念の声が上がることになった。

実際は当時公知でなかった暗号解読法である差分解読法に対する耐性を持たせた。LuciferのSボックスはきわめて弱くすぐ破れた。改良のために当時最高のIBMコンピューターを数十時間使用した。56ビットに短縮したのはNSAが解読できるようにするためである[注 16]

次期標準暗号方式として公開で選定されたAESでは、技術コンサルタントとして関わっている。

NSAが中心となって、1990年代に個人のPC用のPGP暗号ソフトウェアとネットスケープSSL暗号ルーチンに対して、暗号鍵に128ビットを使用したフル規格製品を海外輸出することを許さず、米国内向け製品として128ビット製品と海外輸出向け製品として40ビット製品を作らせた。これは、NSAが解読すべき暗号で長い鍵を使われた場合、NSAが保有するコンピュータの処理量が、あまりに膨大となるために行なわれた制限である。1996年には西側各国に対する制限が解かれたが、米国が危険視する特定国には引き続き輸出制限が残された。

高度な暗号化技術に対しては、ワッセナーアレンジメントによって、輸出制限が掛かっている国家がある。

連邦政府が米国市民のすべての暗号鍵を管理するという、「キーエスクロー」と「クリッパーチップ」構想では、米国内で大きな議論を呼んだが、結局中止となった。クリッパー・チップで使われていた暗号化アルゴリズム「スキップジャック」(Skip jack) の開発元もNSAである。

また、ハッシュアルゴリズムSecure Hash AlgorithmのうちSHA-0SHA-1SHA-2もNSAが開発している(SHA-3アメリカ国立標準技術研究所 (NIST)による公募)。Security-Enhanced Linux (SELinux) というLinuxに対するセキュリティモジュールもNSAが中心となって開発された。

Microsoftは、Windows Vistaのセキュリティ機能の開発・検査に関して、NSAの関与を認めている。

2015年以降は、量子コンピューターによる暗号解読に対処するため、NISTと共同で量子耐性暗号の開発に着手している。

NSAはMicrosoftが提供するAzureや、Palantirのデータマイニング技術を業務に使用していると一部メディアで報じられる。


注釈

  1. ^ 中央情報局が国民の反体制活動を見張る事が出来ないため、2001年に起きたアメリカ同時多発テロ事件を契機に、連邦捜査局国家保安部2005年に設置された。
  2. ^ NSAには「オペレーション・ミナレット」、CIAには「プロジェクト・カオス」という国内秘密情報工作があった。
  3. ^ 歴代のNSA長官にも大将へと昇任した人物はいる
  4. ^ ルー・アレン・ジュニアが大将に昇進し、空軍参謀長になるまで、NSA長官後は中将のまま退役していた。
  5. ^ これらの各国はいずれもUKUSA協定締結国
  6. ^ 合衆国は、その成立過程が理由で、一般には連邦の組織には説明責任などが強く要請される。
  7. ^ 陸軍長官を2度つとめているが、当時は国務長官だった。
  8. ^ そのため強力な権限を与えられたNSA長官(DIRNSA、ダーンザ)は通信傍受・解読機関のすべての業務について指示を出すことができ、不服のある場合は国防長官にのみ上訴できることになった。
  9. ^ NSCID9の一部を除いてすべて情報公開されている
  10. ^ NSAに関する言及はない
  11. ^ オランダ人の暗号解読家に「北朝鮮機密電報コードSP/Dなどの実物コピーなどを渡した。中ソなどとの関係は知られていない。
  12. ^ 暗号解読、通信傍受などの業務内容については明らかになっていない。
  13. ^ 内部組織ALLO(All Others)で40カ国以上の暗号を解読していると述べた。
  14. ^ 国防省が事前検閲し、NSAの機密事項(例えばスイスにおける活動)を削除した。(「まえがき」より)
  15. ^ PROD8200人、COMSEC1700人、R&D2300人
  16. ^ NSAが解読できない暗号を自分たちで作って、ソ連などに使わせるのは本末転倒であると考えられた。

出典

  1. ^ a b 60 Years of Defending Our Nation” (PDF). National Security Agency. p. 3 (2012年). 2013年7月6日閲覧。"On November 4, 2012, the National Security Agency (NSA) celebrates its 60th anniversary of providing critical information to U.S. decision makers and Armed Forces personnel in defense of our Nation. NSA has evolved from a staff of approximately 7,600 military and civilian employees housed in 1952 in a vacated school in Arlington, VA, into a workforce of more than 30,000 demographically diverse men and women located at NSA headquarters in Ft. Meade, MD, in four national Cryptologic Centers, and at sites throughout the world."
  2. ^ a b Risen, James; Nick Wingfield (2013年6月19日). “Web’s Reach Binds N.S.A. and Silicon Valley Leaders”. The New York Times. 2013年6月20日閲覧。 "The sums the N.S.A. spends in Silicon Valley are classified, as is the agency’s total budget, which independent analysts say is $8 billion to $10 billion a year."
  3. ^ Sahadi, Jeanne (2013年6月7日). “What the NSA costs taxpayers”. CNN Money. 2013年6月17日閲覧。 "Aftergood estimates about 14% of the country's total intelligence budget -- or about $10 billion -- goes to the NSA."
  4. ^ Gorman, Siobhan (2007年1月17日). “Budget falling short at NSA”. The Baltimore Sun. 2013年6月17日閲覧。 "The agency's director, Lt. Gen. Keith B. Alexander, is seeking an increase of nearly $1 billion in supplemental spending for 2007 and a similar boost next year as the White House finalizes its 2008 budget, current and former intelligence officials say. The money crunch comes despite a doubling of the NSA's budget since the terrorist attacks of Sept. 11, 2001, to approximately $8 billion per year."
  5. ^ Who’s reading your emails? The Sunday Times, June 9 2013
  6. ^ Frequently Asked Questions - About NSA” (English). National Security Agency. 2004年3月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年12月9日閲覧。 “Neither the number of employees nor the size of the Agency's budget can be publicly disclosed. However, if the NSA/CSS were considered a corporation in terms of dollars spent, floor space occupied, and personnel employed, it would rank in the top 10 percent of the Fortune 500 companies.”
  7. ^ NSA Careers
  8. ^ a b 軍事用語のミニ知識 国家安全保障局、情報保全部,軍事研究,株式会社ジャパン・ミリタリー・レビュー,2013年11月号,P188-189
  9. ^ The National Security Agency: Declassified
  10. ^ Government Organization Manual
  11. ^ ”Codebreakers",David Kahn。日本語抄訳「暗号戦争」早川書房、昭和43年
  12. ^ "The Super Spies"アンドリュー・タリー。関口英男訳、早川書房。p66-80「6.NSAの内幕」
  13. ^ "U.S. Electronic Espionage: A Memoir" Ramparts Magazine (1972 interview with Perry Fellwock)
  14. ^ 「新情報戦」朝日新聞社編p46
  15. ^ ジェイムズ・バムフォード 著,滝沢一郎訳
  16. ^ National Cryptologic Museum
  17. ^ http://www.bbc.com/news/world-us-canada-23123964
  18. ^ “オランダ諜報機関、180万の通話盗聴”. ポートフォリオ・ニュース. (2014年2月6日). http://www.portfolio.nl/bazaar/home/show/303 2014年2月15日閲覧。 
  19. ^ ウォール・ストリート・ジャーナル 米英情報機関、携帯通話傍受目的で蘭企業のシステムに侵入か 2015年2月22日14:57 JST
  20. ^ 毎日新聞電子版 ドイツ:情報機関が米NSAに協力疑惑 広がる波紋 2015年05月01日 11時32分(最終更新 05月01日 13時06分)
  21. ^ Bundestag Inquiry into BND and NSA





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