ストーム‐セル【storm cell】
読み方:すとーむせる
⇒降水セル
降水セル
(storm cell から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/08 16:36 UTC 版)
降水セル(こうすいセル、precipitation cell)とは、雨や雪などの降水現象や、大小さまざまな規模の低気圧を構成する空気の塊のこと。セル(cell)は英語で細胞を意味し、ここからストームセル(storm cell)という言葉が生まれた。アメリカではストームセル、あるいは単にセルと呼ぶことが多いが、日本では降水セルまたは単にセルと呼ぶ。
気団の1種とする見方もあるが、一般的に気団とされるものに比べて、規模が小さく、持続期間が短く、不安定であるという特徴を持っている。
降水セルの特徴とほかのものとの違い
降水セルはよく、一種のシステムとして理解される。
例えば、夏の安定した晴天の下で猛暑になり、山沿いを上昇気流が上昇したとする。すると、上昇気流は次第に冷やされてある高さまで上昇すると雲ができる。上昇気流が強ければ、下からどんどんと空気を押し上げるため雲から上にどんどんと上昇し、一部の冷やされた空気が次第に周囲に向かって吹き出してやがて下降し始める。下降した空気が、その下にある暖かい空気を押しやって、山に向かう上昇気流を促進する。このように、熱力学(気象熱力学)や力学(気象力学)的な原理から、自動的に気流の循環が確立していると認められた空気の塊を降水セルと呼ぶ。
降水セルに似た気流の循環は、大小さまざまな規模がある。また、できる状況もさまざまで、前線面での空気の衝突、大気の成層不安定などがあり、頻繁に発生する。しかし、その中で降水セルと呼べるものは多くない。降水セルは、直径数km〜数百kmのものに限定しているためであり、その対象は大きな積雲や積乱雲を発生させるような、強い循環をもつものに限られてくる。これは、もともと「降水セル」というものが、雷雨や嵐(ストーム)のメカニズムやシステムを明らかにするために考え出されたからである。
このため、陣旋風や竜巻といった小規模な現象、温暖前線や低気圧を動かす大きな循環などは降水セルに含めない。温暖前線や低気圧などの下で降る雨は、降水セルのような小規模な循環ではなく大規模な循環に影響される部分が大きい。一方、寒冷前線や停滞前線の雨は降水セルに影響される部分が大きい。温暖前線や低気圧にも降水セルがないわけではないが、1つ1つのセルの独立性が弱く、多数のセルが緩やかに結合したような形態をとっているため、普通はセルとみなさない。
また、積乱雲の降水セルは1つとは限らず、複数のセルからできていることも多い。また、複数の発達したセルがまとまって相互作用を生み出すことがある(次節で解説)。このセルの相互作用が強く多数のセルがまとまると、メソ対流系(MCS)という低気圧に似た循環構造ができることがあり(日本では少なく、アメリカなどでよく発生する)、低気圧にまで発達することがある。
種類と強度
降水セルは、孤立した単一セルか複合した多重セルか、組織化されているかいないか、の2要素によって以下のように分類される[1][2][3]。
他と隣り合わない孤立したセルをシングルセル (Single cell)や単一セル、他のセルと互いに接するセルをマルチセル (Multiple cell, Multi cell)や多重セルという。
- シングルセル、および組織化されていないマルチセル
- シングルセル型積乱雲の発生・発達から消滅までは30分から1時間程度。雲を形成する上昇流は成熟期に入ると弱まり、後に続けて雲が発生しない。ダウンバースト、雹、一部で激しい降雨があり、弱い竜巻が発生することもある[1][2]。
- また、いくつかの積乱雲が繋がって塊を形成しているように見えるマルチセルであっても、とくに鉛直シアが小さい(風向・風速の高度差が小さい)安定的な状況では、それぞれのセル(積乱雲)は雑然と群れているだけでシングルセルのように振る舞い、どこにセルが発生するのか、どこにどの段階のセルが位置するのかはランダムで規則性がない。ただし、塊の中に成長段階の異なる複数のセルがあるため全体としては活動が数時間続く。この種のセルによる雷雨を気団性雷雨、気団雷、熱雷という。夏に太平洋高気圧下の日本で発生する夕立はこの典型[1][2][3][4]。
- 組織化されたマルチセル
- 鉛直シアが大きい(風向・風速の高度差が大きい)状況では、積乱雲群が全体として移動し、一定の上昇流域や下降流域が形成され、成長段階の異なる複数のセルが規則的に並んで、世代交代が繰り返される。短時間強雨、大きめの雹、弱い竜巻が発生するおそれがある。この種のセルによる雷雨をマルチセル型雷雨という。状況によっては同じ場所に降水域が停滞する形となり、強雨が長時間続いて集中豪雨となる[1][2][3][4]。
- スーパーセル(Supercell)
- 大規模な単一セルの中に上昇流域や下降流域が維持され、それが回転運動しメソサイクロンを形成する。寿命は数時間からそれ以上に及ぶ。メソサイクロンの鉛直渦度0.01 s-1以上とする定義もある。強いダウンバースト、大きな雹があり、しばしば激しい雨を起こし、強い竜巻が発生する恐れがある。ドップラーレーダーでこのセルを観測すると、フックエコーという特徴的な形のエコーが見られる。アメリカ中西部で頻繁に竜巻を発生させる雷雨はこれに当たる。大気の中層に乾燥した空気があると発生しやすく、アメリカでは乾燥した空気の最前線を示すドライラインが地上天気図で用いられ、激しい雷雨が発生する目安とされている。このセルによる雷雨をスーパーセル型雷雨という[1][2][3]。
脚注
参考文献
- 武田喬男『豪雨の特徴とメカニズム』、水工学に関する夏期研修会講義集、土木学会、vol.20, A.6.1-A.6.16、1984年
- Types of Thunderstorms. "Weather World 2010", UIUC
- 山岸米二郎『気象学入門 -天気図からわかる気象の仕組み- - Google ブックス』、オーム社、2011年 ISBN 9784274209895
- 岩槻秀明 『図解入門 最新 気象学のキホンがよ~くわかる本』秀和システム、2012年。ISBN 978-4-7980-3511-6
関連項目
- storm cellのページへのリンク