TACTICOS
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TACTICOS(英語: TACTical Information and Command System)は、オランダのシグナール社(オランダ語: Hollandse Signaalapparaten BV、2000年末にタレス・ネーデルラント社に改称)が開発した艦載用の戦術情報処理装置(戦闘管理システム:CMS)である[1][2]。
来歴
1980年代後半、シグナール社は自社の戦術情報処理装置ファミリーであるSEWACOの指揮・統制(C2)システムを進化させ、STACOS IVの完全分散型バージョンの開発を継続していた[1]。同社はレーダーや射撃指揮システム、指揮兵器統制システム向けに専用コンソールを常に製造してきたが、1980年代の開発によりSIGHT(Signaal General purpose High-resolution Tactical display)コンソールが誕生し、その第一世代であるGOS(General Operator Station)は1991年にオランダ海軍のSEWACO VIIシステムで就役した[3][1]。1990年12月、トムソンCSF社によるシグナール社の買収直後、両社の戦闘システムおよびトムソン社のTAVITAC 2000システムの最良の要素を融合させるという企業決定が下され、これにより拡張されたSTACOS IVが「TACTICOS」と命名された[1][2]。ただし、買収後もこれら2つのシステムは本質的に別の系譜であり、市場では別々に販売されている[1]。
最初の顧客はトルコ海軍であり、バルバロス級フリゲート(MEKO 200型)およびユルドゥズ級ミサイル艇向けに本システムを選定した[1]。トルコおよび第二の顧客となったオマーンは、当初はSTACOS IVを選定していたが、最終的にTACTICOSへと変更した[1]。1994年6月に就役したトルコ海軍のミサイル艇「ユルドゥズ」への搭載をもって、初の本格的な実戦配備となった[1][2]。その後、TACTICOSはドイツ海軍のザクセン級フリゲート(124型)やオランダ海軍のデ・ゼーヴェン・プロヴィンシェン級フリゲート(LCF)といった先進的な防空艦における戦闘指揮システム(CDS)の基盤として採用された[4][1]。これら防空艦の主要センサーには、シグナール社製のAPARフェーズドアレイレーダーが採用されている[1]。また、フィンランド海軍は2000年2月から8月にかけてTACTICOSのテストベッドをリースし、将来艦艇の戦闘管理システムに対する要求仕様を定義するためにミサイル艇「ハミナ」に設置して試験を行った[1]。
システムの特徴とアーキテクチャ
指揮統制機能
TACTICOSは、対空戦(AAW)、対水上戦(ASuW)、対潜戦(ASW)、艦砲射撃支援(NGFS)、および電子戦(EW)の複合戦をサポートする能力を持つ[1]。本システムは、艦載および艦外の各種センサー、戦術データ・リンク、通信機器を統制し、受信データを融合して総合的な戦術状況図を合成・構築する[1][2]。さらに、目標の自動脅威評価(TEWA)や優先順位付けを行い、指揮官・オペレータチームに対する意思決定支援機能を提供する[1][2]。本システムは目標への自動目標指定を兵器システムや適切なセンサーに対して行うほか、航海支援、ヘリコプターなどの航空資産の管制誘導、さらにはシステム内での訓練・シミュレーション機能も備えている[1]。また、航空管制ステーション(VCS)ソフトウェアをTACTICOSに統合することにより、MOCコンソールを介して無人航空機(UAV)を制御することも可能である[4]。本システムは単体(スタンドアロン型)での運用のほか、広範なセンサー・兵器と連接されて「SEWACO-FD」戦闘システムの中核を構成することも可能である[1][2]。
ネットワークとミドルウェア「Splice」
TACTICOSは、多機能共通オペレータコンソール(MOC)とバスターミナルサーバー(BTS)を主軸とする完全な分散型アーキテクチャを導入している[1][2]。このハードウェア群と、分散型データベースおよびデータ通信ソフトウェアである「Splice」を包括したシステム構造は、シグナール社において「SigMA3-S」(SIGnaal Modular Architecture, release 3 with SPLICE)と定義されている[1]。各構成要素はデュアル(2重化)イーサネット規格のLANを介して接続されており、必要に応じて4重化ネットワークへの拡張や、高信頼性のFDDIあるいはATMネットワークへの換装も可能である[4][1]。これとは別に、生のレーダービデオやテレビ映像を配信するための冗長化されたビデオ分配バスも独立して並行配線されている[4][1][2]。データ処理は、各MOCワークステーション内に収められた「SigMAノード」において自律的に実行される[1][2]。
ソフトウェア機能はすべて個別のモジュールとして記述され、Sigmaソフトウェアインタフェースを含むTACTICOSの「カーネル」内で実行される[4]。タレス・ネーデルラント社はSpliceをリアルタイムの情報ブローカーと表現しており、アプリケーションは互いに最小限しか依存しない自律モジュールである[4]。各アプリケーションは独自のローカル(プライベート)データベースを持ち、他のデータベースから切り離されているため、それぞれ独自の速度で実行できる[4]。Spliceソフトウェアにはパブリッシュ/サブスクライブ型データネットワークを使用してアプリケーションに必要なデータを提供するエージェントが含まれている[4]。アプリケーションソフトウェアは、各プロジェクト固有のモジュールと、TACTICOSの標準ソフトウェアベースから構成される[1]。また、米軍等のJMCISソフトウェア、ジェーン海軍年鑑などの電子出版物、メッセージ処理ソフトウェアといったサードパーティ製パッケージをシステム内にシームレスに統合できる[4][1]。顧客側のソフトウェア開発センターでソフトウェアの製造・保守を行うことも可能な設計となっている[1]。
インターフェースと周辺機器
LANやビデオバスに直接接続できないサブシステムやセンサーに対しては、1サブシステムにつき1基のバスターミナルサーバー(BTS)を介してインターフェース接続を行う[1][2]。BTSは内部に予備のインターフェースカードスロットを備えており、NTDS(米海軍規格)、MIL-STD-1553B、RS-432といった多様な規格に対応できる[1]。また、BTSは予備の処理能力を有しており、標準のプロセッサノードが故障した際には自動的にその処理を補償・代替する[1]。故障や戦闘被害の際には、プログラムがプロセッサに自動的または手動で再割り当てされ、セマンティクスベースの接続を介して機能情報やデータベース情報が自動的に再ルーティングされる[4]。
周辺機器としては、オンラインプロッティングテーブル(主にMSI社製の93.5×65 cmサイズ「SPL」)が接続され、手動入力された9目標および自動抽出された54目標の同時追尾が可能である[1]。さらに、レーザープリンターを備えた市販ベースのワークステーションである一般支援ステーション(GSS)が用意されており、システムの監視、データベースのサポート、訓練用として機能する[1]。戦闘指揮所(CIC)内には、3名のオペレータが着席できる水平型の「カンファレンス」コンソールや、市販のプロジェクションシステムを用いた67インチ(170 cm)の大画面ディスプレイを補助的に追加配置することもできる[4][1]。
搭載コンソール(MOC)の変遷
TACTICOSのオペレータ用コンソールは、MOC(Multifunction Operator Console)シリーズ、あるいは輸出向けにSIGHT(Signaal General purpose High-resolution Tactical display)の名称で展開された[1]。第一世代であるGOSはISO規格のグラフィカル・カーネル・システム(GKS)に基づいて設計され、各コンソールがSMR-MUなどの専用コンピュータを内蔵して最大4つのデータソースの同時処理やウィンドウ表示、オーバーレイ表示に対応していた[1]。すべてのMOCコンソールは自身の大量記憶装置内にすべてのソフトウェアファイルを保持しており、故障時や戦闘損害時にはシステム管理ソフトウェアによってプログラムが自動的または手動で他のプロセッサへ再割り当てされる[4]。
- MOC Mark 1
- 集中型または結合型アーキテクチャ向けのオペレータワークステーションとして設計された[1]。32ビットのR3000およびR3010プロセッサを搭載し、UNIXオペレーティングシステム、X Window System、OSF/Motif標準を採用している[4][1]。1基または2基の19インチ高解像度ラスタースキャン表示器を備え、NTSCまたはPAL規格に対応したレーダースキャンコンバータおよびTVビデオコンバータを内蔵する[4][1]。重量は225 kg、寸法は長さ84 cm、高さ125.7 cm、奥行き110 cmである[1]。
- MOC Mark 2
- 完全分散型アーキテクチャに対応するため、追加のホスト処理ノードを組み込んだ世代である[1]。アプリケーション処理部には、VMEフォーマットのSPARCアーキテクチャを採用した「SigMAマルチプロセッサノード」を導入[4][1]。オペレーティングシステムにはVxWorksまたはSUNOSを用い、ソフトウェアはAdaおよびC言語で記述されている[4][1]。プロセッサノード内には2〜7枚のSUNプロセッサボード(代表例として12.5 MIPS / 20 MHz、16MB RAMを備えたSUN-1SE1)がタンデムまたは垂直に配置される[4][1]。完全な軍用仕様(MOC Mark 2V)のほか、環境耐性を高めたラギダイズ仕様(MOC Mark 2R)が提供される[1]。画面サイズは19インチ、24インチ、29インチから選択可能[1]。マンマシンインタフェース(MMI)としてQWERTYキーボード、保護キーモジュール、ジョイスティック、トラックボール(ローラーボール)を備える[1]。重量は250 kg、寸法は長さ76 cm、高さ125.7 cm、奥行き128 cmである[1]。単画面モデルはSTINGやSTIRなどの射撃指揮レーダーの専用サブシステムコンソールとして、2画面モデルはより高度な指揮・兵器管制システムで多用される[1]。
- MOC Mark 3
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1996年10月のユーロナバルで発表された、商用オフザシェルフ(COTS)技術をより高度に活用した最新世代である[1]。新素材の採用やエアクッションを用いた冷却システムの導入など、人間工学とMMIに最新の概念を適用している[4][1]。用途に応じて以下の3つのバージョンがラインナップされている[4][1]。
- Mediator
- 基本となるワークステーションであり、顧客が選定したプロセッサを内蔵し、13〜24インチのフラットパネルディスプレイ(LCD)を垂直または水平に最大3基配置できる[4][1]。MMIにはスペースボールやタッチパネル、トラックボール、QWERTYキーボードが用いられる[4][1]。最上位仕様では、卓上に配置された3番目の画面をスクラッチパッドとして使用し、ペンコントロールによる直接入力が可能である[4][1]。
- Presenter
- ブリーフィングやデブリーフィングなど、一方通行のデータ表示・通信用途に特化したコンソール[4][1]。
- Commander
- 指揮官用の専用シート型ディスプレイシステム[4][1]。16インチのインテグラルディスプレイのほか、ビデオ会議用のミニチュアTVカメラ、マイク、スピーカー、およびコントロール類がシートの左右前方に一体化されている[4][1]。
- 1996年のユーロナバルで展示されたのはプロトタイプの「Presenter」および「Commander」であり、次いで1997年3月に先行生産型の「Mediator」ディスプレイ2基が公開された[1]。MOC Mark 3の最初の顧客はギリシャ海軍であり、同海軍が購入したTACTICOSシステム向けにスーパー・ヴィタ型高速戦闘艇および改良型ピルポリティス級(ヘレニック56)哨戒艇用として発注され、納入は哨戒艇向けが2001年から、ミサイル艇向けが2002年から開始された[1][2]。
スタンドアロン型システムとミニシステム
スタンドアロン型リンク 11システム
MOC Mark 2ワークステーションとTACTICOSのソフトウェアを組み合わせることで、モジュール式に拡張可能な単体の「スタンドアロン型リンク 11システム」を構築できる[4][1]。初期状態では自艦位置を手動入力する単純な受信ステーションとして機能するが、艦艇の基準データ(コンパスやログ、GPS等)と接続・統合することで自動的な位置維持が可能となる[4][1]。さらに、レーダースキャンコンバータを追加することで自艦のレーダー映像を表示し、空中・海上目標の自動追尾機能へと段階的に拡張できる[4][1]。別のMOCコンソールをLANおよびBTSを介して追加・増設することで、責任分担を伴うミニチュア版のコンパクトなTACTICOSシステムへと発展させることも可能である[4][1]。
射撃指揮用ミニシステム
より大規模な戦闘システムの中において、射撃指揮用の独立したサブシステムとしてTACTICOSのミニシステムを構築する手法も提供されている[1]。一例として、大韓民国海軍の広開土大王級駆逐艦に搭載されたイギリス製のSMCS戦闘システムにおいて、射撃指揮用のサブシステムとしてこの構成が採用された[4][1]。同艦のシステムでは、MW-08捜索レーダーおよび2基のSTIR射撃指揮レーダーを統制するため、2基のMOCコンソールが配置されている[4][1]。このサブシステムは、韓国のゴールドスター・プレシジョン(金星精密)社によってライセンス生産された[1]。
運用者と搭載艦
TACTICOSシステム(各種限定版やスタンドアロン型を含む)は、11の海軍から約75システムが発注または納入されている[1][2]。MOCコンソールについては少なくとも160基以上が製造された[1]。
各国における艦艇ごとの搭載数および統合センサー等の構成は以下の通りである。
- オランダ海軍
- デ・ゼーヴェン・プロヴィンシェン級フリゲートに搭載(主要センサーはAPAR、SMART-L、DSQS-24ソナー)[4][1]。
- ドイツ海軍
- ザクセン級フリゲートに搭載(主要センサーはAPAR、SMART-L、DSQS-24ソナー)[4][1]。また、高速戦闘艇(FAC)のアルバトロス級およびゲパルト級(ゲパルト級は5隻に限定搭載)の近代化において、WM27レーダー等と結合した限定的なシステムとして導入された[4][1]。
- トルコ海軍
- バルバロス級フリゲートのTrack IIA(MOC8基、専用射撃指揮コンソール2基)およびTrack IIB(MOC10基)に搭載(主要センサーはAWS6/9、STIR、DE 1160ソナーなど)[4][1]。ミサイル艇のユルドゥズ級(MOC5基、AWS6/MW08等)、ドーアン級(Racal 1226、WM28等)、クルチ級およびクルチII級(MW08、Sting等)にも導入された[4][1]。また、ノックス級フリゲートにはリンク 11用の限定型システムが搭載された[4][1]。
- ギリシャ海軍
- スーパー・ヴィタ級ミサイル艇(FAC)向けに、2基の単座型・1基の複座型垂直2画面Mediatorコンソールと、1基の水平型コンソールからなるシステムを導入[4][1]。また、改良型ピルポリティス級哨戒艇にもMOC Mk 3を用いたシステムが発注された[1]。さらに、S級フリゲート(エリ級)6隻の近代化改修においても本システムが導入された[2]。
- ポーランド海軍
- オルカン級ミサイル艇の近代化において、2基のMOC Mk 3 Mediatorコンソールを備えたシステムが選定された[1][2]。捜索レーダーにはMW 08またはエリクソン社製シージラフ、武器管制にはタレス社製STINGまたはサーブ社製9LV Mk 3ディレクターがオプションとして挙げられている[1]。
- バングラデシュ海軍
- 韓国の大宇で建造されたフリゲート「バンガバンドゥ」に搭載され、LIROD Mk 2射撃指揮システム等と連接された[4][1]。
- インドネシア海軍
- リュールセン社製のPB 57 Nav V型大型哨戒艇に搭載され、2基のMOCコンソールを使用してSTING射撃指揮レーダー等と連接されている[4][1]。
- ポルトガル海軍
- ジョアン・ベーロ級フリゲートの近代化において、DRBV20/50やDRBC-31レーダー、SQS-510ソナー等と結合した限定的なリンク 11用コンソールシステムを導入し、専門的なソフトウェアの一部はポルトガルのエディソフト(Edisoft)社によって提供された[4][1]。
- カタール海軍
- ヴィタ級ミサイル艇に搭載され、MRRレーダーやSTING射撃指揮レーダーと統合された[4][1]。
- 台湾海軍
- シグナール社による公式確認はなされていないが、康定級フリゲートへの搭載が報じられている(主要センサーはジュピターII、トリトンG、カストールII、スフェリオンソナーなど)[1]。
- オマーン海軍
- カヒル級コルベットに3基のMOC Mk 2コンソール(主要センサーはMW 08、STINGなど)を配置したシステムを導入している[4][1]。
脚注
出典
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 Hooton 2001, pp. 115–118.
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 ForecastInternational 2004.
- ↑ Hooton 2001, pp. 109–112.
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 Friedman 2006, pp. 79–81.
参考文献
- Friedman, Norman (2006), Naval Institute Guide to World Naval Weapon System (5th ed.), Naval Institute Press, ISBN 978-1557502629
- Hooton, E.R., ed. (2001), Jane's Naval Weapon Systems (34th ed.), Jane's Information Group, ISBN 978-0710608932
- ForecastInternational (2004), SEWACO/TACTICOS - Archived 11/2005
TACTICOS
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/13 08:53 UTC 版)
TACTICOSは、上述のとおり、STACOS Mod 4を改称したものであり、かつてはSMCS (Signaal Modular Combat System)とも呼ばれていた。分散処理を導入しており、SEWACO XIの派生型であるSEWACO-FDとは本来別物であるが、極めて類似したものである。また、開発にあたっては、トムソンCSF(en:Thomson-CSF、現タレス)社の輸出用機種であるTAVITAC 2000の技術も導入されている。 TACTICOSはドイツのザクセン級フリゲートに搭載されて、そのNAAWSの中核となっている。ザクセン級フリゲートの搭載システムは、17基のワークステーション、2基の大型スクリーンを含み、主記憶装置も大容量化されている。
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