突厥文字 (Unicodeのブロック)とは? わかりやすく解説

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突厥文字 (Unicodeのブロック)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/20 19:08 UTC 版)

突厥文字 (Unicodeのブロック)
Old Turkic
範囲 U+10C00..U+10C4F
(80 個の符号位置)
追加多言語面
用字 突厥文字
主な言語・文字体系
割当済 73 個の符号位置
未使用 7 個の保留
Unicodeのバージョン履歴
5.2 73 (+73)
公式ページ
コード表 ∣ ウェブページ
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突厥文字(とっけつもじ、英語: Old Turkic)は、Unicodeブロックの一つ。

解説

8世紀初頭[1]から13世紀ごろにかけて、現在のモンゴル中華人民共和国北東部及びロシア連邦シベリア地域南東部に存在していた東突厥ウイグル可汗国イェニセイ・キルギズ天山ウイグル王国で話されていた、テュルク諸語の祖先に相当する古テュルク語を表記するための突厥文字(オルホン文字)を収録している。

突厥文字はアラム文字、及びおそらくアラム文字から発展したイラン系の文字に由来する文字体系であり[1]音素文字のうち子音と母音とに独立した文字が割り当てられているアルファベットに分類される。ただし、完全なアルファベットではなく、いくつかの子音字については子音字そのものがその子音の直前に存在する暗黙の潜在母音の情報を持っている[1]ため、部分的にアブギダのように機能する。

古テュルク語は現在の多くのテュルク諸語と同様に母音調和が存在するため、子音字には直前の母音が後母音前母音かで書き分けがされていた。Unicodeでの文字名がA-から始まる子音字(上付きの¹で転写)は後母音、AE-から始まる子音字(上付きの²で転写)は前母音に後続することを、E-から始まる子音字はどちらの母音にも後続しうることを表している。また、一部の字母は直前の母音とまとめて1文字で表され、A-AE-E-以外の母音で始まる文字名で示される。例えばU+10C31 𐰱 OLD TURKIC LETTER ORKHON ICは音素列/it͡ʃ/を表していた。

子音字は多くの場合、後続する子音字がその前に挟まる母音の情報も持っているため、後続する母音を明記しないことが多い。暗黙の母音を変更する場合や語末に母音がある場合は母音字が明記される[1]

アラビア文字ヘブライ文字などと同様に右から左への横書き(右横書き)であり、単語毎に分かち書きをする。元々は下から上に行送りされていたが、現代の学者の間では他の多くの文字体系と同様に上から下へと行を送って記録されてきた[1]ため、Unicode上では通常通り上から下への行送りがされるようになっている。また、極めて稀ではあるが牛耕式で書かれることもあり、その場合書字方向が反転した位置で字形が左右反転する[1]。区切りの約物として一般句読点ブロックに含まれるU+205A ⁚ TWO DOT PUNCTUATION補助句読点ブロックに含まれるU+2E30 ⸰ RING POINTが用いられる[1]

ルーン文字と外見が似ているが偶然であり、両者に系統的なつながりは存在しない[1]

突厥文字にはモンゴルのオルホン川付近に見られるオルホン碑文に用いられたものと、シベリアのイェニセイ川付近付近に見られるイェニセイ碑文に用いられたものとの2系統が存在し、それぞれは字形が異なるだけでなく綴字規則や表記可能な音韻の範囲に差異が見られるためUnicodeでは両方の字形を個別にエンコードしている。文字名にORKHONとついているものはオルホン碑文に、YENISEIとついているものはイェニセイ碑文に由来するものである。

符号位置の順序はおおむね伝統的な突厥文字の順序に従っている。

Unicodeのバージョン5.2において初めて追加された。

収録文字

コード 文字 文字名(英語) 用例・説明 ラテン文字転写
母音字
U+10C00 𐰀 OLD TURKIC LETTER ORKHON A 後母音としては[a]を、前母音としては[e]を表す。 A
U+10C01 𐰁 OLD TURKIC LETTER YENISEI A
U+10C02 𐰂 OLD TURKIC LETTER YENISEI AE Ä
U+10C03 𐰃 OLD TURKIC LETTER ORKHON I 後母音としては[ɯ]を、前母音としては[i]を表す。 I
U+10C04 𐰄 OLD TURKIC LETTER YENISEI I
U+10C05 𐰅 OLD TURKIC LETTER YENISEI E E
U+10C06 𐰆 OLD TURKIC LETTER ORKHON O 母音[o]或いは[u]を表す。 O
U+10C07 𐰇 OLD TURKIC LETTER ORKHON OE 母音[ø]或いは[y]を表す。 Ö
U+10C08 𐰈 OLD TURKIC LETTER YENISEI OE
子音字
U+10C09 𐰉 OLD TURKIC LETTER ORKHON AB 後母音の後の子音[b]を表す。
U+10C0A 𐰊 OLD TURKIC LETTER YENISEI AB
U+10C0B 𐰋 OLD TURKIC LETTER ORKHON AEB 前母音の後の子音[b]を表す。

文字名"äb"は古テュルク語で「家、テント」を意味し、このことが字形に反映されている[1]

U+10C0C 𐰌 OLD TURKIC LETTER YENISEI AEB
U+10C0D 𐰍 OLD TURKIC LETTER ORKHON AG 後母音の後の子音[ɡ]を表す。
U+10C0E 𐰎 OLD TURKIC LETTER YENISEI AG
U+10C0F 𐰏 OLD TURKIC LETTER ORKHON AEG 前母音の後の子音[ɡ]を表す。
U+10C10 𐰐 OLD TURKIC LETTER YENISEI AEG
U+10C11 𐰑 OLD TURKIC LETTER ORKHON AD 後母音の後の子音[d]を表す。
U+10C12 𐰒 OLD TURKIC LETTER YENISEI AD
U+10C13 𐰓 OLD TURKIC LETTER ORKHON AED 前母音の後の子音[d]を表す。
U+10C14 𐰔 OLD TURKIC LETTER ORKHON EZ 子音[z]を表す。 Z
U+10C15 𐰕 OLD TURKIC LETTER YENISEI EZ
U+10C16 𐰖 OLD TURKIC LETTER ORKHON AY 後母音の後の子音[d͡ʒ]を表す。

文字名"ay"は古テュルク語で「月」を意味し、このことが字形に反映されている[1]

U+10C17 𐰗 OLD TURKIC LETTER YENISEI AY
U+10C18 𐰘 OLD TURKIC LETTER ORKHON AEY 前母音の後の子音[d͡ʒ]を表す。
U+10C19 𐰙 OLD TURKIC LETTER YENISEI AEY
U+10C1A 𐰚 OLD TURKIC LETTER ORKHON AEK 前母音の後の子音[k]を表す。 K
U+10C1B 𐰛 OLD TURKIC LETTER YENISEI AEK
U+10C1C 𐰜 OLD TURKIC LETTER ORKHON OEK 音素列[øk]を表す。 ÖK
U+10C1D 𐰝 OLD TURKIC LETTER YENISEI OEK
U+10C1E 𐰞 OLD TURKIC LETTER ORKHON AL 後母音の後の子音[l]を表す。
U+10C1F 𐰟 OLD TURKIC LETTER YENISEI AL
U+10C20 𐰠 OLD TURKIC LETTER ORKHON AEL 前母音の後の子音[l]を表す。
U+10C21 𐰡 OLD TURKIC LETTER ORKHON ELT 音素列[lt]を表す。 LT
U+10C22 𐰢 OLD TURKIC LETTER ORKHON EM 子音[m]を表す。 M
U+10C23 𐰣 OLD TURKIC LETTER ORKHON AN 後母音の後の子音[n]を表す。
U+10C24 𐰤 OLD TURKIC LETTER ORKHON AEN 前母音の後の子音[n]を表す。
U+10C25 𐰥 OLD TURKIC LETTER YENISEI AEN
U+10C26 𐰦 OLD TURKIC LETTER ORKHON ENT 音素列[nt]を表す。 NT
U+10C27 𐰧 OLD TURKIC LETTER YENISEI ENT
U+10C28 𐰨 OLD TURKIC LETTER ORKHON ENC 音素列[nt͡ʃ]を表す。 NCH
U+10C29 𐰩 OLD TURKIC LETTER YENISEI ENC
U+10C2A 𐰪 OLD TURKIC LETTER ORKHON ENY 音素列[nd͡ʒ]を表す。 NY
U+10C2B 𐰫 OLD TURKIC LETTER YENISEI ENY
U+10C2C 𐰬 OLD TURKIC LETTER YENISEI ANG 後母音の後の子音[ŋ]を表す。 NG¹
U+10C2D 𐰭 OLD TURKIC LETTER ORKHON ENG 子音[ŋ]を表す。 NG
U+10C2E 𐰮 OLD TURKIC LETTER YENISEI AENG 前母音の後の子音[ŋ]を表す。 NG²
U+10C2F 𐰯 OLD TURKIC LETTER ORKHON EP 子音[p]を表す。 P
U+10C30 𐰰 OLD TURKIC LETTER ORKHON OP 音素列[op]を表す。 OP
U+10C31 𐰱 OLD TURKIC LETTER ORKHON IC 音素列[it͡ʃ]を表す。 ICH
U+10C32 𐰲 OLD TURKIC LETTER ORKHON EC 子音[t͡ʃ]を表す。 CH
U+10C33 𐰳 OLD TURKIC LETTER YENISEI EC
U+10C34 𐰴 OLD TURKIC LETTER ORKHON AQ 後母音の後の子音[q]を表す。 Q
U+10C35 𐰵 OLD TURKIC LETTER YENISEI AQ
U+10C36 𐰶 OLD TURKIC LETTER ORKHON IQ 音素列[ɯq]を表す。 IQ
U+10C37 𐰷 OLD TURKIC LETTER YENISEI IQ
U+10C38 𐰸 OLD TURKIC LETTER ORKHON OQ 音素列[oq]を表す。

文字名"oq/ok/"は古テュルク語で「矢印」を意味し、このことが字形に反映されている[1]

OQ
U+10C39 𐰹 OLD TURKIC LETTER YENISEI OQ
U+10C3A 𐰺 OLD TURKIC LETTER ORKHON AR 後母音の後の子音[r]を表す。
U+10C3B 𐰻 OLD TURKIC LETTER YENISEI AR
U+10C3C 𐰼 OLD TURKIC LETTER ORKHON AER 前母音の後の子音[r]を表す。
U+10C3D 𐰽 OLD TURKIC LETTER ORKHON AS 後母音の後の子音[s]を表す。
U+10C3E 𐰾 OLD TURKIC LETTER ORKHON AES 前母音の後の子音[s]を表す。
U+10C3F 𐰿 OLD TURKIC LETTER ORKHON ASH 後母音の後の子音[ʃ]を表す。 SH¹
U+10C40 𐱀 OLD TURKIC LETTER YENISEI ASH
U+10C41 𐱁 OLD TURKIC LETTER ORKHON ESH 子音[ʃ]を表す。 SH
U+10C42 𐱂 OLD TURKIC LETTER YENISEI ESH
U+10C43 𐱃 OLD TURKIC LETTER ORKHON AT 後母音の後の子音[t]を表す。
U+10C44 𐱄 OLD TURKIC LETTER YENISEI AT
U+10C45 𐱅 OLD TURKIC LETTER ORKHON AET 前母音の後の子音[t]を表す。
U+10C46 𐱆 OLD TURKIC LETTER YENISEI AET
U+10C47 𐱇 OLD TURKIC LETTER ORKHON OT 音素列[ot]を表す。 OT
U+10C48 𐱈 OLD TURKIC LETTER ORKHON BASH

小分類

このブロックの小分類は「母音字」(Vowels)、「子音字」(Consonants)の2つとなっている[2]

母音字(Vowels

この小分類には突厥文字のうち、基本的な母音字が収録されている。

子音字(Consonants

この小分類には突厥文字のうち、基本的な子音字が収録されている。

文字コード

突厥文字(Old Turkic)[1]
Official Unicode Consortium code chart (PDF)
  0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 A B C D E F
U+10C0x 𐰀 𐰁 𐰂 𐰃 𐰄 𐰅 𐰆 𐰇 𐰈 𐰉 𐰊 𐰋 𐰌 𐰍 𐰎 𐰏
U+10C1x 𐰐 𐰑 𐰒 𐰓 𐰔 𐰕 𐰖 𐰗 𐰘 𐰙 𐰚 𐰛 𐰜 𐰝 𐰞 𐰟
U+10C2x 𐰠 𐰡 𐰢 𐰣 𐰤 𐰥 𐰦 𐰧 𐰨 𐰩 𐰪 𐰫 𐰬 𐰭 𐰮 𐰯
U+10C3x 𐰰 𐰱 𐰲 𐰳 𐰴 𐰵 𐰶 𐰷 𐰸 𐰹 𐰺 𐰻 𐰼 𐰽 𐰾 𐰿
U+10C4x 𐱀 𐱁 𐱂 𐱃 𐱄 𐱅 𐱆 𐱇 𐱈
注釈
1.^バージョン16.0時点


履歴

以下の表に挙げられているUnicode関連のドキュメントには、このブロックの特定の文字を定義する目的とプロセスが記録されている。

バージョン コードポイント[a] 文字数 L2 ID ドキュメント
5.2 U+10C00..10C48 73 L2/07-325 China, Ireland, UK, SEI (1 January 2008), Proposal for encoding the Old Turkic script in the SMP (revised; WG2 N3357R) (英語)
L2/08-071 SEI / Michael Everson (28 January 2008), Proposal for encoding the Old Turkic script in the SMP (WG2 N3357R2, replaces L2/07-325R) (英語)
  1. ^ 提案されたコードポイントと文字の名前は、最終決定と異なる場合がある。

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j k SEI / Michael Everson (2008年1月28日). “Proposal for encoding the Old Turkic script in the SMP (WG2 N3357R2, replaces L2/07-325R)” (英語). Unicode. 2025年5月21日閲覧。
  2. ^ "The Unicode Standard, Version 15.1 - U10C00.pdf" (PDF). The Unicode Standard (英語). 2025年5月21日閲覧

関連項目




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