次の世へ蠅取蜘蛛を連れてゆこ
作 者 |
|
季 語 |
|
季 節 |
夏 |
出 典 |
粛祭 |
前 書 |
|
評 言 |
『粛祭』(2004年刊行)に所収されています。次の世、つまりあの世へ旅立つときに「そうだ、このちっちゃな蜘蛛を連れて行こう」と思いついたのです。この発見をした時の喜びがまるで次の部屋へ移動するような軽さで書いてあります。 蝿取蜘蛛は全長10mmほど。ひょいと目がいくと壁をつつっと歩いている可愛い蜘蛛で、ときにピョンと飛んだりする愛嬌も持ち合わせています。その蝿取蜘蛛と作者は一体化したのです。 思わず頬がゆるんでくるほのぼのとした空気がここにありますが、柿本多映氏のものごとを観る眼は、決してあいまいではありません。 日はことに荒ぶる蝶を遺しけり 空気より淋しき蝶の咀嚼音 春うれひ骨の触れあふ舞踏かな 生へも死へも正面から向き合って決して眼を逸らさない俳人です。その視線は、生あるものの宿命である死を正面から見据えています。蝿取蜘蛛というもっとも近しい存在は、もっとも遠い存在であることを教えられます。 |
評 者 |
|
備 考 |
- 次の世へ蠅取蜘蛛を連れてゆこのページへのリンク