大仏廻国
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大仏廻国・中京編 | |
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The Great Buddha Arrival | |
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監督 | 枝正義郎 |
脚本 | 大仏映画製作所 |
出演者 | 石川秀道 小島一代 |
撮影 | 藤井春美 山中虎男 |
製作会社 | 大仏映画製作所 |
公開 | ![]() |
上映時間 | 75分 |
製作国 | ![]() |
言語 | 日本語 |
『大仏廻国・中京編』(だいぶつかいこくちゅうきょうへん)は、1934年(昭和9年)製作・公開、枝正義郎監督による日本映画である。2018年にリメイク版が公開された。
概要

監督である枝正義郎が東亜キネマから独立し、昭和9年(1934年)に制作された作品である[1]。「大仏が動き出し、名古屋を巡り歩く」という題材を大規模なトリック撮影で描いた映画作品で、日本映画では初めて「着ぐるみとミニチュアで巨大なキャラクターを表現した作品」とされる[2]。
映像については、大小数十個の大仏を作り実景と模型を自由にモンタージュして場面の遠近に不自然を感じさせないように撮影したとされ、「グラスプロセス・スクリンプロセスなど、日本映画界空前の技術を開拓して観るものに映画の持つ奔放さを十分味はせるなど、大仏廻国の成功は一に日本映画界一歩の前進と確信」と評価されている[3]。
内容については、新愛知では「従来の映画道を無視しているなど大胆」「とにかく面白いスペクタクル映画」と紹介されている。名古屋新聞では「『キング・コング』などと同日の談ではない」と手厳しい評もある[4]。
当時はトリック撮影を駆使した作品という認識と共に、仏教映画とも捉えられており、「安易な絵解き映画では段々受けなくなった為に新しい作品は、例へば『大仏廻国』の如くにトリック撮影で興味の変化を狙って来た[5]」とある。
映画の舞台となった名古屋市では映画館が満席になるなど好評だった[6]。フィルムは戦災で焼失したため、現存していない[7]。ただし、戦後間もないころには断片的ながらフィルムが現存しており[6]、当時大阪の映画館で本作を観た筒井康隆は「パートカラーの観光映画、しかもブツ切れで数十分の代物」「志賀廼家淡海が大仏さんに淡海節を歌って聞かせたりするつまらぬつまらぬ映画だった」と書いている[8]。
あらすじ
愛知県知多郡上野村(現在の東海市)の聚楽園大仏が衆生済度のため日本全国を行幸するというもの。名古屋市内(真宗大谷派名古屋別院、本願寺名古屋別院、大須観音、名古屋城)を巡り歩く。犬山城を枕に一睡した大仏は真清田神社を参詣した後、再び名古屋市内に戻り名古屋公会堂、名古屋市議会、松坂屋、覚王山、鶴舞公園、名古屋市公会堂などを巡り、三河の知立八橋や常福寺の大仏と対面する。大仏は地獄と極楽を巡った後、雲に乗り東京に向かう[4]。
作品データ
- 監督 : 枝正義郎
- 原作・脚色 : 大仏映画製作所
- 企画 : 安藤春蔵
- 撮影 : 藤井春美、山中虎男
- 録音 : 松井晴継
- 出演 : 石川秀道 、小島一代、志賀廼家淡海一座(特別出演)[6]、松坂屋音楽隊
- 製作 : 大仏映画製作所
- 上映時間(9巻数 /2,057メートル) : 75分[9]
- フォーマット : 白黒映画(パートカラー) - トーキー - スタンダードサイズ(1.33:1)
- 初回興行 : 大須世界館
資料によっては枝正義郎を指揮として、監督を勝見庸太郎としたものや、勝見と村越章二郎の共同監督とするものもあるが、当時のキネマ週報には「勝見監督は先に立石トーキー『大仏廻国』を監督することになっていたが、自己の芸術的良心と相容れないからとの理由で同映画の監督を謝絶」と書かれている。
大仏廻国 The Great Buddha Arrival
大仏廻国 The Great Buddha Arrival |
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監督 | 横川寛人 |
脚本 | 横川寛人 米沢有機 米山冬馬 |
原作 | 枝正義郎 『大仏廻国・中京編』 |
出演者 | 菊沢将憲 米山冬馬 岩田桃夏(NMB48) 螢雪次朗 宝田明 |
音楽 | 篠田浩美 |
製作会社 | 株式会社3Y |
公開 | ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
上映時間 | 60分 |
製作国 | ![]() |
言語 | 日本語 |
製作費 | 300万円[10] |
『大仏廻国 The Great Buddha Arrival』(だいぶつかいこく ザ・グレート・ブッダ・アライバル)は、横川寛人監督による2018年に公開された特撮映画である。枝正義郎の1934年に発表された映画『大仏廻国・中京編』を原作としている[10]。枝正の孫である佛原和義の承認のもと、企画が立ち上がった。作中の大仏は、ラヴクラフト系モンスターの造形で知られる米山啓介が新たにデザインしている[7]。製作費300万円(2018年9月9日時点)のうち、148万1,000円はクラウドファンディングで調達している[10]。
キャスト
- 枝正義郎:菊沢将憲
- 村田:米山冬馬
- ももるん:岩田桃夏(NMB48)[11]
- 北:ゆうま
- 香山リポーター:安田崇
- カナダ人インタビュアー:シェリー・スゥエニー[12]
- メアリー・リサ・グリーソン博士:ペギー・ニール[13]
- アメリカ人キャスター:ノーマン・イングランド[14]
- ドイツ首相:インゲ・ムラタ[15]
- アメリカ大統領:フィリップ・グレンジャー[15]
- 謎の人物:ロバート・スコット・フィールド[16](カメオ出演)
- 枝正の恋人:長谷川いく[17]
- 女性自殺者:青木愛
- 田中プロデューサー:大迫一平[18]
- 板野アナウンサー:森田友希[19]
- マックスウェル・(トシ)ジェームズ:戸田年治[20]
- 物理学者:大槻義彦[7]
- 超常現象研究家:韮澤潤一郎[7]
- 大崎刑事:螢雪次朗[21]
- ストーリーテラー:宝田明[22]
【海外上映版以降の出演】
【2020年版以降の出演】
スタッフ
- 監督:横川寛人
- 脚本:横川寛人、米沢有機、米山冬馬、酒井健作(脚本協力)
- 大仏デザイン:米山啓介
- 音楽:篠田浩美
- 美術:浅井拓馬、山田果林、横川寛人
- ポスタービジュアルデザイン:高橋ヨシキ
- ブレーン:酒井健作
- VFX:株式会社color
- Special Thanks:佛原和義、守隨亨延
- 原作:枝正義郎『大仏廻国・中京編』
- プロデューサー:横川寛人、エイブリー・ゲーラ
- 制作プロダクション:株式会社3Y
- アンバサダー:みうらじゅん
製作
横川寛人が『ゴジラ』好きな友人から『大仏廻国・中京編』の存在を聞かされたことが製作のきっかけだったという(友人は美術担当として本作に参加している)[10]。2016年に枝正義郎の孫である佛原和義と連絡を取り、企画が始動した[10]。キャストには宝田明や螢雪次朗など、横川が影響を受けた特撮映画(『ゴジラ』、『ガメラ』)に出演している俳優を起用している。オファーのうち8割は断られたが、「宝田さんが出演されるなら」という理由で出演を決めたキャストもいたという[10]。
製作費の一部はクラウドファンディングで調達しており、Yahoo!ニュースで記事が掲載された際にアメリカ合衆国のプロデューサーのエイブリー・ゲーラが記事を英訳して紹介したため海外でも本作の存在が知られるようになり、それがきっかけで出演が決まった海外俳優(フィリップ・グレンジャーなど)もいるという[10]。
聚楽園大仏の建立者・山田才吉のひ孫である守隨亨延の働きかけによりフランス、ドイツ、イギリス、東海市(聚楽園)での上映が実現した[24]。
映像ソフト
2023年11月3日にアルバトロスよりBlu-rayが一般販売された[25]。
出典
- ^ 高槻真樹 2014, p. 126-127.
- ^ 高槻真樹 2014, p. 126-132.
- ^ 『映画と共に枝正義郎の記録』柴田勝、1978年。
- ^ a b “特撮の原点 帰ってきた『大仏廻国』(資料編)”. 示現舎 (2018年2月5日). 2018年4月25日閲覧。
- ^ 眞理 (真理舎) 2 (3). (1936-03).
- ^ a b c “大仏が名古屋を歩き回る 戦前に撮られた幻の特撮映画『大仏廻国』はどんな内容だったのか”. Excite Bit コネタ (2018年9月8日). 2018年9月9日閲覧。
- ^ a b c d “突如起き上がった大仏が全国を徘徊 戦前の特撮映画「大仏廻国」復活計画がクラウドファンディングで進行中”. ねとらぼ (2018年3月6日). 2018年4月24日閲覧。
- ^ 筒井康隆『不良少年の映画史(全)』p258、文藝春秋、1985年
- ^ 換算結果、日本映画データベース、2010年2月15日閲覧。
- ^ a b c d e f g “平成最後の年末にリメイクされる幻の特撮映画『大仏廻国』とは一体何か? 横川寛人監督に聞く”. Excite Bit コネタ (2018年9月9日). 2018年9月9日閲覧。
- ^ @daibutsukaikokuの2018年7月22日のツイート、2018年7月22日閲覧。
- ^ “Exclusive: Godzilla Alum Joins ‘The Great Buddha Arrival’”. FANBOLT (2018年4月30日). 2018年5月1日閲覧。
- ^ @daibutsukaikokuの2018年6月6日のツイート、2018年6月6日閲覧。
- ^ “Exclusive - Norman England Joins Cast Of"THE GREAT BUDDHA ARRAIVAL"”. Horror Society (2018年6月19日). 2018年6月20日閲覧。
- ^ a b “Exclusive: “TUCKER & DALE” actor joins new kaiju film “THE GREAT BUDDHA ARRIVAL””. Rue Morgue (2018年8月29日). 2018年8月30日閲覧。
- ^ @daibutsukaikokuの2018年5月21日のツイート、2018年5月21日閲覧。
- ^ @daibutsukaikokuの2018年9月17日のツイート、2018年9月17日閲覧。
- ^ @daibutsukaikokuの2018年7月24日のツイート、2018年7月24日閲覧。
- ^ @daibutsukaikokuの2018年7月18日のツイート、2018年7月18日閲覧。
- ^ “Surprise New Star Joins ‘The Great Buddha Arrival’”. POPHORROR.com. 2018年10月29日閲覧。
- ^ @daibutsukaikokuの2018年5月23日のツイート、2018年5月23日閲覧。
- ^ “宝田明さんが参加!!”. CAMPFIRE (2018年4月24日). 2018年5月1日閲覧。
- ^ “「大仏廻国」2020年版が9月公開、新シーンに古谷敏と佐野史郎”. 映画ナタリー (2020年7月30日). 2020年7月30日閲覧。
- ^ “パリ日本文化会館で怪獣特集、貴重資料や大スクリーンで見る巨大特撮映画”. 地球の歩き方. 2025年3月20日閲覧。
- ^ @daibutsukaikokuの2023年8月24日のツイート、2023年8月25日閲覧。
参考文献
- 高槻真樹『戦前日本SF映画創世記 ゴジラは何でできているか』河出書房新社、2014年3月20日。ISBN 978-4-309-27477-5。
関連項目
外部リンク
- 公式ウェブサイト 2018年版
- 映画『大仏廻国 』 The Great Buddha Arrival (@daibutsukaikoku) - X(旧Twitter)
- 大仏廻国 - 日本映画データベース 1934年版
- 大佛廻國のページへのリンク