塩化テトラフェニルホスホニウムとは? わかりやすく解説

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塩化テトラフェニルホスホニウム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/21 10:17 UTC 版)

塩化テトラフェニルホスホニウム
識別情報
3D model (JSmol)
ChEMBL
ChemSpider
ECHA InfoCard 100.016.265
EC番号
  • 217-890-3
PubChem CID
CompTox Dashboard (EPA)
特性
化学式 C24H20ClP
モル質量 374.84 g mol−1
外観 無色固体
密度 1.27 g dm−3
融点

274 °C, 547 K, 525 °F

危険性
GHS表示:[1]
Warning
H315, H319, H335
P261, P264, P271, P280, P302+352, P304+340, P305+351+338, P312, P321, P332+313, P337+313, P362, P403+233, P405
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

塩化テトラフェニルホスホニウム(えんかテトラフェニルホスホニウム、: Tetraphenylphosphonium chloride)は、化学式[(C
6
H
5
)
4
P]Clで表される第四級ホスホニウムである。略記としてPh
4
PCl、PPh
4
Cl、[PPh
4
]Clも用いられる(ここで、Phはフェニル基を示す)。

テトラフェニルホスホニウム塩およびテトラフェニルアルソニウム塩は、かつて過塩素酸イオンの重量分析において関心を集めた。PPh
4
Clは無色の固体であり、無機アニオンや有機金属アニオンと反応して親油性塩を生成する。そのため、[Ph
4
P]+
は無機アニオンを有機溶媒に溶解させるための相間移動触媒として利用される。

構造

[PPh
4
]+
Cl
はテトラフェニルホスホニウムカチオン[PPh
4
]+
塩化物アニオンCl
から構成される。カチオン部位では、4つのフェニル基リン原子に結合して、四面体構造をとる。

PPh4Clは無水塩[2]として結晶化するが、一水和物[3]や二水和物[4]としても結晶化することが知られている。通常は無水塩が市販されている。

PPh+
4
塩は結晶化が容易であることから、単結晶X線構造解析においても注目される。これは、剛直なフェニル基によって結晶のパッキングが容易となるためであり、第四級アルキルアンモニウム塩よりも高い融点を示す一因となっている。また、有機溶媒への溶解性が高いため、結晶化には多様な溶媒が利用可能である。

固体中の構成イオン 結晶構造空間充填モデル 結晶構造の球棒モデル

合成

[PPh
4
]Clやその類似化合物は、ニッケル塩触媒を用いたトリフェニルホスフィンクロロベンゼンの反応によって合成できる[5]

PhCl + PPh
3
→ [Ph
4
P]Cl

これらの類似化合物の中で最初に合成されたのは、臭化テトラフェニルホスホニウム(CAS番号2751-90-8)である。最初の合成法では、乾燥酸素臭化フェニルマグネシウムトリフェニルホスフィンの反応に通過させることによって合成された[6]。この反応はグリニャール試薬トリフェニルホスフィンオキシドの反応によって進行すると考えられる。

PhMgBr + Ph
3
PO → [Ph
4
P]OMgBr
[Ph
4
P]OMgBr + HBr → [Ph
4
P]Br + "Mg(OH)Br"

合成での使用

無機アニオンや有機金属アニオンを有するテトラフェニルホスホニウム塩は、結晶化しやすいことから、重宝される。また、それらの塩はアセトニトリルN,N-ジメチルホルムアミドのような極性有機溶媒に溶けやすい。代表的な例として、過レニウム酸塩([PPh
4
]+
[ReO
4
]
)[7]や各種チオモリブデン酸化物[8]、マレオニトリルジチオラート塩[9]などが挙げられる。

関連項目

脚注

出典

  1. ^ Tetraphenylphosphonium chloride” (英語). pubchem.ncbi.nlm.nih.gov. 2025年7月21日閲覧。
  2. ^ Richardson, J. F.; Ball, J. M.; Boorman, P. M. (1986). “Structure of Tetraphenylphosphonium Chloride”. Acta Crystallographica C42 (9): 1271–1272. Bibcode1986AcCrC..42.1271R. doi:10.1107/S0108270186092612. 
  3. ^ Schweizer, E. E.; Baldacchini, C. J.; Rheingold, A. L. (1989). “Tetraphenylphosphonium Chloride Monohydrate, Tetraphenylphosphonium Bromide and Tetraphenylphosphonium Iodide”. Acta Crystallographica C45 (8): 1236–1239. Bibcode1989AcCrC..45.1236S. doi:10.1107/S0108270189000363. 
  4. ^ Blake, A. J.; Garner, C. D.; Tunney, J. M. (2003). “Tetraphenylphosphonium Chloride Dihydrate”. Acta Crystallographica E59 (1): o9–o10. Bibcode2003AcCrE..59O...9B. doi:10.1107/S1600536802021682. 
  5. ^ Marcoux, David; Charette, André B. (2008). “Nickel-Catalyzed Synthesis of Phosphonium Salts from Aryl Halides and Triphenylphosphine”. Adv. Synth. Catal. 350 (18): 2967–2974. doi:10.1002/adsc.200800542. 
  6. ^ Dodonow, J.; Medox, H. (1928). “Zur Kenntnis der Grignardschen Reaktion: Über die Darstellung von Tetraphenyl-phosphoniumsalzen”. Berichte der Deutschen Chemischen Gesellschaft 61 (5): 907–911. doi:10.1002/cber.19280610505. 
  7. ^ Dilworth, J. R.; Hussain, W.; Hutson, A. J.; Jones, C. J.; McQuillan, F. S. (1996). “Tetrahalo Oxorhenate Anions”. Inorganic Syntheses. XXXI. pp. 257–262. doi:10.1002/9780470132623.ch42. ISBN 9780470132623 
  8. ^ Hadjikyriacou, A. I.; Coucouvanis, D. (1990). “Tetraphenylphosphonium Salts of [Mo2 (S) N (S2 )6-N ]2- Thioanions and Derivatives”. Tetraphenylphosphonium Salts of [Mo2(S)n(S2)6-n]2- Thioanions and Derivatives. Inorganic Syntheses. pp. 39–47volume=XXVII. doi:10.1002/9780470132586.ch8. ISBN 9780470132586 
  9. ^ Bray, J.; Locke, J.; McCleverty, J. A.; Coucouvanis, D. (1972). “Bis[cis -1,2-dicyanoethene-1,2-dithiolato(1- or 2-)] Complexes of Cobalt and Iron”. Bis[cis-1,2-Dicyanoethene-1,2-dithiolato(1- or 2-)] Complexes of Cobalt and Iron. Inorganic Syntheses. XIII. pp. 187–195. doi:10.1002/9780470132449.ch39. ISBN 9780470132449 



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