元永本古今和歌集
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元永本古今和歌集(げんえいぼんこきんわかしゅう)は、平安時代末期(12世紀)に書写された『古今和歌集』の古写本。仮名序および全20巻を完存する『古今和歌集』の写本としては、最古の遺品。綴葉装(列帖装)冊子本、上下二帖。平安時代後期、元永3年(1120年)頃に書写され、仮名書道の絶頂期における代表的古筆の一つ。伝称筆者は源俊頼だが、書風から藤原定実を筆者とするのがほぼ[1][2]定説である。国宝。東京国立博物館蔵。
概要
「元永本」の名称の由来は、上巻末尾に本文と同筆で「元永三年七月二十四日」の奥書があることによる。伝来は、江戸時代初期に尾張徳川家から加賀前田家に渡り蔵されていたが、中期には同家の家臣の手に渡ったらしい[注釈 1]。明治に入ると三井家11家のうち室町家の所収に帰した。室町家当主・三井高大(たかひろ)が昭和44年(1969年)に死去した後、同人の遺志に基づき、その翌年に東京国立博物館に寄贈された[4]。
料紙
料紙は5枚を一重ねとして、2つ折りにし、糸で綴じる。1面の寸法は21.1×15.5センチメートル。赤、緑、黄、茶、紫などの色変わりの染紙を料紙とし、表面は唐草、菱、七宝などの文様を雲母刷りにした唐紙で、裏面は金銀の切箔、野毛、砂子を散らす[5][6]。
現状の元永本の本紙は、上巻191枚382頁分、下巻196枚392頁分だが、伝来過程で巻頭巻末部分は破損欠失したと見られ、本来は上下巻とも200枚の帖だったと推定される[7]。しかし、平安時代当時の原装形態をほぼ完全に留めており、完本ゆえに全体像が明らかになる点で貴重である。巧妙な筆致と、華麗な料紙装飾とが表裏一体となってとけ合った、国文学・書道史貴重な優品と言える[8]。
注釈
脚注
- ^ 今関『かな 伝源俊頼 元永本古今和歌集』1972年、3頁 。
- ^ 飯島春敬「元永本古今集に就いて(1)」『書芸』1935年、15-19頁。「元永本古今集に就いて(2)」『書芸』1935年、11-18頁。
- ^ 飯島春敬『元永本古今和歌集』1955年、75頁 。
- ^ 「東京国立博物館陳列品収集の歩み」『MUSEUM』第262巻、東京国立博物館、1973年、34頁。
- ^ 高橋裕次『日本の料紙装飾の技法における受容と発展について』、280頁。
- ^ 『週刊朝日百科』「日本の国宝」44号、朝日新聞社、1997、p1 - 122。解説執筆は島谷弘幸。
- ^ 飯島春敬「元永本古今集に就いて(6)」1936年。
- ^ 佐佐木信綱「元永本古今集に就て」『書芸』第6巻第4号、1936年6月、21頁。
参考文献
- 『元永本古今集 伝源俊頼筆 上 1 (仮名序~巻第4)』二玄社〈日本名筆選30〉、1994年。ISBN 9784544007404 。
- 『元永本古今集 伝源俊頼筆 上 2 (巻第5~巻第10)』二玄社〈日本名筆選31〉、1994年。 ISBN 9784544007411 。
- 『元永本古今集 伝源俊頼筆 下 1 (巻第11~巻第16)』二玄社〈日本名筆選32〉、1994年。 ISBN 9784544007428 。
- 『元永本古今集 伝源俊頼筆 下 2 (巻第17~巻第20)』二玄社〈日本名筆選33〉、1995年。 ISBN 9784544007435 。
- 安東聖空『かな古筆美の研究 第6巻 (元永本古今篇)』同朋舎出版、1981年 。
- 小松茂美『小松茂美著作集 第6巻 (元永本・公任本古今和歌集の研究)』旺文社、1998年 。
- 飯島春敬「元永本古今集に就いて(1)」『書芸』第5巻第5号、書芸社、1935年6月、15-19頁。
- 飯島春敬「元永本古今集に就いて(2)」『書芸』第5巻第6号、書芸社、1935年8月、11-18頁。
- 飯島春敬「元永本古今集に就いて(3)」『書芸』第5巻第7号、書芸社、1935年9月、8-13頁。
- 飯島春敬「元永本古今集に就いて(4)」『書芸』第5巻第8号、書芸社、1935年10月、18-25頁。
- 飯島春敬「元永本古今集に就いて(5)」『書芸』第5巻第9号、書芸社、1935年12月、21-29頁。
- 飯島春敬「元永本古今集に就いて(6)」『書芸』第6巻第1号、書芸社、1936年2月、13-18頁。
- 飯島春敬「元永本古今集に就いて(7)」『書芸』第6巻第2号、書芸社、1936年4月、13-20頁。
- 飯島春敬 著、平安書道研究会 編『元永本古今和歌集』書芸文化院〈日本名筆全集 平安時代篇 巻8〉、1955年、37-74、75-89頁 。
- 佐佐木信綱「元永本古今集に就て」『書芸』第6巻第4号、書芸社、1936年6月、20-21頁。
- 今関脩竹 編『かな 伝源俊頼 元永本古今和歌集』二玄社〈書道技法講座 20〉、1972年 。
- 小松茂美『小松茂美著作集 第6巻 (元永本・公任本古今和歌集の研究)』旺文社、1998年。
- 高橋裕次 著、島谷弘幸 編『日本の料紙装飾の技法における受容と発展について』思文閣出版〈料紙と書 : 東アジア書道史の世界〈論文篇〉〉、2014年、269-285頁。
関連文献
- 飯島春敬「入道右大臣集に就て(1)」『書芸』第6巻第3号、書芸社、1936年5月、7-12頁。
- 飯島春敬「入道右大臣集に就て(2)」『書芸』第6巻第4号、書芸社、1936年6月、9-13頁。
外部リンク
- 東京国立博物館所蔵『古今和歌集(元永本)』 - e国宝(国立文化財機構)
- 元永本古今和歌集のページへのリンク