借金取りと香奠
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/05/05 03:12 UTC 版)
掛け売りが日常茶飯事だった時代、年の暮れは借金取りと逃げ回る人が風物詩となっていた。遊び好きで怠け者の彦一も例外ではなく、女房から「お前さん、そろそろ借金取りの旦那が来るが、どうしたらよいかの?」と尋ねられる。困った彦一だが、そのときふと名案を思いつき、「魚屋に行って籠いっぱいのはらわたをもらってこい」と伝えた。半信半疑で女房がもらってくると、耳打ちをする。しばらくして借金取りがやってきた。彼が扉を開けると、女房がひとりしくしく泣いている。彼は「正月も近いのに、これはいったいどうしたことじゃ?」と尋ねると、「はい、借金が返せなくて旦那さまが…この通り」と、生臭いはらわたにまみれ、包丁片手に横たわる彦一を見せるのだ。それを見た借金取りは激しく動揺し、「なんということじゃ!何もそこまで思い詰めなくてもよかろうに」と叫び、そして女房に「これは葬式代にでもするがよい、借金も帳消しじゃ。ああ縁起でもないことじゃ」お金を投げ渡すのだ。そんな怯えて逃げ出す借金取りが退散したのを確認すると、二人は涼しい顔を返す。無論、彦一は自刃を装った芝居を打っていただけであったが、「借金を帳消しだけでなく、香奠までもらってしまった」と二人は大喜び、こうしてお金に不自由しなくなった二人は気持ち良く正月を迎えることができたのだ。だが、その後、彦一が気持ち良く畦を歩いていると、ちょうど目の前に借金取りがやってくる。彼は気まずいと思いつつも、また頓智を働かせた。そして「これはどうしたことか、お前は死んだはずの彦一じゃなかろうか」と尋ねる。すると、彼は「はい、こうやって魂となっても草葉の陰から旦那様をお守りさせていただいているのです」と返した。これには、流石の借金取りも一杯食わされたとお手上げであった。
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