ピアノ五重奏曲 (シューマン)とは? わかりやすく解説

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ピアノ五重奏曲 (シューマン)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/27 06:14 UTC 版)

ピアノ五重奏曲(ピアノごじゅうそうきょく)変ホ長調作品44(独:Klavierquintett Es-Dur op.44)は、ロベルト・シューマンの代表的な室内楽作品である。ピアノ弦楽四重奏(2本のヴァイオリンヴィオラチェロ)のために書かれており、本作の編成は以降作曲されたピアノ五重奏曲のスタンダードとなった[1]

妻のクララ・シューマンは「力と初々しさのみなぎった作品」「きわめて華やかで効果的」と評し[2]、クララとの結婚で得られた幸福な生活を反映しているともされる[3]。豊かなイメージと確かな構想をあわせもち[4]、入念に構成されていながらも親しみやすい作品で、バッハから学んだ対位法も巧みに用いられている[1]

背景

この作品は、『室内楽の年』として知られる[4]1842年の9月から10月にかけてのわずか数週間のうちに作曲された。試演や手直しを経て1843年9月に出版され、クララに献呈している[1]。ごく初期にピアノ四重奏曲ハ短調(1829年、未完)を手掛けたあと、あらためて1836年ごろから室内楽の分野に興味を持っていた[4]シューマンは、1840年の歌曲、1841年の管弦楽作品に続いてこのジャンルに集中し[5]、同年中に3曲の弦楽四重奏曲ピアノ四重奏曲なども作曲している[4]

初演は1843年1月8日、ライプツィヒにて行われ、クララ・シューマンがピアノを担当した[1]。日本初演は1907年12月14日、東京の奏楽堂にて。R.v.コイベル(ピアノ)、アウグスト・ユンケル、H.ハイドリッヒ(ヴァイオリン)、幸田延(ヴィオラ)、ハインリヒ・ヴェルクマイスター(チェロ)による[6][7]

形式

典型的な4楽章構成で書かれている。

  1. Allegro brillante 変ホ長調、2/2拍子、ソナタ形式。力強く輝かしい第1主題と柔らかく優雅な第2主題からなり、2つの主題が巧みに扱われていく[8]
  2. In modo d'una marcia. Un poco largamente ハ短調、2/2拍子。ロンド形式で、葬送行進曲風の楽章である[8]
  3. Scherzo: Molto vivace 変ホ長調、6/8拍子。スケルツォ。2つのトリオをもつ形で書いており、第1トリオの旋律は第1楽章の第2主題との関連がある[8]
  4. Allegro ma non troppo 変ホ長調、2/2拍子。自由なソナタ形式。ハ短調とト短調を行き来しながら始まり、結尾において、終楽章の主題ともに第1楽章の主題が壮麗なニ重フーガで組み合わされて全曲を統一する[9][8]

受容

シューマンの室内楽曲の中では演奏される機会は多く、人気も高い[1]。クララはこの作品を重要なレパートリーとし[4]、シューマンに批判的だったフリードリヒ・ヴィーク[10]ワーグナーも好意的に接している[2]

しかしかつてシューマンに室内楽曲の作曲を勧めた[4]リストは、この曲をシューマンの家で聴いたが全く気に入らなかったらしく、アカデミックすぎるとして「ライプツィヒ風」と批判している[11][12]。亡くなっていたメンデルスゾーンのことも批判したリストの発言にシューマンは憤慨して席を立ち、疎遠となった[11]が、のちに二人は和解している[13]

参考文献

  1. ^ a b c d e 『作曲家別名曲解説ライブラリー23 シューマン』音楽之友社、1995。pp. 71-73.
  2. ^ a b Herttrich, Ernst (2006). “Preface”. Klavierquintett Es-dur. G. Henle Verlag. pp. IV-V. https://www.henle.de/media/foreword/0355.pdf 
  3. ^ マルセル・ブリオン(多尾道冬、須磨一彦訳)『シューマンとロマン主義の時代』国際文化出版社、1984年。p. 294.
  4. ^ a b c d e f 藤本一子『作曲家・人と作品 シューマン』音楽之友社、2008。pp. 75-78.
  5. ^ 『作曲家別名曲解説ライブラリー23 シューマン』pp. 77-78.
  6. ^ 『作曲家別名曲解説ライブラリー23 シューマン』p. 318.
  7. ^ 鈴木絢子 (2019)「明治時代の日本におけるシューマンの受容に関する研究 : 音楽取調掛及び東京音楽学校を中心に」『桐朋学園大学大学院研究年報』第1集。pp. 39, 45.
  8. ^ a b c d 『作曲家別名曲解説ライブラリー23 シューマン』pp. 73-76.
  9. ^ 『作曲家・人と作品 シューマン』pp. 182-184.
  10. ^ 『シューマンとロマン主義の時代』p. 271.
  11. ^ a b アラン・ウォーカー(横溝亮一訳)『大作曲家シリーズ1 シューマン』東京音楽社、1986年。pp. 114-116.
  12. ^ 『作曲家・人と作品 シューマン』p. 127.
  13. ^ 『シューマンとロマン主義の時代』pp. 377-378.

関連文献

  • Daverio, John. “'Beautiful and Abstruse Conversations': The Chamber Music of Schumann.” Nineteenth-Century Chamber Music. Ed. Stephen E. Hefling. New York: Schirmer, 1998: 208–41.
  • Nelson, J.C. ‘Progressive Tonality in the Finale of the Piano Quintet, op.44 of Robert Schumann’. Indiana Theory Review, xiii/1 (1992): 41–51.
  • Wollenberg, Susan. ‘Schumann's Piano Quintet in E flat: the Bach Legacy’, The Music Review, lii (1991): 299–305.
  • Westrup, J. ‘The Sketch for Schumann's Piano Quintet op.44’, Convivium musicorum: Festschrift Wolfgang Boetticher. Ed. H. Hüschen and D.-R. Moser. Berlin, 1974: 367–71.
  • Tovey, D.F. Essays in Musical Analysis: Chamber Music. London: Oxford, 1944: 149–54.

外部リンク




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