Oリング Oリングの概要

Oリング

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/22 09:58 UTC 版)

様々な大きさ、太さ、色のOリング

原理

Oリングの形状は、Oリング断面円形の「太さ」(線径)と、Oリングの環の「内径」の2つの寸法により基本的に決まる[6]。外筒と内筒のような、2つの部品間に取り付けて、そこで流体の入出を防ぐために使われる。片側の部品に溝を設けるなどして、Oリングに対する「押さえ」(溝)を作り、この押さえでOリングを保持する[5]。このとき、溝によってできるOリングが収まる空間の深さをOリング太さよりも小さくすることで、Oリングを押しつぶす[7]。これにより、Oリングと2つの部品の間には反発力が生じ、これらを密着させることができる[7]。これがOリングの基本となる密閉原理である。

以上のような、Oリングと押えのサイズ差によって押しつぶす単純な原理に加えて、Oリングには「セルフシール」と呼ばれる機構が働く[8]。Oリングが流体を密閉するとき、流体から圧力が作用する。元々のOリングと2つの部品間の反発力に流体からの圧力が加わり、さらに強く密着することになる[9]。セルフシール機構が働く他のシール部品としては、リップタイプのシール(リップパッキン)がある[1][10]

使用方法

Oリングを含むシール全般の使用方法は固定用と運動用に大別され、固定用はガスケット、運動用はパッキンと呼び分けられる[1]。Oリングは、これらどちらの用途にも使われる[11]

密閉対象

Oリングによる密閉対象は、流体から気体、真空密閉までに及ぶ。流体の具体例としては、、機械の作動油や潤滑油、ガソリン重油などの燃料類、アルコールなどの薬品類、気体の具体例としては、空気蒸気液化石油ガスフロンガスなどがある[12][13]。密閉流体とOリング材質のそれぞれの化学的特性を考慮して、Oリングの材料が選択される[14]。流体とOリングが適合しない場合、Oリングが硬化、軟化、あるいは溶解、膨潤するといったトラブルが起きる可能性がある。

気体密閉の場合には、Oリングへの潤滑剤塗布が重要となる[15]。真空密閉には流体の浸透を減らすために複数のOリング取り付けが有効となる[16]。Oリングに使用されるゴム材料の中でもブチルゴムが最も気体透過性が低く、真空用によく使用される[17]

固定用・運動用

Oリングの固定用としての使用例。黒いOリングが青い部分の流体を閉じ込めている様子。外側では白いバックアップリングがOリングを支えている。

固定用とは、密閉構造を成す部品同士が相対的に動かない状態で、Oリングが使用されることを指す[15]。それぞれの部品はボルトやリベットなどで固定される[15]。円筒形間で密閉する円筒面固定用と平面間で密閉する平面固定用にさらに大別される[18]

運動用とは、密閉構造を成す部品同士が相対運動する場合に対する使用方法を指す。主に、Oリング軸方向に往復運動する場合に対する用途が多い。ピストンシリンダーにおける使用が典型例である[15]。その他には、相手材がOリング軸方向回りに回転する場合や、回転運動と往復運動が同時に起こる螺旋運動をする場合などがある。固定用と比較すると、相対運動による摩擦が顕著となり、Oリング損傷の主因となる[19]。また、捩れの発生防止のため、Oリング太さを太くするなどの処置が行われる[11]

やや特殊な使用方法としては、低負荷のベルトドライブ装置のためのベルトとしてOリングが使用される場合もある[20]。また、部品と部品の衝突を緩和するための緩衝材のような役目としてOリングを設置する使用もある[16]

Oリング形状・ハウジング形状

内径 20 mm 前後のOリングの例

後述のように多くの規格でOリングの形状、溝の形状が標準化されている。

環の内径と太さによってOリングの形状が決定される。寸法の具体例としては、JIS規格では運動用Oリングの基準寸法(公称寸法)について、内径を2.8 mmから399.5 mmまで、太さを1.9 mmから8.4 mmまでの範囲で規定している[21]

ハウジングのために、典型的には密閉する2つの部品のどちらかに四角形の溝が作られる。その他のハウジング形状としては、三角溝、あり溝がある[22]

Oリングの欠点として、相手部品に押し潰してシールを達成する原理上、相手部品の表面粗さを小さくする必要がある[23]。特に運動用は、固定用以上に表面粗さを抑える必要がある[24]。運動用における摺動面には、算術平均粗さや二乗平均粗さで0.4 μm程度が要求される[25][24]

材料

要求特性

シール対象、使用温度、作用圧力などに応じてOリングの材料が選定される。次のような特性が考慮される[26]。一つの材料で全ての特性を満たすことは無いので、使用環境に応じて材料が選ばれる[27]

  • 低圧縮永久ひずみ
  • 耐老化性
  • 耐熱性
  • 耐寒性
  • 耐候性
  • 耐引裂性
  • 耐摩耗性
  • 耐油性
  • 耐薬品性
  • 気体透過性

Oリング材質の硬さは、Oリングの性能に関わる重要な物性の一つで[28]、ゴム材料のOリングの場合にはデュロメータ硬さタイプA測定値が標準的に指標として使われる[29]。最も柔らかいOリングでHDA 50程度である[30]

具体例

標準的なゴム材料のOリング
金属Oリング

Oリングの材料にはゴム材料が使用されるのが一般的である。以下に主要な材料とその特性を記す。

ニトリルゴム
汎用Oリングの材料として用いられる[31]。比較的安価なため、使用量は最も多い[32]。特に圧縮永久ひずみが小さい利点を持つ[31]。ただし対候性は低く、日光が直接当たらない環境で使用することが推奨される[33]。耐候性・耐熱性・耐化学薬品性を改良した水素化ニトリルゴムも実用化されているが、一般的なニトリルゴムよりも耐寒性に劣り、コスト高となる。
シリコーンゴム
耐熱性・耐寒性に優れ、おおよそマイナス100℃から250℃に至る非常に幅広い温度域で使用される[31]。欠点としては機械的強度が低く、運動用には推奨されない[32]
フッ素ゴム
機械強度、対候性、耐老化性など良好だが、特に耐薬品性に優れる[33]デュポン社のバイトン(ヴァイトン)、さらに耐熱性と耐薬品性を改良した同じくデュポン社のカルレッツが知られる[31][33][32]
ウレタンゴム
Oリングに使用されるゴム材料の中では最も機械的強度が高い[31]。具体的には、引張強さ、引裂強さ、耐摩耗性に優れる[31]。ただし、酸、アルカリ、水などに弱い[34]
ブチルゴム
気体透過性が低く、真空用によく使用される[17]。ただし、永久圧縮ひずみの発生量が大きいという欠点があり、一般用途には向いていない[34]
テフロン
ゴム弾性は小さいが、テフロン(ポリテトラフルオロエチレン、PTFE)もOリングに使用される[35]。弾性が低いため溝を分割にする必要がある、塑性変形が大きく再使用はできないなどの欠点がある[36]。 耐薬品性が高く、多くの薬品に対して耐性を持つ[35]
金属ステンレス鋼、ニッケル合金)
金属を用いたOリングもあり、線の中をくり抜いた中空形状で使用される[5]。ゴム製では実現が難しい、低温・高温・高圧・高真空の環境でシールできる[37][38]。ステンレス鋼、ニッケル合金(インコネル)が使用され、必要に応じて銀メッキなどの表面処理がなされる[38][39]。塑性変形のため再使用できない欠点がある[40]

  1. ^ a b c d 津田 1994, p. 339.
  2. ^ 渡辺 2009, p. 125.
  3. ^ 日本機械学会 編『機械工学辞典』(第2版)丸善、2007年、159頁。ISBN 978-4-88898-083-8 
  4. ^ a b Machinery's Handbook 2012, p. 2587.
  5. ^ a b c Parker O-Ring Handbook 2007, p. 1-2.
  6. ^ JIS B 2401-1:2012「Oリング-第1部:Oリング」日本産業標準調査会経済産業省)、3頁
  7. ^ a b 津田 1994, p. 341.
  8. ^ a b 渡辺 2009, p. 129.
  9. ^ 渡辺 2009, pp. 128–129.
  10. ^ 渡辺 2009, p. 95.
  11. ^ a b c 渡辺 2009, p. 126.
  12. ^ JIS B 2410:2005「Oリング-ゴム材料の選定指針」日本産業標準調査会経済産業省)、3頁
  13. ^ NOK. “B-e 主要温度範囲・密封対象流体”. TECHNICAL NOTE. NOK. p. 125. 2015年11月29日閲覧。
  14. ^ a b 渡辺 2009, p. 131.
  15. ^ a b c d Parker O-Ring Handbook 2007, p. 1-5.
  16. ^ a b Parker O-Ring Handbook 2007, p. 1-6.
  17. ^ a b Parker O-Ring Handbook 2007, p. 3-19.
  18. ^ 津田 1994, p. 340.
  19. ^ a b Parker O-Ring Handbook 2007, p. 1-3.
  20. ^ Parker O-Ring Handbook 2007, p. 3-24.
  21. ^ JIS B 2401-1:2012「Oリング-第1部:Oリング」日本産業標準調査会経済産業省)、8–10頁
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  23. ^ 小林 1962, p. 179.
  24. ^ a b c Machinery's Handbook 2012, p. 2589.
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  26. ^ 小林 1962, pp. 179–180.
  27. ^ NOK. “B-c Oリングの密封原理”. TECHNICAL NOTE. NOK. p. 122. 2015年11月29日閲覧。
  28. ^ Parker O-Ring Handbook 2007, p. 2-7.
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  30. ^ Machinery's Handbook 2012, p. 2592.
  31. ^ a b c d e f Machinery's Handbook 2012, p. 2591.
  32. ^ a b c 渡辺 2009, p. 132.
  33. ^ a b c 小林 1962, p. 180.
  34. ^ a b 小林 1962, p. 181.
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  36. ^ 渡辺 2009, p. 142.
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  38. ^ a b 三菱電線工業. “メタルOリング”. 製品情報. 三菱電線工業 pages=26–3. 2015年11月29日閲覧。
  39. ^ ニチアス. “メタル中空Oリング”. 製品案内. ニチアス. 2015年11月29日閲覧。
  40. ^ 渡辺 2009, p. 83.
  41. ^ Parker O-Ring Handbook 2007, p. 2-10.
  42. ^ 渡辺 2009, pp. 129–130.
  43. ^ a b c Machinery's Handbook 2012, p. 2588.
  44. ^ Parker O-Ring Handbook 2007, p. 3-3.
  45. ^ NOK. “B-g Oリングの設計基準”. TECHNICAL NOTE. NOK. p. 131. 2015年11月29日閲覧。
  46. ^ JIS B 2401-4:2012「Oリング-第4部:バックアップリング」日本産業標準調査会経済産業省)、2–3頁
  47. ^ Parker Hannifin Corporation (2013年). “Parker Metal Seal Design Guide - CSS 5129”. pp. C-16, C-24, ,C-30, C-32. 2015年11月19日閲覧。
  48. ^ a b c 小林 1962, p. 178.
  49. ^ a b c d e Mary Bellis. “O-Ring History”. About.com. About, Inc.. 2015年11月19日閲覧。
  50. ^ 渡辺 2009, p. 10.
  51. ^ Rogers Commission report (1986年). “Report of the Presidential Commission on the Space Shuttle Challenger Accident, Volume 1, chapter 4, page 57-59, 70-72”. 2010年10月27日閲覧。
  52. ^ 上山忠夫、1989–1990、「スペースシャトル・チャレンジャー号事故と現状」、『日本信頼性技術協会誌』11巻2号、日本信頼性学会doi:10.11348/reaj1979.11.2_58 pp. 58–61


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