CH-47 (航空機)
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機能
輸送能力
キャビンへの積載
キャビンは完全な箱型で、内部に大きな突起物はないため、基本的にはカーゴランプから入りさえすれば積載可能である[12]。胴体断面は完全な四角形ではなく、キャビンとして使えるのは高さ1.98×幅2.29メートルの範囲である[12]。また貨物の取り回しのため、機内にHICHS(helicopter internal cargo-handling system)のレールとローラーコンベアを設置する場合、キャビンは高さ1.92×幅2.13メートルとやや狭くなる[12]。
キャビンの奥行きは9.30メートルで、一番奥までHICHSのレール/ローラーを配置した場合、標準的な463Lマスターパレットであれば3枚を搭載できる[12]。一方、車両を搭載する場合は後ろ向きに自走して搭載することになっており、陸上自衛隊では高機動車や1/2tトラックを搭載可能とされる[13][注 6]。高機動車を搭載する場合、天井に擦らないように前ガラスを倒す必要があり、左右も拳1つ分程度の隙間しかない[13]。
人員輸送に用いる場合、標準的には壁面に設けられた兵員用座席が使用される[12]。CH-47Dでは左舷側に17席、右舷側に16席が設けられており、左舷側最前部は部隊指揮官の席とされていた[12]。一方、CH-47Fでは部隊指揮官の席がコクピットセクションのバルクヘッドに背を向ける位置に移動されて、コクピットに向かう通路の右側にクルーチーフ席、左側に部隊指揮官席が設けられる配置となり、クルーチーフ席と部隊指揮官席はコクピット内のフライトクルーと同様に耐弾装甲が施された耐衝撃座席となった[12]。
このように、配置に変更はあったものの、基本的には乗員3名(操縦士と副操縦士、クルーチーフ)と兵員33名が標準的な構成である[12]。ただし左右の座席の間に更にセンターシートを追加すれば、最大55名まで搭乗できる[12]。また緊急時であれば更に増加させることも不可能ではなく、ベトナム戦争中のハート・アンド・マインド作戦の際には、1機が一度に147名の住民を空輸したという記録もある[15]。
負傷者後送(CASEVAC)を想定して、機内には担架を配置する準備もなされている[12]。最大で4段式の担架を6か所に配置することができ、この場合は、応急処置のため添乗する衛生兵のための2席のみを残して、兵員用座席は撤去される[12]。一方、担架を24床すべて搭載する必要がない場合には、軽症者や避難者のために担架を減らして座席を増やすこともでき、例えば担架を8床とすれば兵員用座席21席を設置することができる[12]。また陸上自衛隊では、より状態が悪く医療行為が必要な傷病者を対象として医療後送(MEDEVAC)を行うための器材も導入している[16]。
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両舷壁面の人員用座席の座面を降ろした状態
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搭乗し、着席していく空挺隊員
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パレットを用いた物資の卸下作業
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パレットを用いて搭載された物資の固縛作業
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CH-47JAから卸下される高機動車
吊り下げ輸送
胴体下面には、貨物を吊り下げてのスリング輸送に使用するためのカーゴフックが備えられている[12]。主に使用されるのは、ユーティリティハッチの前部、機体の重心にあたる位置に設置されたフックだが、CH-47D以降では更に前部と後部にもフックを追加装備できるようになった[12]。
フックの最大荷重は、重心部のセンターフックが26,000 lbs(11,793 kg)、前後部のフォワード/アフトフックが17,000 lbs(7,711 kg)である[12]。前後だけで1つの貨物を吊り下げるタンデムスリングの場合には25,000 lbs(11,340 kg)、また3か所にそれぞれ別個の貨物を吊り下げる場合には合計23,000 lbs(10,433 kg)に制限されている[12]。また貨物以外にも、例えば自衛隊のCH-47Jは空中消火用のバンビバケット(5,000リットル)やビッグディッパーバケット(7,500リットル)を搭載することもできる[17]。
なお、スリング輸送中にエンジントラブルなどが生じて貨物を投棄する必要が生じた場合には、コクピットやキャビン内からの操作でフックを緊急解除することができるほか、何らかの理由でこの解除が失敗した場合も、ユーティリティハッチからの手動操作で解除することができる[12]。
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中央フックのみで吊り下げられた車両
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前後フックのみで吊り下げられた複合艇
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3個のフックそれぞれに別々の貨物を吊り下げた状態
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ビッグディッパーバケットを吊り下げたCH-47J
自衛能力
電子戦
アメリカ陸軍では、航空機の自己防御用電子戦機器をASE(Aircraft Survivability Equipment)と称しており、CH-47Fの場合、APR-39A(V)レーダー信号探知システムおよびAPR-44(V)レーダー警報受信機(一部機体)、AN/AAR-57ミサイル警報装置、M130またはALE-47デコイ発射機が搭載される[18]。
AN/ALE-47はAAR-57と組み合わされてAN/ALQ-212 ATIRCM(新型脅威赤外線対抗)システムを構成しており、AAR-57がミサイルの接近を探知すると、パイロットの操作を待たずに自動的にデコイを投射するというスマートディスペンサーとなっている[18]。また特殊作戦用のMH-47Gや、オランダ空軍など一部輸出向けCH-47Fでは、AN/AAR-57のかわりにAN/AAR-47を搭載して、AN/AAQ-24指向性赤外線妨害装置(DIRCM)と連動させている[18][6]。
火器
CH-47Fでは、キャビンドア部とその対面の脱出用ハッチ部、そして機体後部のカーゴランプ上の3か所にドアガン用の銃架を設けることができ、アーマメントサブシステムとしては、キャビンドアおよび脱出用ハッチ部のものはM24、カーゴランプ上のものはM41と称される[18]。M24は、ドアやハッチを横切るように金属製の丸棒(クロスバー)を設置し、その中央に設けられたピントルマウントに機関銃を取り付けるもので、構造的には左右127度まで銃を振ることができるが、実際には、エンジンやローター、燃料タンクなどを誤って射撃しないように射撃角度制限が課せられる[18]。一方、M41はカーゴランプ最後尾のブラケットにピントルマウントを取り付けるもので、左右の視界は開けているが、銃手は命綱をつけてマウント付属のシートに着席するため、銃は左右94度までしか振ることができず、また上下の角度も制限されている[18]。
アメリカ軍では、いずれの銃架にもM60DまたはM240H 7.62mm機関銃を取り付けて使用する[18]。一方、陸上自衛隊の国際任務対応機では、ミニミ軽機関銃やブローニングM2重機関銃を使用している[19]。
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カーゴランプ上に機銃を設置した状態
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キャビンドア部に機銃を設置した状態
注釈
- ^ 平成29年(2017年)度予算での購入分は単価74.2億円となっており、CH-47F相当の規格になっているものと推測されている[1]。
- ^ a b 当初、アメリカ陸軍はCH-47を「中型」と分類したが、これはより大型で強力なHLH(Heavy Lift Helicopter)計画を進めていたためであった[2]。なおHLH計画では、CH-47と同じボーイング・バートル社によってXCH-62が試作され、1975年に一応の完成をみたものの、開発予算の削減に伴って初飛行にも至らなかった[2]。
- ^ a b V-107自体も、エンジンの強化など改良を加えたV-107IIに発展し、こちらは1961年にCH-46としてアメリカ海兵隊に採用された[5]。
- ^ アメリカ陸軍ではヘリコプターの愛称として、他にもカイオワ(カイオワ族)、アパッチ(アパッチ族)、シャイアン(シャイアン族)、コマンチ(コマンチ族)、イロコイ(イロコイ族)といったように、ネイティブアメリカン部族の名前を用いることが多い。
- ^ 命名法改正が正式に決定されるまでの間、暫定的に統合輸送ヘリコプター(Joint Cargo Helicopter)を表すJCH-47Aと称されていた時期もあった[5]。
- ^ 軽装甲機動車については、竹内 et al. 2020, p. 61では「車高の関係で搭載不能」としているが、架台やサイドミラー、ボンネットなどを撤去した状態で航空自衛隊のCH-47Jに搭載している写真が公開されている[14]。
- ^ 正確にはティルトローター機で回転翼機ではない
- ^ a b 回転翼含む
出典
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