ATACS
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開発の歴史
前史として国鉄の頃から鉄道技術研究所及び鉄道総合技術研究所が1985年ごろから1995年まで研究した、無線列車制御システムCARAT (Computer And Radio Aided Train control system) が元となる。
ATACSの開発は1995年(平成7年)から開始された。1997年(平成9年)9月から1998年(平成10年)2月まで、仙石線苦竹駅 - 東塩釜駅間で4編成を用いて第1期の試験として基本的な検証を行った。さらに2000年(平成12年)10月3日から2001年(平成13年)2月21日まで、仙石線苦竹駅 - 多賀城駅間で2編成を用いて第2期の試験として応用技術の検証を行った。
続いて、2001年(平成13年)より仕様の検討を行ってプロトタイプの開発を行った。2003年(平成15年)9月から車上装置の設置工事を始め、2004年(平成16年)7月までに仙石線所属の全18編成に装置を搭載完了した。地上側にあおば通駅 - 東塩釜駅間で4拠点装置8無線基地局を設置して、2003年(平成15年)10月14日からモニタラン試験を開始した。モニタラン試験では営業列車を従来の信号システムで運転しながらATACSもバックグラウンドでブレーキ制御を行わない状態で動作させ、動作状況を確認した。
モニタラン試験と並行して、営業運転終了後の深夜時間帯に実際に列車をATACSの制御で走行させるコントロールラン試験を2003(平成15)年度から2004(平成16)年度にかけて計28回実施した。モニタラン試験、コントロールラン試験ではATACSの各機能が仕様上の条件を満たしていることが確認された。位置検知精度はトランスポンダ間距離200 m以上の時で0.5 %未満、絶対位置とデータベースのずれも0.9 m以内となっている。空転・滑走時の補正処理も正しく動作したことが確認された。無線のフレーム受信率は99.9 %以上が確保された。
これらの試験の結果として外部の専門家によるシステム評価委員会により、ATACSは信号保安装置としての要件を満たしていると評価された。その後実用化工事に着手し2011年(平成23年)春に同線区・区間で列車間隔制御などの基本機能を、2012年(平成24年)春には踏切制御などの応用機能も使用開始する予定と発表された[2]。
2011年(平成23年)1月27日にJR東日本は、ATACS試験を実施していた仙石線について同年3月27日より、あおば通 - 東塩釜間で営業運転に導入することを発表した。当面は列車間隔制御機能に限定して運用し、踏切制御などの機能は後日導入とされた[3][4]。しかし、同年3月11日に発生した東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)で仙石線は被災し、運用開始予定であった3月27日の時点では運休中であった。3月28日に、あおば通から小鶴新田の間で部分的に運転を再開したが、ATACSの導入は先送りされた[5]。その後6月30日付で、9月25日から仙石線においてATACSの実運用を開始すると発表されたが[6]、これも台風の影響で延期となり[7]、10月10日から実運用を開始した[8]。
2012年(平成24年)12月16日からは臨時速度制限の機能が追加され、2014年(平成26年)12月14日から踏切制御の機能が追加された。踏切制御は、苦竹 - 小鶴新田間の古宿踏切と、小鶴新田 - 福田町間の沼潟踏切の2か所を皮切りに、約半年かけて順次全14か所の踏切に展開することになっている。これによりスリム化、安全性と信頼性の向上、メンテナンスの軽減、踏切遮断時間の短縮といった効果が得られるとされている[9]。
- ^ “無線式列車制御システムによる安全性の刷新”. 2019年1月24日閲覧。
- ^ “無線による列車制御システム(ATACS)の実用化について” (PDF). 東日本旅客鉄道 (2009年4月7日). 2011年6月30日閲覧。
- ^ “信号機なしで列車制御、仙石線で導入へ…世界初”. 読売新聞. (2011年2月5日) 2011年2月15日閲覧。
- ^ 交通新聞2011年2月1日
- ^ 交通新聞2011年3月29日
- ^ “無線による列車制御システム「ATACS」の使用開始について” (PDF). 東日本旅客鉄道 (2011年6月30日). 2011年6月30日閲覧。
- ^ “鉄道100年の運行制御、デジタルで一新 仙台で稼働へ”. 日本経済新聞. (2011年10月2日) 2011年10月2日閲覧。
- ^ “無線による列車制御システム「ATACS」の使用開始について” (PDF). 東日本旅客鉄道 (2011年10月11日). 2011年10月12日閲覧。
- ^ 交通新聞2014年12月16日
- ^ 埼京線への無線式列車制御システム(ATACS)の使用開始について - 東日本旅客鉄道、2017年10月3日、2017年10月4日閲覧。
- ^ “JR東、無線で列車制御−地上設備を大幅スリム化”. 日刊工業新聞 (日刊工業新聞社). (2017年2月28日) 2017年11月27日閲覧。
- ^ “鉄道におけるワイヤレスブロードバンド活用の今後の展望” (PDF). 総務省 (2010年6月8日). 2011年10月13日閲覧。
- ^ “JR東、常磐緩行線にCBTCの導入検討”. 日刊工業新聞. (2012年7月10日)
- ^ “丸ノ内線に無線式列車制御システム(CBTCシステム)を導入します” (PDF). 東京メトロ (2016年1月28日). 2017年10月11日閲覧。
- ^ “首都圏のICT列車制御、JR東が海外方式導入を断念-国産「ATACS」推進”. 日刊工業新聞. (2017年10月11日)
- ^ 交通新聞社 2017年10月5日紙面
- ^ “次世代の列車制御、JR東日本が海外方式の導入を断念”. ニュースイッチ. (2017年10月11日)(記事内に「今後採用する次世代の列車制御は日立製作所、三菱電機と共同で開発した無線式列車制御システム「ATACS(アタックス)」を軸に進めていく。」とあることでATACSをCBTCの代替として検討していることが確認可能である)
- ^ “「車上主体列車制御システム(無線式)」、「バッテリー電車」の技術開発について”. 西日本旅客鉄道株式会社. (2013年3月8日)
- ^ “JR西日本、「ATACS」をベースにした無線式車上主体列車制御システムの走行試験を公開”. トラベルWatchニュース. (2015年10月19日)
- ^ “無線による保安システム導入計画の見直しについて”. 西日本旅客鉄道株式会社. (2022年2月18日)
- ^ a b 交通新聞2012年1月25日
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