ATACS 導入線区

ATACS

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/09 07:19 UTC 版)

導入線区

大宮駅埼京線ホームにあるATS→ATACS切り替え指示標識。
この標識の前後で川越線から埼京線へ入る為、保安装置切り替えを促すもの。

今後の導入予定

  • 2020年10月12日より、本システムを応用した地方交通線向け列車制御システムを小海線に導入し、交換駅における信号・進路制御、無線を用いたATS-Pによる速度制御を実施[11]
  • 2036年までに首都圏全域での使用開始が目標とされる[12]

同等の保安システム

ATACSのような無線技術を利用した鉄道保安装置にはヨーロッパの政府機関や鉄道事業者、メーカが共同開発を行っているETCS Level3(同じく移動閉塞)がある。しかし、このETCS Level3は技術的な難しさや関係各所の調整などの問題により現時点では実用化の目処は立っていない。

各国で地下鉄などの都市交通分野で、無線通信をベースとした信号システムCBTC (Communication Based Train Control) が開発されており、2007年現在で14線区で実用化され23線区で開発中となっている。日本では2016年1月に東京メトロ丸ノ内線へ2022年度までの導入を計画していることを発表している[13][14][15]。このほか、2014年5月にJR東日本常磐緩行線へ2020年度までの導入を検討していたが、中止となった[16]ため、代替としてこのATACSの導入を検討している[17]

JR西日本では、2013年より本保安装置をベースとした車上主体列車制御システム(無線式)の実証試験を行っており[18][19]、これに対応した227系1000番台を投入した上で和歌山線へ2023年春の導入を予定していたが、2022年2月18日に現行の計画を見直し、新しい技術を取り入れた無線による保安システムの導入を将来的に目指すことになった[20]

ATACSの世界戦略

世界鉄道連合 (UIC) などは、現在鉄道技術のISOIECによる国際規格化を進めている。主なものとしては鉄道システムの信頼性・安全性をライフサイクルで分析・適用するRAMS (Reliability, Availability, Mainteinability, Safety) 規格 (IEC62278)、信号制御ソフトウェア (IEC62279)、鉄道システムの電磁両立性 (EMC : Electromagnetic Compatibility。IEC62236) などがある。多くは欧州の規格を元に制定されており日本の特殊事情を反映させ難く、信号保安などの鉄道技術者は日本の鉄道技術が影響を受ける危機感を強く抱いた。

無線通信を利用した信号保安システムに関しては、ヨーロッパ規格であるERTMS/ETCSをそのまま国際規格化しようとする動きがある。2007年3月に開催されたUIC理事会においては、インターオペラビリティのためにETCSを全世界に適用することが提案された。これが実現すると、ATACSを含めた日本の列車制御システム全てが国際標準から外れて日本の鉄道技術が打撃を受けるだけでなく、日本国外で日本の鉄道システムを売り込むことにおいて重大な支障が出る恐れが出た。理事として参加していたJR東日本副会長の石田義雄がこれに強く反対し、6月にこの問題を検討するワークショップが開催された。ワークショップでは各国の鉄道技術の最新状況の情報交換が行われ、その結果各国の鉄道事情の相違やそれに伴う技術の差異が認識され引き続き情報交換を行い検討を続けていくことが合意されて、ETCSの国際規格化はひとまず回避された。

こうした状況を鑑みて、ATACSはまだ試験段階であり実際に運用されている段階ではないながらも将来の国際規格化を念頭においてJR東日本や鉄道総合技術研究所、大学、鉄道事業者、メーカ、政府関係機関の有識者を中心に2005年10月から「無線利用の列車制御システム規格化検討委員会」が発足した。この委員会において、ATACSを元にした「列車間隔制御機能を備える無線利用の列車制御システム」としてJRTC (Japan Radio Train Control system) の仕様を作成している。この仕様をまずJIS化した[21]

これを進めて、将来的にはATACSの国際規格化も考えていた。しかしETCSの国際規格化に反対した以上、ATACSの国際規格化を推進すると態度が矛盾することとなってしまうことから、これを取り止めて代わりに無線通信による保安システムの規格制定手順を国際標準化することを提案することになった。このためにIECの技術委員会TC/9で議論が始められている[21]


  1. ^ 無線式列車制御システムによる安全性の刷新”. 2019年1月24日閲覧。
  2. ^ 無線による列車制御システム(ATACS)の実用化について” (PDF). 東日本旅客鉄道 (2009年4月7日). 2011年6月30日閲覧。
  3. ^ “信号機なしで列車制御、仙石線で導入へ…世界初”. 読売新聞. (2011年2月5日). https://web.archive.org/web/20110208134730/http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110205-OYT1T00454.htm 2011年2月15日閲覧。 
  4. ^ 交通新聞2011年2月1日
  5. ^ 交通新聞2011年3月29日
  6. ^ 無線による列車制御システム「ATACS」の使用開始について” (PDF). 東日本旅客鉄道 (2011年6月30日). 2011年6月30日閲覧。
  7. ^ “鉄道100年の運行制御、デジタルで一新 仙台で稼働へ”. 日本経済新聞. (2011年10月2日). http://www.nikkei.com/tech/trend/article/g=96958A90889DE1E3EBE2E4E4E7E2E2EBE2E5E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2;dg=1;df=3;p=9694E0E2E2E6E0E2E3E3E3EBE7E6 2011年10月2日閲覧。 
  8. ^ 無線による列車制御システム「ATACS」の使用開始について” (PDF). 東日本旅客鉄道 (2011年10月11日). 2011年10月12日閲覧。
  9. ^ 交通新聞2014年12月16日
  10. ^ 埼京線への無線式列車制御システム(ATACS)の使用開始について - 東日本旅客鉄道、2017年10月3日、2017年10月4日閲覧。
  11. ^ “JR東、無線で列車制御−地上設備を大幅スリム化”. 日刊工業新聞 (日刊工業新聞社). (2017年2月28日). https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00418902 2017年11月27日閲覧。 
  12. ^ 鉄道におけるワイヤレスブロードバンド活用の今後の展望” (PDF). 総務省 (2010年6月8日). 2011年10月13日閲覧。
  13. ^ “JR東、常磐緩行線にCBTCの導入検討”. 日刊工業新聞. (2012年7月10日). https://www.nikkan.co.jp/articles/view/214172 
  14. ^ 丸ノ内線に無線式列車制御システム(CBTCシステム)を導入します” (PDF). 東京メトロ (2016年1月28日). 2017年10月11日閲覧。
  15. ^ “首都圏のICT列車制御、JR東が海外方式導入を断念-国産「ATACS」推進”. 日刊工業新聞. (2017年10月11日). https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00446042 
  16. ^ 交通新聞社 2017年10月5日紙面
  17. ^ “次世代の列車制御、JR東日本が海外方式の導入を断念”. ニュースイッチ. (2017年10月11日). http://newswitch.jp/p/10679 (記事内に「今後採用する次世代の列車制御は日立製作所、三菱電機と共同で開発した無線式列車制御システム「ATACS(アタックス)」を軸に進めていく。」とあることでATACSをCBTCの代替として検討していることが確認可能である)
  18. ^ “「車上主体列車制御システム(無線式)」、「バッテリー電車」の技術開発について”. 西日本旅客鉄道株式会社. (2013年3月8日). https://www.westjr.co.jp/press/article/2013/03/page_3412.html 
  19. ^ “JR西日本、「ATACS」をベースにした無線式車上主体列車制御システムの走行試験を公開”. トラベルWatchニュース. (2015年10月19日). https://travel.watch.impress.co.jp/docs/news/726288.html 
  20. ^ “無線による保安システム導入計画の見直しについて”. 西日本旅客鉄道株式会社. (2022年2月18日). https://www.westjr.co.jp/press/article/2022/02/page_19473.html 
  21. ^ a b 交通新聞2012年1月25日





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