顕性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/22 06:41 UTC 版)
異なる遺伝子座の上下関係
顕性は、1つの遺伝子座の対立遺伝子の相互作用によって起きる。これに対して、異なる遺伝子座の対立遺伝子の相互作用をエピスタシス(上位性、epistasis)という。
例えば、ペポカボチャの色には2つの遺伝子座が関与している。1組目の対立遺伝子では黄色(A-)が顕性で、緑色(aa)が潜性である。2組目の対立遺伝子では白色(B-)が顕性となり、潜性(bb)の場合はもう一方の遺伝子座にしたがって黄色か緑色になる[9]。このとき2組目の白色の遺伝子が、1組目の遺伝子の効果を覆い隠している。これを顕性上位(dominant epistasis)と呼ぶ[9]。
パネットの方形
パネットの方形(パネットスクエア、英: Punnett square)は、遺伝子型の明らかな個体間の交雑で(突然変異を除いて)生じうる子の遺伝子型を以下のような図式で表現したものである[10]。 1遺伝子雑種の例として、顕性遺伝子のホモ接合体AAと潜性遺伝子のホモ接合体aaを初代として交雑させるとすると、次のように遺伝する。
a | a | |
---|---|---|
A | Aa | Aa |
A | Aa | Aa |
A | a | |
---|---|---|
A | AA | Aa |
a | Aa | aa |
2代目は全て、遺伝型はヘテロAaで表現型は顕性形質となる。3代目からは顕性遺伝子Aを持たないものが出てくるため、潜性形質が現れる。
また、(異なる染色体上の)2遺伝子雑種についても同様の図で表すことができる。形質αを決定する顕性遺伝子A、潜性遺伝子a、形質βを決定する顕性遺伝子B、潜性遺伝子bとすると、各遺伝子を1つずつ持つ個体同士の交雑についてのパネットの方形は以下の通りである。
AB | Ab | aB | ab | |
---|---|---|---|---|
AB | AABB | AABb | AaBB | AaBb |
Ab | AABb | AAbb | AaBb | Aabb |
aB | AaBB | AaBb | aaBB | aaBb |
ab | AaBb | Aabb | aaBb | aabb |
このときの表現型 (α,β) の比は (顕性,顕性):(顕性,潜性):(潜性,顕性):(潜性,潜性) = 9:3:3:1 である。
ヒトの例
単一遺伝子の顕性潜性で決定づけられる典型的な形質は、単一遺伝子疾患である。例を挙げると、顕性遺伝には多発性嚢胞腎、潜性遺伝にはテイ=サックス病がある。
外見で判断できるヒトの一般的な形質のほとんどは、1つの遺伝子座の顕性・潜性では決まらず[11]、複数の遺伝子座や環境が関わる複雑な遺伝形式をとる。単一の遺伝子で決まる数少ない例として、耳垢が湿っているか乾いているかを決める遺伝子がある[12]。耳垢が湿っている方が顕性、乾いている方が潜性である[12]。
ヒトの形質が単純な遺伝で決まるという神話が多数流布している[11]。例えば親指が反る・反らない[13]、舌を巻ける・巻けない[14]、つむじが右巻き・左巻き[15]、といった形質が単一遺伝子の顕性劣性で決まるとする説があるが、実際にはそのような単純な遺伝形式ではない。髪の色や虹彩の色、一重/二重まぶた[16]に関しても同様に単純な遺伝形式ではない。
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