顕性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/22 06:41 UTC 版)
メカニズム
大抵の場合、顕性の性質はその種の普通の形質であり、潜性のものはそうではなく特殊なものである例が多い。これは、たとえば一遺伝子一酵素説で考えれば分かりやすい。
この説では、遺伝子は酵素の設計図であると見る。その酵素が作れることでその生物はある形質を発現できる。潜性の遺伝子はその設計図が壊れたものと考えれば良い。その遺伝子をもつ生物はその酵素を作れないので、その形質を発現できず違った形になる。これが潜性の形質である。
顕性の遺伝子をもつ個体と潜性の遺伝子をもつ個体とが交配すれば、その子は顕性遺伝子と潜性遺伝子をヘテロに持つことになる。その体内には正しい設計図と壊れた設計図が共存するので、正しい酵素と壊れた酵素が同時に作られる。その結果、数が少なくはなっても正しい酵素が作られることにより、その形質は発現できることになるであろう。つまり見掛け上は潜性の形質は出現しない。
ただしヘテロ接合となって酵素の量が減少したため、顕性形質の発現に十分な酵素の量を生産できない場合もある。このとき典型的には不完全顕性となり、ハプロ不全と呼ばれる状態になる。
上記は最もよくある機能喪失型の変異である。一方で、変異によりタンパク質の活性が上がったり、通常とは異なる機能を得るような、機能獲得型の変異が起きた場合は、その新しい機能が顕性になる。
この他に、顕性阻害(ドミナントネガティブ)と呼ばれる、変異型の遺伝子産物(タンパク質など)が、正常型の遺伝子産物の働きを阻害する現象がある。正常型を阻害する(ネガティブの)効果が顕性(ドミナント)なため、この名がついている[6]。ドミナント・ネガティブは、複合体を形成するタンパク質でよくみられる。多くのタンパク質は、複数のタンパク質が組み合わさった多量体またはオリゴマーの状態で活性を示すが、複合体に1つでも変異体が入ると正常に機能しなくなる場合、変異型の存在により正常型の働きが阻害される。両親から受け継いだ一対の遺伝子のうちどちらかが正常であれば、確率的には正常な複合体も存在するが、活性は強く抑制される。例として4量体で活性を示すp53遺伝子がある[7]。
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