接続 (ベクトル束) 平行移動とホロノミー群

接続 (ベクトル束)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/19 06:32 UTC 版)

平行移動とホロノミー群

平行移動

球面上の平行移動。測地線(=大円)で囲まれた三角形上でベクトルを一周平行移動すると、もとに戻ってきたときに元のベクトルには戻らない。

ユークリッド空間の場合と違い、どの曲線に沿って平行移動したかによって平行移動の結果が異なる事に注意されたい。すなわち曲線に沿った平行移動を、曲線に沿った平行移動をとするとき、たとえであってもであるとは限らない。この現象をホロノミー英語版: holonomy)という[41]


の定義より、からへの写像であるとみなせるが、この写像は以下を満たす:

定理 ―   は線形同型である[42]

よって平行移動により、(接続や計量が定義されていない)多様体Mでは本来無関係のはずのがつながって(connect)、の元との元を比較する事ができるようになる。接続(connection)という名称は、ここから来ている。


Eにリーマン計量gが定義されているときは以下が成立する事を容易に示せる:

定理 (平行移動による計量の保存) ― Eのリーマン計量gと両立するとき、任意のに対し、以下が成立する:

曲線上定義されたEの切断で、各時刻tに対してEPの基底の基底になっており、しかもに沿って平行なものをに沿った水平フレーム[訳語疑問点]: horizontal frame)という。

共変微分の特徴づけ

これまで共変微分の概念を用いる事で平行移動の概念を定義してきたが、逆に平行移動の概念を用いて共変微分を特徴づけることができる:

定理 (共変微分の平行移動による特徴づけ) ―  多様体M上の曲線MのベクトルバンドルEに沿った切断を考えるとき、に沿った平行移動をとすると、以下が成立する[43]

ここではベクトル空間における微分である。なお、tによらずに属するので、上の差や極限を考えることができる。


上記の定理を用いると、共変微分の成分表示に意味を持たせる事ができる。これをみるためMを局所座標とし、xを成分でとあらわし、さらにU上定義されたEの局所的な基底とすると、

であるので、これを共変微分の成分表示

と比較する事で、以下が結論付けられる:

定理 (接続形式の平行移動による特徴づけ) ― 曲線上の平行移動をとし、曲線状定義されたEの基底をとするとき、の行列表示は接続形式を使ってと書ける。

すなわち

の第一項、第二項はそれぞれ、ライプニッツ則に従って微分したときのsiの方の微分、eiの方の微分に対応していると解釈できる。

ホロノミー群

PMを固定するとき、Pから出てP自身へと戻る各閉曲線Cに沿った平行移動はEPからEP自身への線形同型写像を定めると、曲線の連結CC'に対しとなるし、Cの逆向きの曲線をとすると、となる事が容易に示せる。

よって

Pから出てP自身へと戻る閉曲線

とすると、EPの自己線形同型のなすの部分群をなす。PにおけるEに関するホロノミー群: holonomy group)という。なお、M弧状連結であればPによらずが同型である事を容易に示せるので、Pを略して単にとも書く。


また、

Pから出てP自身へと戻る閉曲線でM上0-ホモトープなもの

とすると、の部分群をなす。PにおけるEに関する制約ホロノミー群: restricted holonomy group)という。M弧状連結であればPによらずが同型である事も同様に示せるので、Pを略して単にとも書く。


定義から明らかなように、EP上の線形同型全体のなすリー群の部分群である。実は次が成立する事が知られている:

定理 ― の(とは限らない)部分リー群である[44]

またの(とは限らない)弧状連結なリー部分群である[45]


出典

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注釈

  1. ^ 人名「Koszul」を「コシュール」と訳している文献[11][12][13]があるため、「コシュール接続」と読むと思われるが、「コシュール接続」と訳した文献を発見できなかったので本項では「Koszul接続」と表記した。なお、Wikipediaの英語版には「フランス語: [kɔsyl]」とある。
  2. ^ #Kobayashi-Nomizu-1 p.119では上述のように「線形接続」という言葉を接バンドルのフレームバンドル上の接続の意味で用いているが、p.129では「線形接続」がアフィン接続と1対1対応するのでアフィン接続と実質的に等価であるものの、必要に応じてこれらの言葉を使い分ける旨を述べている。一方、Linear connection”. Encyclopedia of Mathematics. 2023年10月17日閲覧。ではアフィン接続が接バンドルのフレームバンドルに定める接続の意味で用いているが、上述のようにこれはアフィン接続と1対1対応する。
  3. ^ 成分接続形式といい、ω接続行列: connection matrix)と呼ぶ場合もある[27]
  4. ^ RはテンソルRPの場なので、Rを「曲率テンソル場」(curvature tensor field)と言った方が自然に見えるが、本項執筆者が調べた範囲では、「曲率テンソル場」と呼んでいる文献は少なかったので、本項では慣用に従い「曲率テンソル」と呼ぶことにした。
  5. ^ a b 成分表示の添字の取り方は文献によって異なるので注意されたい。我々は#Kobayashi-Nomizu-1 p.144に従い、
    としたが、#Viaclovsky p.11では
    としている。
  6. ^ #Tu p.84.ではτ自身ではなくその成分の事を捩率形式と呼んでいる。
  7. ^ であればであるが、必ずしもでなくともよい[74]
  8. ^ XYZをサイクリックに回している。
  9. ^ 断面曲率との関係性を示すために両辺の分母を表記したが、両辺の分母は同一であるので、実際には分母は必要ない。
  10. ^ 厳密には以下の通りである。Mの曲線に沿って定義された局所的な基底を考え、に沿って平行移動したものをとして行列 により定義すると、接続形式の定義より、 が成立する。ここでは成分ごとの微分の事である。 が計量と両立すれば、は正規直交基底である。よって が正規直交基底であれば、よりは回転変換であり、の微分は歪対称行列である。





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