太陽系 彗星

太陽系

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/01 14:04 UTC 版)

彗星

ハレー彗星(1986年撮影)

彗星英語: Comet)は多くの場合、直径が数キロ程度で、主に氷などの揮発性物質から出来たと、2種類のからなる。楕円軌道で公転しており、近日点は内太陽系、遠日点は冥王星よりも遠方に位置していることが多い。彗星が太陽に接近すると、核の表面にある氷が昇華してイオン化し、コマが形成される。そこから尾やガスが放出され、はっきりと観測出来るようになり、中には肉眼で観望出来るほどまでに明るくなるケースもある。

公転周期が200年未満の彗星は短周期彗星と呼ばれ、一方で長周期彗星と呼ばれる彗星は、何千年もかけて太陽を公転しているものもある。短周期彗星は、小惑星帯やカイパーベルトを起源にしているものが多いが、ヘール・ボップ彗星のような長周期彗星はオールトの雲が起源であるとされている。また、クロイツ群をはじめとする多くの彗星群は、1つの彗星が幾つもの破片に分裂して形成されたと考えられている[155]双曲線軌道を持つ非周期彗星の中には、太陽系外に由来するものもあるとされているが、正確な計算は困難である[156]。太陽の熱によって、核表面の揮発性物質がほとんどなくなった古い彗星は、小惑星に分類されることもある[157]

太陽系外縁部

海王星軌道のさらに外側は太陽系外縁部英語: Trans-Neptunian region)と呼ばれ、エッジワース・カイパーベルトや、冥王星を含む幾つかの準惑星・散乱円盤天体などが存在しているが、ほとんどの領域ではまだ詳しい探査が行われていない。氷と岩石で構成された小天体が数千個存在しているとされているが、最大クラスの天体でも大きさは地球の5分の1で、質量は月よりもずっと軽いとされている。この領域は、内太陽系・外太陽系に次ぐ「太陽系の第3の領域」として扱われることもある[158]

カイパーベルト

知られている太陽系外縁天体の位置
      太陽
      木星のトロヤ群
      惑星
      太陽系外縁天体
      散乱円盤天体
      海王星のトロヤ群
地球月カロンカロンニクスニクスケルベロスケルベロスステュクスステュクスヒドラヒドラ冥王星冥王星ディスノミアディスノミアエリスエリスナマカナマカヒイアカヒイアカハウメアハウメアマケマケマケマケMK2MK2S/(225088) 1S/(225088) 1GonggongGonggongウェイウォットウェイウォットクワオアークワオアーセドナセドナヴァンスヴァンスオルクスオルクスActaeaActaeaサラキアサラキア2002 MS42002 MS4ファイル:10 Largest Trans-Neptunian objects (TNOS).png
冥王星エリスマケマケハウメアGonggongセドナクワオアーオルクス2002 MS4サラキアの大きさの比較

エッジワース・カイパーベルト英語: Edgeworth-Kuiper belt)またはカイパーベルトは、小惑星帯に似た、リング状に小天体(太陽系外縁天体・カイパーベルト天体)が集まった領域で、主に氷で形成されている[159]。太陽から30 - 50au離れた領域に分布している。数十から数千個の準惑星サイズのものも存在すると見られているが、その多くは太陽系小天体からなる。クワオアーヴァルナオルクスといった大型の太陽系外縁天体は、さらに多くのデータが集まれば、それをもとに準惑星に分類される可能性がある。直径が50キロを超える太陽系外縁天体はカイパーベルト内に10万個以上存在すると推定されているが、総質量は地球の100分の1から1,000分の1にも満たないと考えられている[40]。多くの太陽系外縁天体は衛星を持っており[160]、黄道面から大きく傾いた軌道を描いている[161]。カイパーベルトでは、これまでに約1,400個の太陽系外縁天体が発見されている[162]

太陽系外縁天体は、古典的カイパーベルト天体と軌道共鳴状態にあるものの2つに大きく区別することが出来る。軌道共鳴の対象となる惑星は海王星で、例えば、海王星が3回公転する間に、2回公転するような天体が後者に挙げられる。前者の古典的カイパーベルト天体は、海王星と軌道共鳴を起こしておらず、太陽から約39.4 - 47.7au離れた領域に分布している[163]。この古典的カイパーベルト天体はキュビワノ族とも呼ばれ、この分類の太陽系外縁天体として初めて発見されたのはアルビオン(1992 QB1)で、全体的に軌道離心率が低い軌道を描く[164]

冥王星とカロン

準惑星の冥王星英語: Pluto)は既知の太陽系外縁天体の中では最大の天体である。1930年に発見され、それ以降は「太陽系の第9惑星」とされたが、2006年に国際天文学連合による惑星の定義の決定により、準惑星に降格となった[165][166]。冥王星は楕円軌道で太陽を公転しており、近日点では太陽から29.6auまで近づき、遠日点では49.3auまで遠ざかる[167]。軌道は黄道面から約17.1度傾いている。海王星とは3:2の軌道共鳴状態にあり、この冥王星と似た軌道を描く太陽系外縁天体は冥王星族と呼ばれる[168]

冥王星最大の衛星であるカロンは、その大きさ故に、冥王星とともに連星系をなしていると表現されることもある。カロンの他にも、冥王星はステュクスニクスケルベロスヒドラと呼ばれる、カロンと比べてはるかに小さな4つの衛星を持つことが知られている。

マケマケとハウメア

マケマケ英語: Makemake)は冥王星よりも小さいが、知られている古典的カイパーベルト天体の中では最も大きい天体とされている。また、太陽系外縁天体の中では冥王星に次いで明るい。2008年に準惑星に分類され、現在の名称が公式に付与された[13][169]。軌道は冥王星よりもはるかに傾いており、軌道傾斜角は29度にもなる[170]

ハウメア英語: Haumea)は、マケマケと同じような軌道を公転しているが、海王星と7:12の軌道共鳴の関係にある[171]。大きさはマケマケと同程度で、2つの衛星を持っている。自転周期が3.9時間しかないため、地形は平らで、細長い形状になっている[172]。マケマケ同様、2008年に準惑星に分類され、現在の名称が公式に付与された[173]

散乱円盤天体

カイパーベルトと重なっているものもあるが、基本的にそのはるか外側にまで広がっている散乱円盤英語: Scattered disk)は、短周期彗星の起源であるとされている。この散乱円盤は、太陽系形成時に、巨大惑星の移動によって不規則な軌道となって外側に放り出されたとされている。それを構成している散乱円盤天体英語: Scattered disk object、SDO)のほとんどは、カイパーベルトよりもはるか遠くに分布しており、太陽から150 au以上離れているものが多い。散乱円盤天体も太陽系外縁天体と同様に黄道面から傾いた軌道を描いており、中にはほぼ垂直にまで傾いているものもある。一部の天文学者は、散乱円盤とカイパーベルトのもう1つの領域とみなして、散乱円盤天体を「散乱した太陽系外縁天体」としている[174]。一方で、ケンタウルス族を「内側に散乱した太陽系外縁天体」、散乱円盤を「外側に散乱した太陽系外縁天体」としている場合もある[175]

エリス

エリス英語: Eris)は、現在知られている散乱円盤天体の中では最も大きい。質量は冥王星よりも25%大きく[176]、大きさもほぼ同等だったため、惑星の定義に関する議論の発端となった。ディスノミアと呼ばれる衛星を持つ。冥王星と同様に、黄道面から傾いた楕円軌道で太陽を公転しており、近日点は太陽から37.8 auで、遠日点では97.5 auまで遠ざかる[177]

太陽系の果て

太陽から、最も近い恒星までを対数スケールで表した図(単位はau)

太陽系と星間空間の境界は、太陽風の及ぶ範囲とするものと、太陽の重力による影響が及ぶ範囲とするものの2つがあり、正確には定義されていない。太陽風は冥王星までの距離の約4倍離れた位置まで広がっており、太陽圏(ヘリオスフィア)をなしており、その外縁にあたるヘリオポーズを超えると、星間空間になるとされている[88]。太陽の重力圏の有効範囲(ヒル球)は、理論上では後述のオールトの雲を超えて、太陽 - 冥王星間の約1,000倍まで広がっているとされている[178]

太陽圏

星間空間内を移動する太陽圏の模式図

太陽圏英語: Heliosphere)は、恒星風バブルの一つで、秒速約400キロで星間空間に向かって放射される太陽風が形成している。

太陽から約80 - 100au離れた領域にある末端衝撃波面英語: Termination shock)では、太陽風と星間物質の衝突が引き起こされており、これにより太陽風の移動速度が減速を始め、約200au離れると、星間物質の強さが太陽風を上回るようになり、やがて星間空間となる[179]。この領域にまで達すると、太陽風は急速に減速・凝縮するようになり[179]ヘリオシースと呼ばれる楕円状の構造を形成している。この構造は彗星の尾のように伸びているとされている。しかし、土星探査機カッシーニIBEXによる観測結果から、星間磁場の作用によって、太陽圏が楕円形ではなく、球形になっている可能性が示唆されている[180][181]

太陽圏の外縁、星間空間との境界にあたる領域はヘリオポーズ英語: Heliopause)と呼ばれる[88]ボイジャー1号ボイジャー2号はそれぞれ、太陽から94auと84au離れた位置でヘリオシースを突破しており[182][183]、2012年8月にはボイジャー1号がヘリオポーズを通過し、人工物としては初めて太陽圏外にまで到達し[184][185]、2018年11月にはボイジャー2号も太陽圏外に到達した[186]

太陽圏の形状は、星間空間との流体力学的相互作用と太陽の磁場の影響で決まる可能性が高く、黄道面に対して北半球側は、南半球側よりも約9 au遠方まで広がっている[179]。ヘリオポーズを超えて、太陽から約230 au離れた領域は、銀河系の中を太陽系が進むことで、星間空間と太陽圏の間にバウショック(衝撃波面)と呼ばれる構造が形成されている[187]。しかし2012年には、太陽系が星間空間内を進む速度が想定よりも遅いことが判明し、太陽系にバウショックは存在しない可能性が示されている[188]

太陽系の構造を縮小した図
  • 内太陽系と木星
  • 外太陽系と冥王星
  • セドナ(分離天体)
  • オールトの雲内部

観測データが乏しいため、太陽圏の宇宙放射線の遮断率、太陽圏の外縁部の詳しい状態など、よく分かっていない点も多い。NASAの探査機ボイジャーは、ヘリオポーズを通過する際、放射線量と太陽風に関する貴重なデータを地球に送信することが期待されている[189]。現在、NASAが資金を提供している開発グループは、太陽圏外縁部にプローブを送り込むVision Mission計画を構想している[190][191]

分離天体

セドナ英語: Sedna)と呼ばれる小惑星は、近日点でも太陽から76 auも離れており、遠日点では937 auにまで遠ざかる。そのあまりにも大きな軌道のため、公転するのに約1万1400年もの時間を要する[192]。2003年にこの天体を発見したマイク・ブラウンは、近日点が太陽から遠すぎるため、海王星の移動による影響を受けておらず、太陽系外縁天体や散乱円盤天体にも属さない天体だと主張している。ほかの天文学者も、セドナは初めて発見されたまったく新しい分類に属する天体だとしており、こうした天体を分離天体英語: Detached object、DDO)と呼んでいる。この分類にはセドナのほかに、近日点距離45 au、遠日点距離415 au、公転周期3,420年の2000 CR105英語版も含まれる可能性があるとされた[193]。太陽から遠く離れているが、ほかの天体と同様の過程で形成されたとしているため、ブラウンは、こうした天体の集団を内オールトの雲と呼称している[194]。セドナは準惑星の候補に挙げられているが、まだその詳しい形状は明らかになっていない。2012年には、セドナよりも遠い、約80 auの近日点距離を持つ小惑星2012 VP113が発見された。一方で、遠日点距離は400 - 500 auと、セドナの約半分しかない[195][196]

オールトの雲

オールトの雲の模式図

オールトの雲英語: Oort Cloud)は、太陽から約5万 au(約1光年)離れた領域で球状に太陽系を取り囲む、1兆個以上の小天体からなる仮想上の構造で、すべての長周期彗星の起源とされている。最大で約10万 au(約1.87光年)遠方にまで及んでいる可能性も示されている。オールトの雲を構成している小天体は、外惑星系との重力相互作用によって、太陽系内部から、この軌道にまで追いやられた彗星からできているとされる。オールトの雲の小天体は非常に低速で移動しており、衝突や近傍の恒星による重力効果、銀河系からの潮汐力などのまれな事象で錯乱される可能性がある[197][198]

太陽系の境界

太陽系にはまだよく知られていない、未知な点も多い。太陽の重力は約12万5000 au(約2光年)遠方にまで及んでいると推定されているが、それに対して、オールトの雲以遠にある天体は発見されていない[199]。また、カイパーベルトとオールトの雲の間を公転するセドナのような天体も事実上、ほとんど知られていない。一方で、太陽と水星の間を公転する天体の有無について研究が進められている[200]。このような太陽系内における観測が進んでいない領域では、未知の天体が存在している可能性が残されている。

現在知られている中でもっとも太陽から遠ざかる天体はウェスト彗星で、遠日点距離は約13560 auにもなり[201]、オールトの雲に対する理解を深める手がかりになるかもしれない。







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