変圧器
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/15 01:22 UTC 版)
交流電圧の変換(変圧)、インピーダンス整合、平衡系-不平衡系の変換に利用する。
理論
原理
変圧器は、磁気的に結合した(相互誘導)複数のコイルからなる。コイル内外に磁気回路をともなうものもある。コイルに使用する導線を巻線という。
特に2個のコイルから成るものにおいて、入力側のコイルを一次コイル、出力側のコイルを二次コイルという。一次コイルに交流電流を流し、変動磁場を発生させ、それを相互インダクタンスで結合された二次コイルに伝え、再び電流に変換し、出力する。
変圧器によって電圧を変更することを変圧(へんあつ)といい、電圧を上昇させることを昇圧(しょうあつ)、逆に下降させることを降圧(こうあつ)という。
一次側に入力されるエネルギと二次側から出力されるエネルギーは同じである。そのため、昇圧させれば電流は減る。
変圧器の特有の現象ではないが、エネルギー保存則の影響を受けるため、一次側に入力したエネルギは二次側から出力されるエネルギーと熱、音、漏洩した磁束と等しくなる。そのため実際には変換の際に損失があるため二次側でエネルギーが減少する。
変圧、巻数、変流の関係
一次コイルの電圧V1、巻数N1、電流I1をそれぞれ一次電圧、一次巻数、一次電流という。同様に二次コイルの電圧V2、巻数N2、電流I2をそれぞれ二次電圧、二次巻数、二次電流という。
またそれらの比V1/V2、N1/N2、I1/I2をそれぞれ変圧比(へんあつひ)、巻数比(まきすうひ)、変流比(へんりゅうひ)という。巻数比は変成比(へんせいひ)とも呼ばれる。
理想的な変圧器では巻数比と変圧比は等しく、さらに変圧比は変流比の逆数と等しい。すなわち、以下が成り立つ:
- ... (a)
前者の等号が成り立つ条件は、1次コイルと鎖交する磁束が全て2次コイルと鎖交することである。より一般に1次コイルと鎖交する磁束のうち割合k が2次コイルと鎖交する場合は、
が成立する。この値k のことを1次コイルと2次コイルの結合係数という。従って (a) の第一の等号が成り立つ条件は結合係数が1になることであると言い換えられる。
一方 (a) の第二の等号が成り立つ条件は、変圧器で電気的なエネルギーが保存されることである。実際エネルギー保存が成り立てばであるので、第二の等号が成り立つ。なお回路中に1つでも抵抗があればそこからエネルギーが熱として逃げてしまうので、電気的なエネルギーは保存せず、第二の等号が言えない。しかしこうした熱が十分小さければ第二の等号は近似的に成立する。
励磁電流
鉄心に主磁束を形成する電流が励磁電流(れいじでんりゅう)である。理想的な変圧器では、励磁電流の位相は一次電圧よりも90°遅れる。実際には鉄心の磁気飽和やヒステリシスにより励磁電流の波形は主に奇数次の高調波ひずみを含む。
電源周波数を高くすると励磁電流は減少する[3]。
損失
変圧比と巻数比の関係の導出
変圧比と巻数比の前述した関係式
をマクスウェル方程式から導出する。
1次コイルに交流電流を流すと、電圧の変化に応じて1次コイル内の電場が変化する。電磁誘導の法則によりの変化は磁束を生じさせ、磁束は変圧器の芯を通って2次コイルへと到達し、一部の磁束は漏れ経路を通りながら2次コイルへと到達せずに一次コイルに戻る。1次コイルから発生する全磁束のうちの有効磁束が2次コイルに到達する。有効磁束の割合は漏れ係数として表される。すなわち、
として、
- ...(1)
が成立する。磁束は1次コイルの場合と逆の過程をたどることにより、2次コイル内の電場と電圧とを変化させる。
1次コイル、2次コイルの断面をそれぞれ、とし、さらに1次コイル、2次コイル内の磁束密度をそれぞれ、とすると、i=1,2に対し、
- ... (6)
ここで (2)、(3)、(4) はそれぞれ磁束の定義、ファラデー=マクスウェル方程式、ストークスの定理から従う。また (5) は以下の理由により成り立つ:電圧の定義より、(5) の左辺はコイル一周分の積分から得られる電圧である。それに対しコイル全体に生じる電圧は、コイルの周りを巻数だけ積分して得られるので、となる。
求めるべき式は (1) と (6) から従う。
注釈
出典
- ^ “トランスについて|北川電機”. www.kitagawa-denki.co.jp. 2022年3月11日閲覧。
- ^ What is a Electrical Transformer ? - www.electricaldeck.com
- ^ 電気主任技術者国家試験問題平成16年度第3種
- ^ 電気用語辞典、コロナ社、1997
- ^ 電気学会規格調査会標準規格 「変圧器」JEC-2200-1995
- ^ JIS C 4304:1999「配電用6kV油入り変圧器」(日本産業標準調査会、経済産業省)
- ^ 鳳誠三郎監修・青木正喜著『電気工学概論』実教出版、2002年、93頁
- ^ a b Coltman, J. W. (January 1988), “The Transformer”, Scientific American: 86–95, OSTI:http://www.osti.gov/energycitations/product.biblio.jsp?osti_id=6851152
- ^ a b Stanley Transformer, ロスアラモス国立研究所;フロリダ大学 2009年1月9日閲覧。
- ^ W. De Fonveille (1880-1-22). “Gas and Electricity in Paris”. Nature 21 (534): 283 2009年1月9日閲覧。.
- ^ Hughes, Thomas P, Networks of Power: Electrification in Western Society, 1880-1930, The Johns Hopkins University Press, Baltimore and London, 1993. ISBN 0-8018-4614-5, 9780801846144.
- ^ Allan, D.J., “Power transformers – the second century”, Power Engineering Journal
- ^ Uppenborn, F. J., History of the Transformer, E. & F. N. Spon, London, 1889.
- ^ アメリカ合衆国特許第 352,105号
- ^ “Hungarian Inventors and their Inventions in the Field of Heavy-Current Engineering”. energosolar.com. 2008年12月26日閲覧。
- ^ HPO - OTTÓ TITUSZ BLÁTHY (1860 - 1939)
- ^ “Ottó Titusz Bláthy”. Hungarian Patent Office. 2008年12月26日閲覧。
- ^ Skrabec, Quentin R. (2007). George Westinghouse: Gentle Genius. Algora Publishing. p. 102. ISBN 978-0875865089
- ^ International Electrotechnical Commission. Otto Blathy, Miksa Déri, Károly Zipernowsky. オリジナルの2010年12月6日時点におけるアーカイブ。 2007年5月17日閲覧。
- ^ “スイッチング電源を誕生させたパワーエレクトロニクスの技術史”. TDK. 2022年4月24日閲覧。
- ^ “今さら聞けないトランスの基本Vol.9 トランス式ACアダプタ編 | 過去メルマガ一覧 | 加美電子工業株式会社”. www.kamidenshi.co.jp. 2022年4月24日閲覧。
変圧器と同じ種類の言葉
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