国鉄キハ54形気動車 仕様別詳説

国鉄キハ54形気動車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/31 00:37 UTC 版)

仕様別詳説

四国仕様車(0番台)

温暖地で使用する区分で、1987年に12両 (1 - 12) が製作された。
製作の経緯
四国島内は予讃本線法華津峠越えや土讃本線四国山地越えなど、主要線区の急勾配区間が存在する。地域間輸送向けに高出力の両運転台車が必要であったが、当該地域に配置された高出力気動車は1960年代に製作された急行形車両が主であり、両運転台車は低出力の1機関搭載車が多数を占めていたほか、数少ない2機関搭載両運転台車のキハ52形は昭和30年代に製造された初期車が多く、老朽化が進行していた。
仕様
四国島内の地域輸送に使用するため、短距離輸送に特化した収容力・運用コストを重視した仕様で製作された。
外部塗色は、当初はステンレス地に黄かん色のストライプを斜めに配した[1]JR移行後にコーポレートカラーの水色を基調とした塗色に変更[注 1]された。
客室窓は二段式の大型ユニット窓である。客用扉は 900mm 幅の折戸とし、戸袋を省略している。下方まで拡大された大型窓が特徴で、バス用のドアエンジンを利用したほか、速度感知式のドアロック機構を装備し、出発・到着時に自動で施錠・解錠をおこなう仕様である。正面下部のスカートは当初省略されたが、2010年頃より簡易的なスカートとして鉄棒が装着された。これは予土線の沿線で増加するシカとの衝突を想定したもので、車両の下へ巻き込ませないための予防的措置である[4]
客室の座席配置はロングシートとされ、キハ38形と同一のバケットシートに加え、肘掛の役割を兼ねた仕切板を座席間に3~5人毎に配置して着席区分を明確化している[1]トイレは設置されず、室内のデッキ仕切りもない。冷房装置はバス用の機器を流用し[1]、走行用エンジンの余裕出力を用いてコンプレッサーを走行用エンジンで駆動する機関直結式としている。

北海道仕様車(500番台)

キハ54 501
(1990年)
酷寒地で使用する区分で、1986年に29両 (501 - 529) が製作された。過酷な気象条件の中での運用に備え、随所に耐雪、凍結対策が施される[5]。排雪走行や動物との衝突などに備え、運転台下にはスカートが装備される。
製作の経緯
北海道の非電化路線は冬期の積雪と列車頻度などの条件により、走行する列車自身が線路上の積雪を除去する、排雪走行の能力が要求される。国鉄時代には北海道向けの2機関搭載両運転台車は長く製作されず、キハ22形キハ40形などの1機関搭載車を地域輸送に使用していた。これらの形式は出力に余裕がなく、冬季は冗長性確保のため、2両以上の編成で運行する対応がとられた。輸送実績に比しコストが過大となることから、この運用方法の解消は長年の課題であった。
1986年には、急行列車の削減で余剰となったキハ56形を改造した2機関搭載の両運転台車、キハ53形500番台が深名線などに投入された。しかしこれは、種車の経年等からも、長期の使用を想定しうるものではなかった。
仕様
客室窓は小型の一段上昇式で、車内側にFRP枠の内窓を備えた二重窓である[5]。客室扉は 850mm 幅の引戸で、凍結対策として、ドアレールとステップに機関廃熱利用の温水ヒーターを装備する。開閉はドア横の押しボタンによる半自動仕様[注 2]である。ドアチャイムはドア付近の天井に設けられ、閉まるときのみ鳴動する仕様である。
車体には赤16号を主体として下部にクリーム10号と灰茶8号の細線を配したテープを貼付する。
一般仕様車(501 - 526)の製作当初の座席配置は、出入台付近を四国仕様と同一のバケット式ロングシートとしたセミクロスシートとして長距離乗車に適応させた[5]。クロスシート部はバス用座席に類似するヘッドレスト独立型の軽量設計である。モケットの色はオレンジ色が基本であるが、所々に黄色を点在させてアクセントとしていた[5]
長距離運用に備え、トイレを設置する。当初はFRP製ユニット式(和式)の垂れ流し式であった[注 3]が、後に洋式便器を使用する循環式に改造され、汚物タンクは床下に設置するスペースがないため床上に追設された。水タンクは屋上に設置され、圧縮空気やポンプを使用しない重力給水式である。
冷房装置は装備せず扇風機のみを室内に設置し、屋上には押し込み式通風器を配置する。暖房装置は機関冷却水を利用した強力な仕様である。
駆動系は、1台の機関を停止し、1機関での走行も可能な仕様とされた[5][注 4]。これは排雪対策を要しない夏季の運用コストに配慮した仕様であったが、使用線区の線路条件に鑑み、実際の運用では通年にわたって2機関を使用する。台車は軸ばねにゴム被覆を施したDT22F形[5]で、コイルばねへの雪噛みによるばね機能喪失(線間密着)を防止する。
  • 急行仕様 (527 - 529)
急行「礼文
(1990年 旭川駅)
旭川 - 稚内間の宗谷本線急行「礼文」専用車として製作され、0系新幹線電車の廃車発生品である転換クロスシートを当初から装備した。窓割りは一般仕様車と同じなので、窓と座席が合っていない。車内の座席番号表示はない。識別のため、窓上に赤帯が追加されている。
この3両は「礼文」での運用を主とし、間合いで臨時の急行快速普通列車運用にも充当されたが、2000年3月ダイヤ改正で「礼文」が廃止され、以後は他のキハ54形500番台同様に運用されている。

改造

鹿笛追設
警笛は在来車と同様のタイフォンを装備していたが、野生動物、特にエゾシカとの衝突事故が多発する路線事情に対応するため、「鹿笛」と呼ばれる甲高い音色のホイッスルに交換されている。屋上装備で、耐雪カバーに覆われている。元々の警笛が付いていた部分はステンレス板で塞がれた。
機器更新
キハ54 526のN-DT54形台車(2005年5月)
既存車との併結も可能(2010年6月)
駆動系の主要機器について、流用部品(廃車発生品)を更新する工事を2003年 - 2005年に実施した。
液体変速機を直結2段(変速段+直結2段の3速)式の N-DW54 形に換装し、推進軸も軽量化されたものに交換された。制御装置は電気式の自動進段装置を装備し、変速段と直結段の切替が自動化された。他車への切替指令を可能とするため変直切替ハンドルは残されており、キハ40形気動車など手動切替式の在来気動車とも併結運転が可能である。
台車は軸梁式ボルスタレス台車の N-DT54 形に交換された。牽引装置は種車の心皿を流用している。釧路運輸車両所所属車両には台車に砂撒き装置が装備されている。
ブレーキ装置は制御弁をE型制御弁に取替え、応荷重装置を新設したほか、特殊鋳鉄制輪子(乙32-F:JR北海道苗穂工場製)を装着して制動力を向上させた。
施工後は自重が約 1t 軽くなり、最高速度は 110 km/h に引き上げられたが、使用線区の現状に鑑み最高速度 95 km/h のまま運用されている。
機関は在来のままながら、排気系にDPF(粒子状物質減少装置)を追加装着した車両が一部存在する。
座席交換
500番台一般車ものちに、観光客や長距離客に配慮し、キハ183系からの発生品である簡易リクライニングシートに座席を交換した。回転機構を用いない集団見合い方式の座席配置となり、対面部分は間隔を広く取りテーブルが設置されている。
釧路運輸車両所所属の花咲線用の車両は再交換を実施し、急行仕様と同型の0系新幹線電車の廃車発生品である「海峡」用のオハ50系から再転用した転換クロスシートを装備した。座席のモケットは、水色地に北海道の鳥をデザインしたものに張り替えられた。
旭川運転所所属車両の一部には、製造当初の座席のまま、モケットのみをキハ183系同様のタンチョウ柄に張り替えたものがある。
後述するラッピング車両でもある522はダンプカーとの衝突事故で廃車となった789系1000番台HL-1005編成から自由席と同タイプのリクライニングシートへ交換された。こちらも集団見合い式の固定配置となっている。

注釈

  1. ^ キハ54 1には警戒色と呼ばれるオレンジ色の帯が運転席、助士席窓の下に入っていたが間もなく消去された。
  2. ^ 後のワンマン改造時に押しボタンを撤去し、撤去跡にワンマン放送用のスピーカーを設置した。
  3. ^ 日本において垂れ流しトイレ仕様で新造された最後の鉄道車両である。
  4. ^ 軽量ステンレス車体と新型エンジンゆえに、キハ40系等従来型の気動車よりは燃費や走行性能に改善が見られたという。
  5. ^ 1996年(平成8年)4月30日までは釧路運転所。
  6. ^ 1996年(平成8年)4月30日までは、車両基地の名称は「釧路運転所」、車両工場の名称は「釧路車両所」。

出典

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  3. ^ 松山→高知:1990年03月10日、高知→松山:2016年03月26日
  4. ^ 松山→高知:1990年03月10日、高知→松山:2012年03月17日
  5. ^ 松山→高知:1990年03月10日、高知→松山:2012年03月17日
  6. ^ 松山→高知:1990年03月10日、高知→松山:2008年03月15日
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  8. ^ 松山→高知:1990年03月10日、高知→松山:2008年03月15日
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  11. ^ 松山→高知:1990年03月10日、高知→松山:2008年03月15日
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