国家神道 語誌

国家神道

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/27 00:47 UTC 版)

語誌

「国家神道」の語彙は第二次世界大戦前より存在し、議会や神道学、内務省、陸軍省[疑問点]などでは「国家神道」およびその同義語を用いている例がみられる。宗教学者の島薗進は戦前、単に「神道」もしくは「皇道」と呼ばれていたものも、内容的には戦後の広義の「国家神道」に相当する概念だとし、今泉定助の「皇道」論を例として挙げる[32]

  • 1908年(明治41年)3月2日、小田貫一衆議院議員「早ヤ既ニ宗教ノ神道[、]国家神道ト云ウモノハ明ラカニ分カッテイタケレドモガかっていた」(帝国議会「神職養成部国庫補助に関する建議案委員会」における発言)[33]
  • 1911年(明治44年)2月、小田貫一「国家神道ト云フモノハ明カニ分ツテ居タ」「神社局ニ於テハ国家神道ナルモノヲ扱ヒ、宗教局ニ於テハ耶蘇、仏法及神道ノ各派ニ属スルトコロノ、即チ宗教神道ヲ支配スル」(帝国議会における発言)
  • 1924年(大正13年)、加藤玄智(陸軍士官学校教授・東京帝国大学神道講座助教授)は「神道」を「宗派的神道」と「国家的神道」とに分け、さらに「国家的神道」を「神社神道」と「国体神道」とに区分する説を立てた[34][35]
  • 1941年(昭和16年)、宮地直一内務省神社局考証課課長、東京帝国大学教授など)は「大化改新は、祭祀に始まり、惟神の道によりて樹立せられし国家中興の大業にして、此時に振起せられし国家神道の精神は、此後久しきに亘り持続せられて」 [36]などと、「国家神道」の語を頻繁に用いている [37]

ただし、教派神道の「『神道各派』から区別された神ながらの道は特に国家神道とも呼ばれるが、法律家や行政実務家は以前からそれを神社と呼ぶのが例[38]」であり、「国家神道」の語は政治家や内務省、その神社局、陸軍上層部、神道学などの場での専門用語であって、一般民衆に流通した語彙ではなかった。現在では「神社」の語義が変化しているため、「神社」ではなく「国家神道」の語をもちいるのが通例である。

研究史上では村上重良の1970年の著書『国家神道』の影響が大きかった[35][39]


注釈

  1. ^ 具体的には「安寧秩序ヲ妨ケス」は主として刑法犯に抵触しない事を指し、「臣民タルノ義務ニ背カサル」は20条・21条に明記された兵役と納税の義務は宗教上の理由で拒否することが出来ない、という見解であった。
  2. ^ 美濃部達吉筧克彦は「神社を格別として、神道を国教としたのは不文憲法に基づくものであるとの学説を主張した。」(葦津珍彦 1987, p. 132)
  3. ^ 神社局は「国民カ神社ニ参拝シマスノハ我カ国体ノ本義ニ基ク当然ノ責務」(1939年1月、帝国議会用資料「宗教団体法案ニ関スル質疑応答資料」)としている。
  4. ^ 神社が保有する森林(鎮守の森)を材木として財源にする狙いがあったといわれる。
  5. ^ アーサー・ポンソンビーによれば、これは戦争遂行のためのプロパガンダに用いられる要素の一つでもある[52]

出典

  1. ^ a b 日本大百科全書』(小学館)”国家神道" コトバンク
  2. ^ a b 佐木秋夫 (25 April 1972). "国家神道". 世界大百科事典. Vol. 11 (初 ed.). 平凡社. p. 270. {{cite encyclopedia}}: |access-date=を指定する場合、|url=も指定してください。 (説明) コトバンク 世界大百科事典「国家神道」
  3. ^ a b c 岩井洋『知恵蔵』(朝日新聞社)”国家神道" コトバンク
  4. ^ 周延 本朝拝神貴皇鏡 | 浮世絵 | 原書房 神田神保町”. www.harashobo.com. 2024年4月26日閲覧。
  5. ^ 楊洲周延 作 「本朝拝神貴皇鏡」”. 刀剣ワールド/浮世絵. 2024年4月26日閲覧。
  6. ^ a b c d 國學院大學日本文化研究所編「国家神道」『神道事典』弘文堂(1999年)129頁
  7. ^ a b c d e f g h i j 新田均「最近の動向を踏まえた「国家神道」研究の再整理 (第30回 宗教法制研究会・第64回 宗教法学会)」『宗教法』第32巻、宗教法学会、2013年10月、21-44頁、ISSN 0288-6820NAID 120006779224 
  8. ^ a b 井上順孝 2006, p. 134.
  9. ^ a b プレステップ神道学, p. 79.
  10. ^ 国家神道とは何だったのか(1987), p. 132.
  11. ^ 国家神道とは何だったのか(2006), p. 80.
  12. ^ 国家神道とは何だったのか(2006), p. 40-41.
  13. ^ a b 神社本庁編『神社のいろは 続』扶桑社(2006年)153頁
  14. ^ 国家神道とは何だったのか(2006), p. 109,114-115.
  15. ^ 国家神道とは何だったのか(2006), p. 109,114-115頁.
  16. ^ 国家神道とは何だったのか(2006), p. 136.
  17. ^ 井上順孝 2006, p. 136.
  18. ^ プレステップ神道学, p. 75.
  19. ^ a b c プレステップ神道学, p. 77.
  20. ^ a b c プレステップ神道学, p. 80.
  21. ^ プレステップ神道学, p. 83.
  22. ^ 神社本庁編『神社のいろは 続』扶桑社(2006年)151頁
  23. ^ 神社本庁編『神社のいろは 続』扶桑社(2006年)150頁
  24. ^ プレステップ神道学, p. 81.
  25. ^ 神社本庁編『神社のいろは 続』扶桑社(2006年)156-157頁
  26. ^ プレステップ神道学, p. 155.
  27. ^ a b 神社本庁編『神社のいろは 続』扶桑社(2006年)155頁
  28. ^ a b c d e f 沼部春友・茂木貞純編『神道祭祀の伝統と祭式』戎光祥出版(2018)62-67頁
  29. ^ a b c d e 山崎雅弘 2015.
  30. ^ a b c 岡田莊司『日本神道史』吉川弘文館(2010)270-271頁
  31. ^ 『戦後宗教回想録』新日本宗教団体連合会調査室、1963
  32. ^ 島薗進「天皇と神道思想」、慶應義塾大学出版会『日本は「右傾化」したのか』 ISBN 978-4-7664-2694-6 収録
  33. ^ 阪本是丸『国家神道形成過程の研究』p.305-306、岩波書店、1994年
  34. ^ 加藤玄智『東西思想比較研究』明治聖徳記念学会、1924年
  35. ^ a b 桂島 宣弘 民衆宗教の宗教化・神道化過程 ――国家神道と民衆宗教――
  36. ^ 宮地直一『神祇史大系』明治書院、1941年。
  37. ^ 阪本是丸「内務省の「神社非宗教論」に関する一考察」「國學院雑誌」2003年11月p310。
  38. ^ 宮沢俊義『憲法講話』(第2版)岩波書店岩波新書〉、1967年6月1日(原著1967年4月20日)、pp. 28-29頁。 
  39. ^ 「国家神道」研究の四〇年
  40. ^ 島薗進 2010.
  41. ^ 山口, pp. 54–55.
  42. ^ 山口, p. 55.
  43. ^ 『増補改訂 近代神社神道史』神社新報社、1986年12月1日、89-95頁。 NCID BN0105426X 
  44. ^ 國學院大学日本文化研究所『縮刷版 神道事典』弘文堂、1999年5月15日、779頁。ISBN 433516033XNCID BA41363654 
  45. ^ 山口, p. 56.
  46. ^ 山口, p. 57.
  47. ^ 山口, p. 59.
  48. ^ 山口, pp. 59–60.
  49. ^ 山口, p. 61.
  50. ^ 【論評】靖国参拝を可能にするカトリックの理論(田口芳五郎『カトリック的国家観:神社参拝問題を繞りて』改訂増補第3版, カトリック中央出版部, 1933) | 論壇.net”. rondan.net. 2018年10月19日閲覧。
  51. ^ 菱木 1994, pp. 35–37.
  52. ^ ポンソンビー「戦時の嘘」、1941年、東晃社。
  53. ^ 『国史大辞典・第五巻』吉川弘文館、1984年、P889「国家神道」の項。
  54. ^ 新田均『現人神「国家神道」という幻想』参照
  55. ^ 『国史大辞典』吉川弘文館
  56. ^ 安丸良夫・宮地正人編『日本近代思想大系5 宗教と国家』431ページ






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