信玄堤 三社神社と御幸祭

信玄堤

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/19 08:51 UTC 版)

三社神社と御幸祭

三社神社・鳥居
甲府市上石田・三社諏訪神社

日本では古来から堤防の安全を記念する川除祭礼が行われているが、信玄堤では中世が現在に至るまで、竜王河原宿において御幸祭(みゆきまつり)が実施されている。御幸祭は大御幸・三社御幸とも呼ばれ、通称「おみゆきさん」として親しまれている。

御幸祭は古来には毎年4月・11月の亥の日に実施され、前者は夏御幸、後者は冬御幸と呼称された[8]。御幸祭は甲斐国一宮・浅間神社笛吹市一宮町一ノ宮)・甲斐国二宮・美和神社(笛吹市御坂町ニノ宮)の神輿と、甲斐国三宮・玉諸神社(甲府市国玉町)の行列が、三社が勧請され創建された竜王河原宿の三社神社まで渡御する[8]。夏御幸は行列が竜王まで向かうのに対し、冬御幸の行列は現在の甲府市上石田に所在する三社諏訪神社まで向かった[8]

御幸祭の行列は各社から川除祭礼を行いつつ御幸道を経て竜王へ向けて行進する。竜王川除場に達すると神主が水神に対して水防祈念を行い、御輿の担ぎ手が一斉に河原へ向かって小石を投げて神事は完了する。県内では山梨市の窪八幡神社秋祭においても同様の祭礼である「おかわよけ」が行われている。

御幸祭は古代の天長2年(825年)に開始されたとする伝承がある[8]。甲斐国における川除祭礼自体の起源は諸国一宮制の確立した平安時代にまで遡ると考えられているが、戦国時代には弘治3年(1557年)12月2日武田晴信判物「浅間神社文書」「坂名井家文書」で、甲斐国守護・武田晴信(信玄)が浅間神社・美和神社の神主に対して夏・冬の御幸祭と年始の三回に甲府の躑躅ヶ崎館(甲府市武田)へ出仕することを命じている[8]。また、二宮美和神社に伝わる『二宮祭礼帳』に御幸祭に関する記録が見られる[8]。古来は神輿が上石田まで渡御する形態であり、後に竜王まで渡御する形態に変化したという[8]

中世の甲斐国では郷村単位で行われる祭礼に関する見られるが、御幸祭はこれに対し広域の村が参加し、守護・武田氏も関わっている祭礼であることが指摘される[9]

竜王河原宿には三社神社が鎮座している。『甲斐国志』神社部に拠れば、三社神社は弘治3年に勧請されたという[8]。三社神社には中世の鳥居が現存している。この鳥居は江戸初期の承応元年(1651年)の年記があるが、これは修理銘であることが指摘され、造立は室町時代末期であると考えられている[10]


『甲斐国志』に拠れば、近世には甲府の一蓮寺(甲府市若松町)において甲府勤番に御札を献上して青銅の奉納を受け、上石田(甲府市上石田)の三社諏訪神社へ立ち寄る。三社諏訪神社も同様に三社祭神が勧請された神社で、現在でも冬御幸は三社諏訪神社まで渡御することから、上石田までの渡御が古来の形態で、御勅使川治水・信玄堤築造による開発で竜王川除場までの渡御に発展したと考えられている。また、上石田への渡御は荒川の水防祈願とも関係しているとも言われる。

御幸祭に関しては若尾謹之助・野沢昌康・斎藤典男らによる道筋研究がある。歴史学においては平山優が戦国期の祭礼について考察している。


  1. ^ a b 『水の国やまなし』、p.6
  2. ^ 勝俣(2007)、p.417
  3. ^ a b c d e f 『水の国やまなし』、p.110
  4. ^ 平山(2005)、p.4
  5. ^ a b c d 『水の国やまなし』、p.111
  6. ^ a b c 平山(2005)、pp.11 - 12
  7. ^ 山梨県立博物館寄託・今沢家文書
  8. ^ a b c d e f g h 平山(2007)、p.561
  9. ^ 平山(2007)、pp.560 - 561
  10. ^ 植松又次「甲斐の石造鳥居概観」(『甲斐路』26号、1975年)
  11. ^ 安達満「初期『信玄堤』の形態について-最近の安芸・古島説を巡って-」(『日本歴史』335号、1976年)
  12. ^ 柴辻俊六「戦国期の築堤事業と河原宿の成立」(『甲斐史学』特集号、1965年)
  13. ^ 笹本正治『武田信玄-伝説的英雄像からの脱却-』(中公新書、1997年)
  14. ^ 安達満「釜無川治水の発展過程」(『近世甲斐の治水と開発』山梨日日新聞社、1993年)
  15. ^ 川﨑剛「釜無川の流路変遷について」(『武田氏研究』13号、1994年)
  16. ^ 今福利恵「御勅使川流路の変遷と地域の諸相」(信玄堤の再評価実行委員会編『信玄堤の再評価』2004年)
  17. ^ 平山優「中近世移行期甲斐における治水の発展」(信玄堤の再評価実行委員会編『信玄堤の再評価』2004年)


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