マルタ・アルゲリッチ レパートリー

マルタ・アルゲリッチ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/10 03:41 UTC 版)

レパートリー

レパートリーはバロック音楽から古典派ロマン派印象派現代音楽まで非常に幅広い。J.S.バッハスカルラッティハイドンモーツァルトベートーヴェンシューベルトシューマンショパンリストメンデルスゾーンブラームスチャイコフスキードビュッシーラヴェル[23]フランクサン=サーンスクライスラーバルトークラフマニノフスクリャービンプロコフィエフストラヴィンスキーショスタコーヴィチルトスワフスキメシアンなど。一方で、スティーヴン・コヴァセヴィチネルソン・フレイレ、アレクサンドル・ラビノヴィチ、近年ではアルゲリッチお気に入りの若手ピアニストたちとともにピアノ2重奏や連弾による演奏会も行っている。母国アルゼンチンの作曲家では、ヒナステラピアソラロペス=ブチャルドグアスタビーノ、ラーサラ、ラミレスなど。日本人の作品では、1995年小澤征爾のバースデイ・コンサートで、大江光のチェロとピアノのための「お話-A Talk[24]」をロストロポーヴィチとの共演で世界初演した。

ただし、マウリツィオ・ポリーニほかに見られるベートーヴェンのソナタ全集のような体系的な録音を果たす前に、ソロ活動から半分引退してしまった。このため、BOXセットが発売されても人気のためにすぐに売り切れてしまい[25]、各種レーベルが権利を保持したままで実は全貌が掴みづらい[26]

人物

  • 前述の通り3度の結婚で3人の娘をもうけたが、いずれも離婚している[注釈 3]。子どもたちはみなアルゲリッチが引き取り育てた。アルゲリッチの3人の娘には、いずれもプロフェッショナルの音楽家はいない。しかし、ロバート・チェンとの間に生まれたリダ・チェンは、ヴィオラ奏者として母親と共演することがしばしばある[注釈 4]シャルル・デュトワとの娘アニー・デュトワは、アルゲリッチのいくつかのCDをはじめ、しばしばクラシック音楽のCDのライナーノートや音楽専門誌に執筆している。デュトワとの結婚生活は、デュトワがチョン・キョンファと浮気したことにより終焉を迎えた[27]。ピアニストのスティーヴン・コヴァセヴィチとの間に生まれたステファニー・アルゲリッチは、主にアルゲリッチのCDの表紙やドキュメンタリー映像などを撮影しているプロの映像アーティストである。コヴァセヴィチとの別離の後、「わたしは恋愛に向いていないと思う」と語っていたが、10歳下のミシェル・ベロフと4年間、4歳下のアレクサンドル・ラビノヴィチと10年間、恋愛関係にあった[28]。ロストロポーヴィチと恋仲だった旨が取沙汰されたこともあるが、アルゲリッチは「何も記憶にない」と言っている[29]
  • 1980年の第10回ショパン国際コンクールの審査員であったアルゲリッチは、ユーゴスラヴィアからの参加者イーヴォ・ポゴレリチが本選に選ばれなかったことに抗議し、審査員を辞退した。ポゴレリチのことを「だって彼は天才よ![30]」と言い残したことにされたが、これは不正確な日本語訳である[31]
  • アーリンク・アルゲリッチ財団(AAF)の共同設立者[32]であり、少しでも脈のある国際ピアノコンクールであればAAFの承認を授けて助成している。WFIMCからAAFに乗り換えたコンクールもある。

日本とのつながり

  • 1970年に初来日[33]し、以後、幾度も来日している。
  • 大分県別府市とは特につながりが深く、1994年に別府ビーコンプラザ・フィルハーモニアホール名誉音楽監督に就任し、1998年から開催されている別府アルゲリッチ音楽祭の総監督を務め、2007年には同音楽祭の主催団体である財団法人アルゲリッチ芸術振興財団(Argerich Arts Foundation)の総裁に就任している[34]。支援者が資金を拠出し、別府アルゲリッチ音楽祭の拠点となるコンサートホール「しいきアルゲリッチハウス」が2015年に完成している[35][36]
  • アルゲリッチは、1998年以降は毎年の別府アルゲリッチ音楽祭のために欠かさずに来日している。ただし2020年度は新型コロナウィルスの感染拡大のため音楽祭開催、来日ともに2021年へ延期、2021年度の別府アルゲリッチ音楽祭も新型コロナウイルス感染拡大のため中止された[37]
  • 2021年5月、大分県はアルゲリッチの誕生日である6月5日を「マルタ・アルゲリッチの日[38]」と制定した。
  • 2022年5月、大分県の芸術・文化振興への大きな功績に対し県民栄誉賞が授与された[39]

注釈

  1. ^ 当時グルダに恋をしていた、と自ら語っている[14]
  2. ^ 1965年の第7回ショパン国際ピアノコンクール出場時の映像の一部を観ることができるが、第1次予選での「英雄ポロネーズ」作品53の映像は、客席側から撮影されているフィルム以外は、全てコンクール後に撮影された時のものが使われている。正面(および手のアップ)から撮影されたフィルムは音とアルゲリッチの動きと合致していない部分がほとんどであること、またコンクール時アルゲリッチが使用したピアノはスタインウェイ社製であったにもかかわらず、ベヒシュタイン社のピアノを弾いているということが挙げられる。スケルツォ第3番の映像もコンクール後撮影された時のフィルムであり、第2次予選での実況録画・録音ではない。
  3. ^ 稀に語られることがあるが、ロストロポーヴィチとの間に子どもがいるというのは全くの誤りである。当然ロストロポーヴィチとは結婚もしていない。
  4. ^ リダ・チェンがピアニストのフー・ツォンとの間に生まれた子どもだと言うのは間違いである。

出典

  1. ^ オリヴィエ・ベラミー『マルタ・アルゲリッチ 子供と魔法』p.11。
  2. ^ The 20 Greatest Pianists of all time” (英語). Classical Music. 2021年12月5日閲覧。
  3. ^ The 25 best piano players of all time” (英語). Classic FM. 2021年12月5日閲覧。
  4. ^ The Magnificent Martha Argerich”. www.medici.tv. 2024年5月8日閲覧。
  5. ^ FRÉDÉRIC CHOPIN”. www.deutschegrammophon.com. 2024年5月8日閲覧。
  6. ^ Martha Argerich, the one and only”. /www.euronews.com. 2024年5月8日閲覧。
  7. ^ 'Just extraordinary' - Martha Argerich and the Lucerne Festival Orchestra pay homage to Claudio Abbado”. www.euronews.com. 2024年5月8日閲覧。
  8. ^ <TV>5/30(日) NHK BSプレミアム 映画『アルゲリッチ 私こそ、音楽!』”. www.universal-music.co.jp. Universal-Music (2021年5月8日). 2021年12月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年5月8日閲覧。
  9. ^ 『マルタ・アルゲリッチ 子供と魔法』p.10。
  10. ^ 吉澤ヴィルヘルム『ピアニストガイド』青弓社、印刷所・製本所厚徳所、2006年2月10日、53ページ、ISBN 4-7872-7208-X
  11. ^ 『マルタ・アルゲリッチ 子供と魔法』p.12。
  12. ^ 『マルタ・アルゲリッチ 子供と魔法』p.15, 17。
  13. ^ 『マルタ・アルゲリッチ 子供と魔法』p.10-11。
  14. ^ a b 『マルタ・アルゲリッチ 子供と魔法』p.57。
  15. ^ 『マルタ・アルゲリッチ 子供と魔法』p.58。
  16. ^ "People" April 07, 1980 "A Top Woman Pianist, Martha Argerich, Nearly Gave Up Her Steinway for Steno" By Fred Hauptfuhrer, Mary Vespa
  17. ^ 『マルタ・アルゲリッチ 子供と魔法』p.66。
  18. ^ 『マルタ・アルゲリッチ 子供と魔法』p.102。
  19. ^ Martha Argerich at 80”. www.abc.net.au. abc (2021年6月8日). 2024年5月8日閲覧。
  20. ^ アルゲリッチ「旭日中綬章」受章”. wmg.jp. ワーナー (2016年11月4日). 2024年5月8日閲覧。
  21. ^ Martha Argerich – Etude in C major, Op. 10 No. 1 (1965)”. www.youtube.com. Chopin Institute (2016年7月8日). 2024年5月8日閲覧。
  22. ^ Tim Parry (2021年6月24日). “Martha Argerich: Celebrating the Great Pianist at 80”. www.gramophone.co.uk. Gramophone. 2023年12月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年5月8日閲覧。
  23. ^ Robert Cummings. “Martha Argerich – The Successful Beginning”. www.musicweb-international.com. 2024年5月8日閲覧。
  24. ^ 大江光のチェロとピアノのためのA Talk”. www.argerich.jp. 2023年12月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年5月8日閲覧。
  25. ^ THE COMPLETE RECORDINGS ON DEUTSCHE GRAMMOPHON”. www.deutschegrammophon.com. DG (2015年9月3日). 2024年5月8日閲覧。
  26. ^ Piano Sonata No. 28 in A Major, Op. 101: I. Etwas lebhaft und mit der innigsten Empfindung (Live)”. www.youtube.com. DOREMI. 2024年5月8日閲覧。
  27. ^ 『マルタ・アルゲリッチ 子供と魔法』p.192。
  28. ^ 『マルタ・アルゲリッチ 子供と魔法』p.211-212, 215。
  29. ^ 『マルタ・アルゲリッチ 子供と魔法』p.231。
  30. ^ 「だって彼は天才よ!」”. www.asahi.co.jp. 朝日放送. 2024年5月8日閲覧。
  31. ^ Martha Argerich, who was on the jury, described him as a “genius”.”. www.sonyclassical.com. SONY. 2024年5月8日閲覧。
  32. ^ John Ciocoiu. “2. The people behind AAF”. www.alink-argerich.org. AAF. 2024年5月8日閲覧。
  33. ^ 1970年には現代最高のピアニストのひとり、マルタ・アルゲリッチの初めての日本公演を行った。”. www.kajimotomusic.com. KAJIMOTO. 2024年4月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年5月8日閲覧。
  34. ^ 公益財団法人アルゲリッチ芸術振興財団とは”. argerich-mf.jp. 公益財団法人アルゲリッチ芸術振興財団. 2023年11月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年5月8日閲覧。
  35. ^ “別府にアルゲリッチハウス/本人演奏、市民と完成祝う”. 四国新聞. (2015年5月15日). オリジナルの2018年9月7日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180907195912/https://www.shikoku-np.co.jp/national/life_topic/20150515000537 2018年9月7日閲覧。 
  36. ^ しいきアルゲリッチハウス”. 公益財団法人アルゲリッチ芸術振興財団. 2018年9月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年9月7日閲覧。
  37. ^ konnichi (2021年5月7日). “「感染急拡大」を受けて中止に”. kon-nichi.com. 今日新聞. 2023年12月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年5月8日閲覧。
  38. ^ 「マルタ・アルゲリッチの日」の制定及びPR動画等の公開について”. 大分県ホームページ. 2021年9月6日閲覧。
  39. ^ アルゲリッチさんに県民栄誉賞”. www.nishinippon.co.jp. 大分・日田玖珠版. 2024年5月8日閲覧。


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