ブラックバーン バッカニア 設計と特徴

ブラックバーン バッカニア

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/04 19:13 UTC 版)

設計と特徴

上記の通り、「空母から発艦し、低空を亜音速~遷音速で飛行しての核攻撃」を前提に設計されているため、様々な工夫が凝らされている。

胴体・主翼・尾翼

機体は胴体の中ほどに主翼を配置した中翼機であり、胴体はエリアルールを適用して設計され、胴体下部には爆弾倉が配置されている。また胴体後端部のテイルコーンは左右に二分して開くエアブレーキとなっている。空母への格納時には機首レドームを左側に折り畳むと共に、エアブレーキを展開することで全長を短くするのにも貢献している。

コクピットはタンデム式であり、前席にパイロット、後席にオブザーバーが搭乗する。キャノピーは前後席で一体化されており、後方にスライドして開く。

主翼は後退翼であり、艦上機であることから上方に油圧で折り畳めるように設計されている。尾翼は、垂直尾翼の上端部に水平尾翼を配置したT字尾翼である。

境界層制御

バッカニアの吹き出し式フラップの模式図。

バッカニアは、主翼と水平尾翼の双方に吹き出し式フラップ (Blown flapによる境界層制御機構を組み込んでいるのが特徴の一つである。

バッカニアは低空侵攻攻撃機であるので、低空での突風(ガスト)の影響を抑え、かつ空気抵抗を低くするには翼面荷重翼幅荷重を高く(=主翼をなるべく小さく)する必要があった。

しかしバッカニアは空母での運用を前提とする艦上機なので、発艦・着艦速度を抑えるためには逆に翼面荷重と翼幅荷重を低く(=主翼をなるべく大きく)する必要があるという、二律背反に陥った。

そこで、主翼がある程度小さくても発艦・着艦速度を下げることができるように、保守負担の増加を甘受してでも吹き出し式フラップによる境界層制御機構が組み込まれた[注 6]

吹き出し式フラップは、主エンジンの圧縮機から抽出した圧縮空気を、前縁フラップのヒンジ上面から主翼上面へ、後縁フラップのヒンジ上面からフラップ上面にそれぞれ這わせるように勢いよく噴出させることで、コアンダ効果により周辺の境界層を巻き込み、高迎角での境界層剥離による失速を防ぐ。

さらに水平尾翼の前縁下部からも水平尾翼下面に沿って噴出させることで、迎角を取るために大きく下げ舵を取っている水平尾翼下面の失速を防ぐようになっている[注 7]

これにより、発艦・着艦時には低速でもより大きな迎角を取ることで揚力を維持できるようになり、発艦・着艦速度の低下につながった。南アフリカ空軍のS.50型の離陸滑走を例にとれば、境界層制御不使用時には滑走距離3,700フィート(1,128 m) /離陸速度175ノット(324 km/h; 201 mph)が、境界層制御を使用すると滑走距離3,000フィート(914m)/離陸速度144ノット(266 km/h; 165 mph)に低下している[4]

エンジン

エンジンは、胴体と左右主翼の接合部分に1基ずつの、計2基搭載する。リヒートは装備していない[注 8]

S.1ではデ・ハビランド製のジャイロン・ジュニア101 ターボジェットエンジンを搭載していたが、推力は7,100 lbf程度[5] のため、燃料・兵装を満載しての発艦が不可能となる事態が生じたため、運用時には燃料を半分だけ搭載した状態で発艦した後でスーパーマリン シミターから空中給油を受けることで補っていた。

改良型のS.2では、推力11,100 lbfのロールス・ロイススペイ Mk101 ターボファンエンジンに変更した[6]。エンジン換装で推力が約1.5倍強に増強されたことから、燃料と兵装を満載しての発艦が可能となり、使い勝手が向上した。

S.1とS.2では、インテイクがS.1では円形であるのに対し、S.2では上下に伸びた楕円形になっているのが外見上の特徴である。

さらに、南アフリカ空軍向けのS.50では、空気の薄くなる高温の高地にある飛行場におけるエンジン推力低下を懸念して、離陸補助用に推力8,000lbfのブリストル・シドレー BS.605ロケットエンジンを後部胴体下面・エアブレーキ直前に搭載した[4][注 9]

兵装

バッカニアの爆弾倉の内部に、4発の爆弾が搭載されている(赤色なので模擬弾か?)

バッカニアの兵装は、胴体下面の爆弾倉と、左右主翼下2か所ずつ(折り畳み箇所の内側と外側に、1つずつ)のハードポイントに搭載される。兵装の最大搭載量は、S.1では8,000ポンド[5]、S.2では16,000ポンド[6]とされている。また航空機関砲は一切搭載していない。

爆弾倉は一般的な左右に分かれて開くヒンジ式の扉ではなく、扉部分が機体中心線部分を軸にして180度裏返しになる回転式であり、爆弾を搭載するパイロンは爆弾倉の扉の裏面に装着される[注 10]

バッカニアは上記のように、ソビエト海軍水上艦隊への核攻撃を主目的として開発された。開発当初は、核弾頭を搭載したグリーンチーズ空対艦ミサイルを装備する予定だったが、グリーンチーズミサイルの開発が中止されたため、代替として自由落下式核爆弾のレッドベアードもしくはWE.177英語版を使用することになった。


注釈

  1. ^ なお1940年代にブリュースター社が開発した艦上爆撃機SB2Aもバッカニアの愛称を持つが、イギリス海軍が採用したModel 340-14はバーミューダと命名されている。
  2. ^ この時期、ホーカー・シドレーはデ・ハビランドフォーランド英語版を買収したほか、子会社のグロスターアブロアームストロング・ホイットワースも吸収合併している。
  3. ^ この後しばらくのあいだ旧ブラックバーンはホーカー・シドレー ブラックバーン部門(Hawker Blackburn Division)とされており「ブラックバーン」のブランド名を使っていたが、1963年7月1日以降は(他の子会社や買収企業を含めて)ホーカー・シドレーのブランド名で統一される[2]
  4. ^ 2隻の空母の間で相互の艦載機を発艦・着艦させる訓練。
  5. ^ トーネード用に開発されていた電子機器を搭載して飛行し空中試験を行なう機体に選定された。
  6. ^ 同時期に空軍が開発していたカウンターパートのBAC TSR-2も、ほぼ同様の理由で吹き出し式フラップを装備しているが、主翼後縁のみである。
  7. ^ アメリカ製の艦上戦闘機であるF-4ファントムIIも、同様の目的で水平尾翼前縁にスラットを設けている(英空軍仕様のファントムFGR.2や、西ドイツ空軍仕様のF-4F、米空軍仕様のF-4C/Dなど、水平尾翼前縁にスラットを設置していない機種も存在する)
  8. ^ 1978年にイギリス最後のCTOL空母「アーク・ロイヤル」が退役する以前のイギリス海軍の艦上ジェット機でリヒートを搭載していたのは、ファントムFG.1のみである。
  9. ^ 実際にはほとんど使用されず、酸化剤に過酸化水素を使うこともあって、後にすべて撤去された[4]
  10. ^ 同種の爆弾倉は、アメリカのマーティン XB-51や、イングリッシュ・エレクトリック キャンベラをライセンス生産したB-57で採用された(オリジナルのイギリス製は、従来式の爆弾倉を使用)。
  11. ^ トーネードGR.1用の照準ポッドであるTIALD英語版が開発中であったため[7]

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j k Thunder & Lightnings. “Blackburn Buccaneer History” (英語). 2020年12月23日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l BAE SYSTEMS. “Blackburn Buccaneer” (英語). 2019年11月13日閲覧。
  3. ^ Yorkshire AIR Museum. “Blackburn Buccaneer S.2” (英語). 2021年1月14日閲覧。
  4. ^ a b c 24 SQN Buccaneers NPC. “Bucc Specs” (英語). 2020年12月10日閲覧。
  5. ^ a b FLEET AIR ARM MUSEUM. “Blackburn Buccaneer S1” (英語). 2020年12月10日閲覧。
  6. ^ a b FLEET AIR ARM MUSEUM. “Hawker Siddeley Buccaneer S2B” (英語). 2020年12月10日閲覧。
  7. ^ a b c d Pave Spike in Granby - System background” (2004年10月9日). 2011年6月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年11月8日閲覧。
  8. ^ a b The South African Air Force. “24 Squadron” (英語). 2019年11月19日閲覧。
  9. ^ 戦闘機 飛行機 超音速体験
  10. ^ Fly a British Fighter Jet Over Thunder City, Cape Town






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