ブラックバーン バッカニア
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/04 19:13 UTC 版)
開発
1950年、当時ソ連海軍がスヴェルドロフ級巡洋艦の大量建造を計画していることを知ったイギリス海軍は、それらに対抗するための手段を模索していた。その結果、レーダーに捕捉されない海面すれすれの低空を飛行し、数に勝るソ連艦隊を核爆弾によって一網打尽にする戦術が考案され、専用の機体が開発されることとなった。
1953年3月に海軍参謀要求NA.39(後により具体的な要求仕様書M.148Tとなる)として審査が行われた結果、ブラックバーン・エアクラフト社のB.103が採用された[1]。
B.103の基本設計は1954年7月に完了し、翌1955年には開発契約が正式に結ばれ、20機の前量産型が発注された[1]。
B.103の開発は1957年2月まで最高機密とされており、秘匿名称としてBNA(Blackburn Naval Aircraft)もしくはARNA(Another Royal Navy Aircraft)と呼ばれていたが、一部の社員からはバナナ・ジェット(Banana Jet)と呼ばれており、配備後もパイロットからこのように呼ばれるようになった[1]。
バッカニアの前量産型の1号機(シリアル番号:XK486)は、1958年4月30日にRAEのベドフォード飛行場 (RAE Bedford) にて、デレク・ホワイトヘッド(Derek Whitehead)の操縦により初飛行した[2][1]。
1960年1月には空母での運用試験が開始され、19日には「ヴィクトリアス」に初めて着艦した[1]。同年8月には、海賊の黄金時代にカリブ海のスペイン領を荒らしていた英仏出身者の公認海賊にちなんで「バッカニア」と命名された[1][注 1]。
同じく1960年に、ブラックバーン社はホーカー・シドレーに吸収合併された[注 2][注 3]ため、バッカニアの整備や改良型の生産はホーカー・シドレー社によって行われた。
1961年3月7日には運用試験部隊である第700海軍飛行隊がロッシーマス海軍航空基地にて編成され、翌1962年7月には初の実戦飛行隊である第801海軍飛行隊が編成された[1]。
後に、バッカニアS.1に搭載されていたデ・ハビランド ジャイロン・ジュニアエンジンの推力不足が原因で、兵装と燃料を満載しての発艦が不可能であることが判明したため、ロールス・ロイス スペイターボファンエンジンを搭載したバッカニアS.2の開発が1959年後半から始められ、1963年5月に開発が完了し、5月13日に初飛行した[2][1]。
バッカニアS.2はエンジンのインテイクが大型化しているのが外見上の特徴であるが、電子装備の近代化や機体構造の強化(=兵装搭載量の増加)も行われている[1]。
S.2の空母での運用試験は1965年4月からアメリカ近海で行われており、同年にはアメリカ空母「レキシントン」とのクロスデッキ訓練[注 4]が行われた[1]。さらには、カナダのグースベイ航空基地からロッシーマス海軍航空基地までの1,950マイルを4時間16分で(無着陸かつ、空中給油も受けずに)飛行した[1][3]。
現役中期には自身の後継機であるトーネード IDS開発において貢献することになる[注 5]。元々がかなりタフな設計なうえに機体のサイズも近く、そして低空侵攻しての対地攻撃という共通の任務があったので適任とされ、実際に成果を挙げている。この用途で使われたものは機首の形が異なる(トーネード用のレドームに換えられている)ので見た目での区別も可能である。
注釈
- ^ なお1940年代にブリュースター社が開発した艦上爆撃機SB2Aもバッカニアの愛称を持つが、イギリス海軍が採用したModel 340-14はバーミューダと命名されている。
- ^ この時期、ホーカー・シドレーはデ・ハビランドとフォーランドを買収したほか、子会社のグロスターやアブロ、アームストロング・ホイットワースも吸収合併している。
- ^ この後しばらくのあいだ旧ブラックバーンはホーカー・シドレー ブラックバーン部門(Hawker Blackburn Division)とされており「ブラックバーン」のブランド名を使っていたが、1963年7月1日以降は(他の子会社や買収企業を含めて)ホーカー・シドレーのブランド名で統一される[2]。
- ^ 2隻の空母の間で相互の艦載機を発艦・着艦させる訓練。
- ^ トーネード用に開発されていた電子機器を搭載して飛行し空中試験を行なう機体に選定された。
- ^ 同時期に空軍が開発していたカウンターパートのBAC TSR-2も、ほぼ同様の理由で吹き出し式フラップを装備しているが、主翼後縁のみである。
- ^ アメリカ製の艦上戦闘機であるF-4ファントムIIも、同様の目的で水平尾翼前縁にスラットを設けている(英空軍仕様のファントムFGR.2や、西ドイツ空軍仕様のF-4F、米空軍仕様のF-4C/Dなど、水平尾翼前縁にスラットを設置していない機種も存在する)
- ^ 1978年にイギリス最後のCTOL空母「アーク・ロイヤル」が退役する以前のイギリス海軍の艦上ジェット機でリヒートを搭載していたのは、ファントムFG.1のみである。
- ^ 実際にはほとんど使用されず、酸化剤に過酸化水素を使うこともあって、後にすべて撤去された[4]。
- ^ 同種の爆弾倉は、アメリカのマーティン XB-51や、イングリッシュ・エレクトリック キャンベラをライセンス生産したB-57で採用された(オリジナルのイギリス製は、従来式の爆弾倉を使用)。
- ^ トーネードGR.1用の照準ポッドであるTIALDが開発中であったため[7]。
出典
- ^ a b c d e f g h i j k Thunder & Lightnings. “Blackburn Buccaneer History” (英語). 2020年12月23日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l BAE SYSTEMS. “Blackburn Buccaneer” (英語). 2019年11月13日閲覧。
- ^ Yorkshire AIR Museum. “Blackburn Buccaneer S.2” (英語). 2021年1月14日閲覧。
- ^ a b c 24 SQN Buccaneers NPC. “Bucc Specs” (英語). 2020年12月10日閲覧。
- ^ a b FLEET AIR ARM MUSEUM. “Blackburn Buccaneer S1” (英語). 2020年12月10日閲覧。
- ^ a b FLEET AIR ARM MUSEUM. “Hawker Siddeley Buccaneer S2B” (英語). 2020年12月10日閲覧。
- ^ a b c d “Pave Spike in Granby - System background” (2004年10月9日). 2011年6月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年11月8日閲覧。
- ^ a b The South African Air Force. “24 Squadron” (英語). 2019年11月19日閲覧。
- ^ 戦闘機 飛行機 超音速体験
- ^ Fly a British Fighter Jet Over Thunder City, Cape Town
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