パニック 概要

パニック

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/03 10:08 UTC 版)

概要

パニックの定義としてはスメルサーによる「ヒステリー的信念に基づく集合的な逃走」、ラングによる「極端な利己的状態への集合的な退行」、サトウタツヤによる「突然発生した予期しない恐怖で, 抵抗不可能なものであり,多くの人々が同時にそれに影響される状態で多くの場合逃走や混乱が見られる状態」というものがある[1]

パニックの脅威は、1942年11月28日にアメリカ合衆国のボストンで500人近い死者を出したココナッツ・グローヴ火災によって広く知られることになった[2]。この事件については大惨事を引き起こした原因や責任の所在が解明できないまま、パニック説がスケープゴートにされたに過ぎないと見る分析もある一方[3]、やがて災害そのものよりも災害による群衆のパニックこそが最大の脅威であるという認識が[4]、時にはパニックに対する誤った誇張や過剰な恐怖心を交えつつも[4]、一般的な社会常識として広く共有されるようになる[5]

一方、常識として広まったパニックのイメージには、過大評価や、後の研究で否定された内容に基づく誤解もあり、誤解に基づいた避難誘導が逃げ遅れを誘発したり、逆にパニックを拡大させたりといった不適切な対応に繋がる場合もある(詳細は「#パニックに対する過大評価と正常性バイアス」を参照)。

語源

語源は、ギリシア神話の神・パーンにちなむ[6][7]。古代ギリシアの人々は、家畜の群れが何の前触れもなく突然騒ぎだし、集団で逃げ出す現象について、家畜の感情を揺り動かす見えない存在が牧神・パーンと関係していると考え、これを「パーンに関係するもの」(古代ギリシア語: πανικόν = 英語: panic)と呼んだ。古代ギリシアでも既に語源俗解がなされ、神話上の物語が幾つか伝わっている。例えば、魔神テューポーンが神々の集うオリンポス山に出現した際、神々は恐れて動物に化けて逃げ回ったが、パーンは恐慌のあまり、上半身が山羊で下半身が魚という姿に化けるという醜態をさらし、これがパニックの語源になった、などである。

近代以降は、人間や動物の集団を突然襲う恐慌状態を「パニック」と呼ぶようになり、やがて群集心理に留まらず、個々人の恐慌状態や心理状態をも指すようになった。今では心拍数120を超えるとパニック状態と判断される場合がある。

暴発行動

動物の場合、の処理能力を超える状況に陥った場合に、人間のパニック状態同様の、非論理的な行動が見られる。例を挙げれば、室内に閉じ込められた鳥が出口を求めて窓ガラスや壁などに体当たりをする行動や、ネズミが川へ群れで飛び込む集団行動、罠に掛かった動物が傷付くのも厭わずに暴れ回る行動などがある。

人間にしても動物にしても、強いストレスの下で衝動的な行為を起こした場合、偶発的にでも、ストレスの元から逃れる可能性が生じるため、このような緊急的な行動様式が発達したと考えられている。


注釈

  1. ^ ただし翌朝の新聞各社の報道ではこの出来事について、「避難騒ぎ」「パニック」といった、事実に反した内容が報道された[19]

出典

  1. ^ a b c d サトウタツヤ「うわさとパニック」立命館人間科学研究 第7号 2004.3
  2. ^ 広瀬 2004, pp. 136–140.
  3. ^ 広瀬 2004, p. 139.
  4. ^ a b c 広瀬 2004, p. 128.
  5. ^ 広瀬 2004, pp. 14–16.
  6. ^ a b c 広瀬 2004, pp. 15–16.
  7. ^ a b 山村 2015, p. 127.
  8. ^ 芳賀繁『失敗のメカニズム—忘れ物から巨大事故まで』角川書店、2003年。ISBN 404371601X 
  9. ^ a b 山村 2015, p. 126.
  10. ^ 広瀬 2004, p. 140-145.
  11. ^ 広瀬 2004, p. 141.
  12. ^ a b c d e 広瀬 2004, p. 142.
  13. ^ a b 広瀬 2004, pp. 143–145.
  14. ^ 広瀬 2004, p. 145.
  15. ^ a b 広瀬 2004, p. 140.
  16. ^ a b 広瀬 2004, p. 147-149.
  17. ^ 広瀬 2004, p. 84.
  18. ^ 広瀬 2004, p. 16-18.
  19. ^ a b c d e 松田 2014, p. 32.
  20. ^ 山村 2015, pp. 120–121.
  21. ^ a b 山村 2015, p. 125.
  22. ^ 山村 2015, pp. 120–126.
  23. ^ 山村 2015, p. 122.
  24. ^ 広瀬 2004, pp. 128–129.
  25. ^ 広瀬 2004, pp. 14–18, 128, 147–149.
  26. ^ 山村 2015, pp. 124–130.
  27. ^ 山村 2015, pp. 118, 127.
  28. ^ a b c d e 松田 2014, p. 31.
  29. ^ 山村 2015, pp. 118, 126–127.
  30. ^ a b c d e Mika Yamamoto (2015年4月18日). “正常性バイアスを知っていますか?「自分は大丈夫」と思い込む、脳の危険なメカニズム”. tenki.jp. 日本気象協会. 2016年4月24日閲覧。
  31. ^ a b 広瀬 2004, pp. 11–14.
  32. ^ a b 山村 2015, pp. 18–19.
  33. ^ 広瀬 2004, pp. 12–14.
  34. ^ 広瀬 2004, pp. 147–148.
  35. ^ 広瀬 2004, pp. 13, 16–17, 129–130.
  36. ^ a b c 山村 2015, pp. 128–129.
  37. ^ 広瀬 2004, pp. 16–17, 129–130.
  38. ^ 山村 2015, p. 130.
  39. ^ 広瀬 2004.
  40. ^ 被曝後に肺がん、死亡の作業員に労災認定 福島第一原発:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル. 2022年7月8日閲覧。
  41. ^ Pooley, Jefferson D, and Michael J Socolow. “Checking Up on The Invasion from Mars : Hadley Cantril, Paul Lazarsfeld, and the Making of a Misremembered Classic.” International Journal of Communication 7, no. 0 (2013): 29.
  42. ^ Hayes, Joy Elizabeth, and Kathleen Battles. “Exchange and Interconnection in US Network Radio: A Reinterpretation of the 1938 War of the Worlds Broadcast.” Radio Journal: International Studies in Broadcast & Audio Media 9, no. 1 (2011): 51–62.
  43. ^ 佐藤卓己『メディア論の名著30』ちくま新書、2020
  44. ^ 松田 2014, p. 30.
  45. ^ 松田 2014, p. 8.
  46. ^ livedoor news J-CASTテレビウォッチ 2013年06月20日付
  47. ^ a b "集団パニック". 知恵蔵mini. コトバンク. 24 June 2013. 2016年12月9日閲覧
  48. ^ a b c "集団パニック". 知恵蔵mini. コトバンク. 2014-7-2. 2016-12-09閲覧 {{cite encyclopedia}}: |date=の日付が不正です。 (説明)
  49. ^ "集団ヒステリー". 世界大百科事典 (第2版 ed.). コトバンク. 2015. 2016年12月9日閲覧
  50. ^ a b c J-CATニュース「女子生徒18人搬送は集団パニック? 「霊感が強かった」との報道も」2013年6月20日付
  51. ^ 生徒26人、集団パニックか 柳川高が臨時休校 - 西日本新聞、2014年7月1日
  52. ^ 福岡・柳川高校で女子が集団パニックか - 日刊スポーツ、2014年6月30日



パニック!

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2014/06/21 21:15 UTC 版)

パニック!」は、Still Small Voiceの1作目のシングル1996年6月1日ソニーレコードから発売された。




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