トリアージ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/31 02:50 UTC 版)
各国での運営
日本
2005年4月25日に発生した、JR福知山線脱線事故では多くの死傷者が発生したため、災害派遣医療チームがトリアージを実施している。
北海道札幌市では夜間の産婦人科救急の判定を行うために2008年10月より産婦人科救急電話相談をスタートさせた。これは、産婦人科の症状に関して電話でトリアージし、今すぐの受診が必要か明日まで様子を見てよいものかを判断するものである。札幌市の特徴としては、一般の市民や消防の救急車・警察・一次医療機関の搬送要請に関してコーディネートも一貫で行うものであり、日本でもこのようなサービス事例は他には無い。1年間で相談件数はおよそ2000件程度である。実際の搬送件数は10%となり、夜間の緊急選定に大いに貢献している。
神奈川県横浜市では2008年10月1日から施行された横浜市救急条例により、119番通報時に緊急・重症度を識別する「コール・トリアージ」が運用されている[18]ほか、令和2年(2020年)4月からは大阪府の泉州南消防組合において非常時コールトリアージの運用が開始された[19]。
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国の医療では、ユニバーサルヘルスケアが完全実施されていないため、医療費の支払いができない中-低所得者が救急医療制度に頼る傾向が強くなっている。このため救急救命室には重症患者から軽症患者まであふれかえる状況になっており、患者の状態から受診の優先順位が決められる病院内トリアージが行われている[20]。
イギリス
イギリスの医療では、救急部門(A&E department)においてトリアージが常時行われている[4]。英国の救急システムでは、救急要請の電話番号999への電話、あるいは救急相談の電話番号111に電話することにより、電話を受けた看護師または救命士がまず電話上でトリアージを行い、Emergency、Urgent、Lower Tierの3種類に分類し、救急車の出動または医師の往診など適切な受診形態を指示する。救急車によって病院へ搬送される場合(EmergencyまたはUrgent)は、病院の救急部門においてさらにトリアージが行われる。Urgentに分類されていても、搬送中に容態が悪化することもあるのでそのようなシステムになっている。英国においては、救急車の隊員は、準医師 (Paramedics) と救命救急士(Emergency Medical Technician)である。
イスラエル国
イスラエル国防軍の野外病院では、多数の患者の発生により医療資源が逼迫した状況下での行動指針として、術後24時間以内に容態が安定する見込みのある患者にのみ集中治療室のベッドを与えたり、開放性骨折患者を積極的に受け入れて手術や抗生物質投与等の手厚い治療を施したりする一方で、来院の時点で既に敗血症を起こしている患者や、頭部外傷や脊髄損傷の患者に対しては、速やかに後送できる状況にない場合は医療行為を一切実施しない、といった選別のマニュアルがある[21]。
フランス
フランスの医療では救急通報サービス(SAMU)にてトリアージを常時行っており、通報において実際に救急車が出動するケースは65%に過ぎない[22]。
注釈
- ^ フランス語発音: [tʁijaʒ] トゥリヤージュ
- ^ 英語発音: [ˈtriːɑːʒ] トゥリ(ー)アージュ、[triːˈɑːʒ] トゥリ(ー)アージュ
- ^ 英: simple triage and rapid treatment
- ^ 実際には東日本大震災における福島第一原子力発電所周辺などの状況下では、傷病者が多く全く治療が追いつかないなどの理由で、必ずしも救命不可能ではない者もこちらに分類する事例がある
出典
- ^ “英語辞書 Cambride Triage”. 2020年7月30日閲覧。
- ^ a b コロナ禍とトリアージを問う 社会が命を選別するということ - p22,土井健司, 田坂さつき, 加藤泰史, 2022
- ^ “トリアージ 東京都福祉保健局”. www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp. 2023年1月17日閲覧。
- ^ a b c d “Urgent and emergency care services in England”. 国民保健サービス. 2015年12月1日閲覧。
- ^ “Out-of-hours services”. 国民保健サービス. 2015年12月1日閲覧。
- ^ a b “空飛ぶトリアージタグによる災害医療の効率化と安全化”. 医療安全推進者ネットワーク. 2020年4月16日閲覧。
- ^ a b “トリアージ”. 原子力規制委員会. 2013年5月29日閲覧。
- ^ “南海トラフ地震対策で最終報告 内閣府、避難所は弱者優先”. 共同通信社. 47NEWS. (2013年5月28日) 2013年5月29日閲覧。
- ^ “南海トラフ、避難所利用に優先順位…最終報告”. 読売新聞. (2013年5月28日) 2013年5月29日閲覧。
- ^ Mehta S (April 2006). “Disaster and mass casualty management in a hospital: How well are we prepared?”. J Postgrad Med 52 (2) ., hdl:1807/6941
- ^ http://ops.umin.ac.jp/ops/jijou/060303triage.html
- ^ 毛細血管再充満時間 日本災害医学会 用語集
- ^ Slater RR (January 1970). “Triage nurse in the emergency department”. Am J Nurs (Lippincott Williams &) 70 (1): 127–9. doi:10.2307/3421031. JSTOR 3421031. PMID 5196143.
- ^ a b c “トリアージハンドブック(トリアージ研修テキスト)”. 2015年8月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年8月26日閲覧。
- ^ 陸上自衛隊朝霞駐屯地 東部方面衛生隊
- ^ 色覚の本質 - 日本眼科医会 p.5-6、13
- ^ トリアージタグ改善へ…救急医学会が検討 社会 YOMIURI ONLINE(読売新聞)2013年11月2日
- ^ 横浜型救急システムにおける緊急度・重症度識別 コールトリアージ (PDF) - 消防庁、2021年6月15日閲覧
- ^ “非常時コールトリアージの運用について 〜大規模災害時に一人でも多くの命を救うために〜”. 泉州南消防組合 泉州南広域消防本部 (2020年3月13日). 2021年6月15日閲覧。
- ^ アメリカ合衆国(ニューヨーク)在外公館医務官情報日本国外務省ホームページ2012年6月10日閲覧
- ^ 医療法人健育会西伊豆病院・仲田和正「イスラエル国防軍医療部隊(要約)」2011年
- ^ NIKKANEN H. E.; POUGES C.; JACOBS L. M. (1998). “Emergency medicine in France”. Annals of Emergency Medicine 31 (1): 116–120. doi:10.1016/S0196-0644(98)70293-8. PMID 9437354 .
- ^ 自衛隊の第一線救護における適確な救命について, オリジナルの2015-07-23時点におけるアーカイブ。 2024年5月31日閲覧。
- ^ 災害時のトリアージ…妊産婦ら識別体制 必要 : 知りたい! : yomiDr./ヨミドクター(読売新聞) 2013年12月13日
- ^ “アングル:イタリア最悪の医療危機、現場に「患者選別」の重圧”. ロイター (2020年3月18日). 2020年3月18日閲覧。
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