スラグ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/16 18:10 UTC 版)
スラグの用途
スラグ、特に生産量の多い製鉄スラグの発生量は膨大である。日本国内だけでも、高炉で3000万トン/年、転炉で1000万トン/年もの製鉄スラグが発生している。スラグは産業廃棄物として扱われており、処理費用が嵩む。このために古くからスラグの有効利用が模索されてきた。
例えば日本では、足尾銅山の防火壁の遺構に、スラグを使ったレンガ(カラミレンガ)が残されている。 また、尾小屋鉱山があった石川県小松市尾小屋町ではスラグ煉瓦を使った擁壁や蔵などが残されている。北九州ではネズミ色の鋼滓煉瓦が使われた建物が残っている。[3]
現在では、比重の高さから高炉セメントや、道路の路盤材、グラウンドの舗装材、建築用断熱材であるロックウールの原料などに用いられるほか、イネの育成などに用いるケイ酸肥料(ケイ酸カルシウム)としても利用されている。アブラナ科植物の根こぶ病を防ぐことにも有効といわれている[4][5][6]。また、製鉄スラグは微量の鉄分を含むため、土壌への鉄分供給や、海水中の鉄分不足による沿岸の磯焼けへの対策としての利用が研究されている[7][8]。
スラグ類の環境安全性
経済産業省等から「スラグ類に化学物質評価方法を導入する指針について-総合報告書-」が平成24年3月に公開された。ここでは、循環素材の一例としてスラグ類が挙げられるとともに、循環素材を管理するために従来検討された素案が紹介されている[9]。
続いて、検討を重ねとりまとめたものとして、下記5項目の「循環資材の環境安全品質及び検査方法に関する基本的考え方」が示されている。
(1) 最も配慮すべき曝露環境に基づく評価: 環境安全品質の評価は、対象とする循環資材の合理的に想定しうるライフサイクルの中で,環境安全性において最も配慮すべき曝露環境に基づいて行う。
(2) 放出経路に対応した試験項目:溶出量や含有量などの試験項目は、(1) の曝露環境における化学物質の放出経路に対応させる。
(3) 利用形態を模擬した試験方法: 個々の試験は,試料調製を含め、(1) の曝露環境における利用形態を模擬した方法で行う。
(4) 環境基準等を遵守できる環境安全品質基準:環境安全品質の基準設定項目と基準値は、周辺環境の環境基準や対策基準等を満足できるように設定する。
(5) 環境安全品質を保証するための合理的な検査体系:試料採取から結果判定までの一連の検査は、環境安全品質基準への適合を確認するための「環境安全形式検査」と、環境安全品質を製造ロット単位で速やかに保証するための「環境安全受渡検査」とで構成し、それぞれ信頼できる主体が実施する。
鉄鋼スラグ製品の管理に関するガイドライン
鐵鋼スラグ協会は鉄鋼スラグ製品の管理すべきことをガイドラインを2005年に制定し改正を行っており、目次や要旨を以下に示す[10]。
- 1. 目的
- 2. 適用範囲
- 3. 各会員の責務
- 4. 鉄鋼スラグ製品の品質管理
- (1)備えるべき環境安全品質
- (2)前項の環境安全品質以外の品質規格等
- (3)出荷検査
- 鉄鋼スラグ製品の環境安全品質に係る分析検査は、製造・販売者とは別法人のJIS Q 17025若しくはJIS Q 17050-1及びJIS Q 17050-2に適合している試験事業者、または環境計量証明事業者として登録されている分析機関により、製造ロット毎に、最低でも1ヵ月に1回以上行わなければならない。その結果に係る記録については、少なくとも10年以上の保管期限を定めて保管されなければならない。なお、本ガイドラインにおいての環境計量証明事業者とは、計量法に基づく計量証明の事業区分が「水又は土壌中の物質の濃度に係わる事業」の登録を受けた者とする。
- 5.鉄鋼スラグ製品の販売管理
- 5-1. 受注前
- スラグ製品の販売において、販売先に対し、名目の如何を問わず販売代金以上の金品を支払ってはならない。
- 5-2. 受注・納入
- 5-3. 鉄鋼スラグ製品の運送
- 5-4. 施工中の調査
- 施工中の調査結果を記録に留め、少なくとも10年以上の保管期限を定め保管しなければならない。
- 5-1. 受注前
- 6. 施工後の調査
- 施工後の調査を、必要な期間、必要な頻度で行い、調査結果を記録に留め、少なくとも10年以上の保管期限を定め保管しなければならない。
- 7. 行政・住民等からの指摘・苦情等が発せられたとき及びその懸念が生じたときの対応
- 住民等からの指摘・苦情等が発せられたとき、またはその懸念が生じたときは、その原因が鉄鋼スラグ製品に起因するか否かを問わず、各会員は、需要家と協力して速やかに原因究明にあたるとともに、鉄鋼スラグ製品に起因する場合は、需要家と、必要に応じて行政・住民等と協議の上適切な対策をとることとし、需要家その他の関係者の行為に起因する場合には、必要に応じ当該関係者に注意喚起を行い、必要に応じて行政庁と協議することとする。
- 8. マニュアルの整備と運用遵守状況の点検及び是正措置
- 9. 鐵鋼スラグ協会への報告
- 10. ガイドラインの定期的な点検・整備
- 別紙1 使用場所 ・用途に応じた鉄鋼スラグ製品に適用する環境安全品質基準 他
- 別添1 産業廃棄物処理業者に処理を委託する鉄鋼スラグ等の管理指針
注釈
脚注
- ^ 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令第2条第13号
- ^ a b c 鉄鋼スラグ等に関する現状把握(経済産業省)
- ^ “なぜ灰色?鉄都北九州の「れんが」 製鉄所の副産物、戦前から活用”. 西日本新聞me. 2024年3月18日閲覧。
- ^ 読売新聞 2013年12月3日 14面広告 「鉄鋼スラグ」の可能性(鐵鋼スラグ協会)
- ^ 鉄鋼スラグ、99%再利用でもなお新用途模索(日本経済新聞)
- ^ 転炉スラグによるブロッコリー根こぶ病の防除対策 東京農業大学 日本土壌肥料學雜誌 75(1), 53-58, 2004-02-05
- ^ 「鉄鋼スラグを用いた藻場再生について」新日本製鐵株式会社
- ^ 鉄鋼スラグ等による藻場の再生技術の検討 (農林水産省)著:株式会社 アルファ水工コンサルタンツ
- ^ スラグ類に化学物質評価方法を導入する指針について-総合報告書-
- ^ 鉄鋼スラグ製品の管理に関するガイドラインと鉄鋼スラグ製品製造販売各社の第三者機関の審査に基づく審査状況
- ^ 国土交通省リサイクル材料を利用する際の法令上の留意事項
- ^ 昭和50年6月発行_環境白書_第2節 2 廃棄物処理対策
- ^ 昭和51年6月発行_環境白書_第3節2廃棄物処理対策
- ^ 昭和53年6月発行_環境白書_第4節_3 鉱害防止対策
- ^ Sheila Stogsdill, "Picher projects its end as official municipality", Tulsa World, June 23, 2009.
- ^ [1]UPI, December 4, 2013.
- ^ 八ッ場ダム:移転先のスラグ 国際基準で「最も危険」毎日新聞 2014年09月19日 06時20分配信
- ^ <鉄鋼スラグ>膨張、住宅傾斜…盛り土、雨水吸い 群馬大同特殊鋼の渋川工場から排出された鉄鋼スラグ。毎日新聞 2015年10月25日
- ^ <スラグ無断埋設>「我々の土地、実験台か」地権者ら憤り 毎日新聞 2016年1月22日(金)7時31分配信
- ^ 毎日新聞2016年2月24日群馬の太陽光敷地に…強制捜査受けた業者搬入
- ^ 2016年 4月26日大同特殊鋼株式会社発表資料「当社ならびに当社役員の書類送検および修復工事等の対応状況について」
- ^ 厚生省環境衛生局水道環境部参事官通知昭和53年7月1日 環産第25号
- ^ 「土質安定処理材としてのフェロニッケルスラグ微粉末の適用に関する研究」庄嶋芳卓
- ^ 住友金属鉱山_日向製錬所ホームページ_グリーン・サンド
- ^ 「新居浜市の環境」平成7年3月新居浜市発行
- ^ 東邦亜鉛 有害金属くずを転売 庭や公園などで使用 群馬 NHKニュース 2019年8月10日
- ^ 当社の非鉄スラグ製品の調査・回収について 東邦亜鉛ニュースリリース 2019年8月9日
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