サーマルリサイクル サーマルリサイクルの概要

サーマルリサイクル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/11 15:57 UTC 版)

資源化における概念

日本

日本では廃棄物の焼却時に発生するエネルギーを熱や蒸気などとして回収することをサーマルリサイクルといい、発電、周辺施設の暖房や温水供給などに利用されている[2]容器包装リサイクル法で認められたガス化・油化の他、焼却熱利用、廃棄物発電セメントキルン原燃料化、廃棄物固形燃料などがある。

プラスチックのリサイクル手法の主なものには、プラスチックでの再製品化であるマテリアルリサイクル(material recycling)や原料・モノマー化によるケミカルリサイクル(chemical recycling)などがあり、これらのほかにサーマルリサイクルが位置づけられている[1]。なお、廃棄物のガス化・油化はケミカルリサイクルであるが、それを燃料に使用する場合はサーマルリサイクルとして扱われる[1]。発電時や焼却時に発生する熱を給湯や暖房に利用する点でコージェネレーションシステムと似ている。発電時のエネルギー効率を高め、一次エネルギーの削減やエネルギーからのCO2排出量を抑えることにも貢献している。平成29年度時点で発電設備のあるごみ焼却施設は376ヶ所と全てのごみ焼却施設の34%を占めている。しかし、発電効率が20%以上の施設はわずか37ヶ所となっている。今後は新たな焼却技術の導入により発電効率の向上を図る必要がある。欧米では日本で盛んなサーマルリサイクルよりもマテリアルリサイクルが高いリサイクル率を占めているが、サーマルリサイクルの発電効率の上昇により、世界的にもサーマルリサイクル率が増加すると考える。[3][4]循環型社会形成推進基本法では、廃棄物・リサイクル対策の優先順位を、

  1. リデュース
  2. リユース
  3. マテリアルリサイクル・ケミカルリサイクル
  4. サーマルリサイクル(熱回収)
  5. 廃棄物としての適正処理

とし、経済財政諮問会議の「循環型経済社会に関する専門調査会」および産業構造審議会企画グループでは「サーマルリサイクルも有効なエネルギー回収手段としてマテリアルリサイクルと並んで位置づける」と提言している。

EU

EUの各種指令(94年EU容器包装指令、75年EU廃棄物枠組指令付属書ⅡBなど)では「リサイクル」は再製品化を行うマテリアルリサイクルのことを指す[1]。エネルギー発生手段として利用することはエネルギーリカバリー(energy recovery)と呼ばれており、マテリアルリサイクルやエネルギーリカバリーなどを含む場合にはリカバリー(recovery)という概念を用いる[1]

欧州などではリサイクルは何度も使えるような仕組みを指し、熱として回収する場合はリサイクルに含まず区別されている[2]

プラスチック

プラスチックというものは単一な原材料ではなく、PEPSPPPVCといった原料単位で分別する必要があるため、プラスチックで分別したところでマテリアルリサイクルないしケミカルリサイクルすることはできない。また、商品化されたプラスチック製品自体に2種以上のプラスチックが混ざっていたり、一見同じにしか見えないプラスチックを消費者が原材料単位で分別することは困難である。

そのため、原則として、廃プラスチックはリサイクルされることなく埋め立てられるか、サーマルリサイクルをするかの選択肢に限られる。過去、プラスチック類の1つであるPVCが猛毒のダイオキシンを発生させる原因とされ、埋め立てられることが主流であったが、ダイオキシンの毒性に対して疑問が呈される[要出典]と共に、PVCの分別法[要出典]、ダイオキシンを発生させない燃焼法の確立[要出典]によりサーマルリサイクルへの移行が進んでいる。

熱エネルギー

プラスチックは埋め立てられてきた経緯から不燃物と考えられがちだが、純石油製品であり、石油や石炭と同等の発熱量を有している。そのため、プラスチックをサーマルリサイクルすることで大量の熱エネルギーを回収できる。これにより、間接的に火力発電所で燃焼される原油の削減となる。

なお、1メガワット時の電力を火力発電するために必要な燃料は、天然ガス132kgに対してプラスチックを345kg。この場合の二酸化炭素の発生量は、天然ガスによる燃焼時が360kgに対してプラスチックの燃焼時が880kgとする試算がある[注釈 1]

埋め立て・サーマルリサイクル

地球温暖化の観点から二酸化炭素を排出するサーマルリサイクルより、埋め立てる方が環境に優しいという考えも存在するが、サーマルリサイクルにより削減した原油の二酸化炭素量とである程度は相殺できる。


注釈

  1. ^ 自動車・エレクトロニクス関連廃棄物において欧州を代表するリサイクル事業者の1つであるアクシオン・ポリマーズ(イングランド)のディレクターで、英国プラスチック事業者連盟のリサイクル部会副議長であるキース・フリーガード氏によるもの[5]

出典

  1. ^ a b c d e f 用語の定義”. 経済産業省. 2006年2月16日 - 2009年7月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年6月5日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g 前田和 (2017年11月30日). “リサイクルとごみのこと”. 国立環境研究所 社会対話・協働推進オフィス. 2020年6月5日閲覧。
  3. ^ 「知っておきたいエネルギーの基礎用語~『コジェネ』でエネルギーを効率的に使う」経済産業省資源エネルギー庁、2018年2月20日
  4. ^ 「プラスチック類の資源循環利用の現状」冨田斉、2020年10月16日
  5. ^ 焦点:行き場を失った欧州の「廃プラ」”. ロイター (2018年5月19日). 2018年5月19日閲覧。
  6. ^ サーマル・リサイクルとは”. 大阪広域環境施設組合. 2020年6月5日閲覧。
  7. ^ Kwon, Serang; Kang, Jieun; Lee, Beomhui; Hong, Soonwook; Jeon, Yongseok; Bak, Moonsoo; Im, Seong-kyun (2023-07-12). “Nonviable carbon neutrality with plastic waste-to-energy” (英語). Energy & Environmental Science 16 (7): 3074–3087. doi:10.1039/D3EE00969F. ISSN 1754-5706. https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2023/ee/d3ee00969f. 
  8. ^ Schauffler, Marina (2022年2月25日). “Plastics could be creating a surge in waste-to-energy plants’ emissions” (英語). Energy News Network. 2023年11月9日閲覧。
  9. ^ Waste to Energy – Controversial power generation by incineration” (英語). Clean Energy Wire (2021年5月26日). 2023年11月9日閲覧。
  10. ^ Is burning plastic waste a good idea?” (英語). Environment (2019年3月12日). 2023年11月9日閲覧。
  11. ^ Why waste-to-energy incineration is a bad idea and not the answer to NZ’s plastic waste crisis” (英語). Greenpeace Aotearoa. 2023年11月9日閲覧。
  12. ^ https://www.no-burn.org/wp-content/uploads/Plastic-is-Carbon-Oct2021.pdf Plastic is carbon. Unwrapping the "net zero" myth.
  13. ^ https://www.env.go.jp/content/900515691.pdf 廃プラスチックのリサイクル等に関する 国内及び国外の状況について、環境省 2019年  
  14. ^ “COP26: Emissions of rich put climate goals at risk - study” (英語). BBC News. (2021年11月5日). https://www.bbc.com/news/world-59157836 2023年11月11日閲覧。 


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