クレテック クレテックの概要

クレテック

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/16 16:39 UTC 版)

国際的に有名な紙巻きクレテック(クローブたばこ)のブランドであるジャルム英語版

概要

「kretek」という言葉はクローブを燃やす時に発する有響音を表す擬声語の言葉である。ジャワ島クドゥス英語版在住のハジ・ジャマーリ(Haji Jamahri)が1880年代初期に気管支喘息の治療としてクローブのオイゲノールを肺に到達させるためにクレテックを作った[2]。ジャマーリはオイゲノールが自身の胸痛を治してくれると信じ、商品化し村の市場で売りだそうとしたが、その前に肺癌で死去した。M・ニティセミト(M. Nitisemito)が彼の土地を取得し新しいタバコの商業展開を始めた。現在、インドネシアでクレテック製造に従事する人は18万人以上で、さらに1000万人もの間接的な雇用を生み出している[3]

インドネシアでクレテックはその喫味が非常に好まれ、またクレテックではないタバコ(白たばこ rokok putih)と比べて部分的ながら税制上優遇されるため[4]、喫煙者の90%以上がクレテックを吸っている[5]。またインドネシアには大手やローカル合わせて100ものクレテック製造業者があり、国際的に知られているブランドにはインドネシアが起源のサンポルナ英語版ベントール英語版ジャルム英語版グダン・ガラムウィズミラク英語版などがある。

アメリカ合衆国ナット・シャーマン英語版も「ア・タッチ・オブ・クローブ」(A Touch of Clove)というブランドを販売しているが、実際はタバコ葉にクローブの香辛料を混ぜるのではなく、フィルター内にクローブの香りが入った小さいクリスタルを入れていることから本物のクレテックではないとされる[6]

歴史

ジャワ島でのタバコの葉を仕分ける作業。タバコは植民地時代オランダから伝来した。

クレテックの始まりは19世紀後期にまで遡る。クレテックを考案したのはインドネシアの中部ジャワ州にあるクドゥスの町の住人であったハジ・ジャマーリである。胸の痛みに苦しんでいたジャマーリは痛みを抑えるために自身の胸にクローブオイルを擦り付けていた。また、痛みをより抑える方法や乾燥させたクローブの芽とゴムの木の樹液を加えた手作りのタバコを吸う方法を模索していた。この逸話によれば、彼の喘息と胸痛はすぐに治ったとされ、この治癒方法は彼の隣人に広まっていき、クローブタバコは「ロコッ・チェンケ」(rokok cengkeh 丁字たばこ)の名で薬局で販売されるようになった。このように当初は治療薬としてクレテックは内外に広まっていった。

その後、地方では特定のブランド、パッケージの無い注文もしくは生産における原料の制限の中で販売するために手巻きのクレテックが使われていた。クドゥスに住むニティセミト(Nitisemito)はクレテックの販売をするための数々のアイデアを持ち、他の業者に先駆けて1906年に初めてのブランドであるバル・ティガを発売し、エンボス加工の包装や宣伝材料の無償提供といった前例のない販売手法で大きな成功を収めた。しかし営業生産は1930年代まで本格的に行わなかった[7]

1910年代のクレテックは天然樹脂ナツメグクミンクローブタバコをバナナの葉で包んでいた

さらにニティセミトはアボンシステム(abon system)という生産システムを開発し、十分な資本が無い起業家にも機会を提供した。このシステムでは”アボンと呼ばれる従業員”が製造した商品を企業に納入する出来高制であるが、その企業はアボンに必要な生産材料を供給する責任を負うというものである。しかしその後多くの生産業者は品質水準を維持するために、労働者を自社工場で雇用することを選んだ。現在ではアボンシステムを採用しているクレテック製造業者は数社のみである。

1960年から1970年の間、クレテックは「白タバコ」に代わる国の象徴となっていった。1980年代中頃には多くの商品が手作業から機械生産に取って代わるようになり、インドネシアにおける最大級の収益源の1つとして大小500工場あるクレテック産業は現在では約1000万人の雇用を創出している[8]

2009年よりアメリカ合衆国でのクレテック紙巻きタバコの販売が禁止されている。これに対しては、オリジナルのクレテックとサイズや形やフィルター、オリジナルのタバコ葉とクローブのブレンドが同じ葉巻きたばこが販売されている。

構造と成分

タバコ葉の品質と種類はクレテック生産の中で重要な役割を果たしている。1銘柄で30種類以上のタバコ葉が使われブレンドされている[9]。粗挽きしたクローブの乾燥蕾がタバコ葉ブレンドの約1/3の計量で加えられる。多くの商品には機械生産や手作りの最終工程で紙巻きたばこの切り口に甘味料が噴霧されている。


  1. ^ 紙巻きのほか、トウモロコシの皮で巻かれたものも初期から存在する。
  2. ^ http://www.clovecigarette.eu/about/
  3. ^ Hanusz, Mark Smoke; A Century of Kretek pp. 140-143
  4. ^ June 3, 1999: Where There's Smoke, There's Kretek: The Cigarette Industry in Indonesia”. 2007年7月20日閲覧。
  5. ^ Cigarette Production & Consumption”. 2007年12月30日閲覧。
  6. ^ A Touch of Clove”. 2007年12月30日閲覧。
  7. ^ Sejarah Indonesia – a Timeline of Indonesian History
  8. ^ Hanusz, Mark (2000) Kretek: The Culture and Heritage of Indonesia's Clove Cigarettes, Equinox Publishing ISBN 979-95898-0-0
  9. ^ Kretek
  10. ^ J.L. Malson, E.M. Lee, R. Murty, E.T. Moolchan and W.B. Pickworth (February 2003). “Clove cigarette smoking: biochemical, physiological, and subjective effects”. Pharmacology, Biochemistry, and Behavior 74 (3): 739–745. doi:10.1016/S0091-3057(02)01076-6. PMID 12543240. 
  11. ^ G.C. Clark (1989). “Comparison of the inhalation toxicity of kretek (clove cigarette) smoke with that of American cigarette smoke. I. One day exposure”. Archives of toxicology 63 (1): 1–6. doi:10.1007/BF00334625. PMID 2742495. 
  12. ^ G.C. Clark (1990). “Comparison of the inhalation toxicity of kretek (clove cigarette) smoke with that of American cigarette smoke. II. Fourteen days, exposure”. Archives of toxicology 64 (7): 515–521. doi:10.1007/BF01971829. PMID 2073125. 
  13. ^ __ (December 1988). “Evaluation of the health hazard of clove cigarettes. Council on Scientific Affairs”. Journal of the American Medical Association 260 (24): 3641–36444. doi:10.1001/jama.260.24.3641. PMID 3057254. 
  14. ^ S.2461 - Family Smoking Prevention and Tobacco Control Act at Congress.gov
  15. ^ Tobacco Use Among Middle and High School Students – United States, 2002”. 2007年12月30日閲覧。
  16. ^ Paul Smalera (2009年6月8日). “Cool, Refreshing Legislation for Philip Morris”. The Big Money from Slate. 2009年6月22日閲覧。
  17. ^ http://www.rjrt.com/legal/stateLawView.asp?State=md
  18. ^ Clove encounter: Philip Morris acquires Sampoerna”. 2007年12月30日閲覧。
  19. ^ Delaware Division of Libraries Blog, http://library.blogs.delaware.gov/2009/11/23/clove-cigarettes/ 
  20. ^ http://www.thejakartapost.com/news/2010/07/21/wto-agrees-set-panel-rule-us-clove-cigarette-ban.html
  21. ^ http://www.reuters.com/article/2012/04/04/us-wto-usa-indonesia-idUSBRE8330Y720120404
  22. ^ Brazil bans sale of clove cigarettes, (April 13, 2012), http://www.thejakartapost.com/news/2012/04/13/brazil-bans-sale-clove-cigarettes.html 


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