カブトムシ亜科 カブトムシ亜科の概要

カブトムシ亜科

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/16 23:56 UTC 版)

カブトムシ亜科
様々なカブトムシ
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 昆虫綱 Insecta
: コウチュウ目 (鞘翅目) Coleoptera
亜目 : 多食亜目 Polyphaga
上科 : コガネムシ上科 Scarabaeoidea
: コガネムシ科 Scarabaeidae
亜科 : カブトムシ亜科 Dynastinae
英名
Rhinoceros beetles[注 1][1]
Hercules beetles[注 2][2]

生息地

1987年時点で、全世界で1,300種類程度が知られ、分類学上は8族170に整理されている[14]。しかしオス成虫が大型で発達したを持つ有名なカブトムシの大半(日本のカブトムシ T. dichotomusヘラクレスオオカブト Dynastes helcules など)はカブトムシ族(オオカブト族) Dynastini に分類され、カブトムシ族以外に属する種の大半はオスでも角がなかったり、突起程度の小さい角しか持たない種も少なくない[15]

幼虫が朽木や腐植土などを食べることから、森林に生息する種が多い[16]熱帯地域を中心として世界中に分布を広げているが、特に大型で知名度の高い種類のほとんどは中南米に生息しており[17]、熱帯アメリカからは世界最長のカブトムシであるヘラクレスオオカブトを含むオオカブト属 Dynastesゾウカブト属 Megasomaタテヅノカブト属 Golofa などが知られている[15]アジアアフリカではアメリカ大陸に比べて種類が少ないが[14]、アジアではアトラスオオカブト属 Chalcosoma や、かつて日本のカブトムシも分類されていた Allomyrinaゴホンヅノカブト属 Eupatorusヒメカブト属 Xylotrupes などが知られている[15]。一方、アフリカに生息しているカブトムシ族はケンタウルスオオカブト属 Augosoma 1属のみに限定されているが[18][15]、それはアジアではクワガタムシが、アフリカではハナムグリがそれぞれ繁栄していることが要因と考えられている[14]海野和男はアフリカに大型カブトムシ類が少ない理由について、アフリカ大陸では体長100 mmを超す巨大種であるゴライアスオオツノハナムグリを始めとした巨大ハナムグリ類が繁栄しており、彼らがニッチを優占しているため、カブトムシ類が繁栄できなかったという可能性や[19]、大型カブトムシ類は起源が新しいグループであり、その発祥はアフリカではあるが、比較的近年になってアジアやアメリカで熱帯雨林が繁茂するに伴って進化していったグループであるという可能性を指摘している[18]。いずれの地域でも熱帯から亜熱帯の降雨林に多くの種類が生息しており、またほとんどの種類が夜行性であるため、野生下での習性・生態・生活史などは不明な点が多く、ココナツヤシサトウキビ害虫農業害虫)となっている種に関してある程度調べられている程度である[14]

温帯には大型種はあまり見られず、北アメリカに生息するグラントシロカブト、日本のカブトムシなどである。

日本にはカブトムシ族に分類されるカブトムシ T. dichotomus のほか、マルカブトムシ族 Pentodontini に分類されるクロマルカブト Alissonotum pauper およびホリシャクロマルカブト A. impressicolleサイカブトムシ族 Oryctini に分類されるサイカブト Oryctes rhinoceros およびヒサマツサイカブト O. hisamatsuiコカブトムシ族 Phileurini に分類されるコカブト Eophileurus chinensis の4族6種が生息している[20]

特徴

本亜科の持つ第一の特徴として挙げられるのは、オスのであるが、これは全てのカブトムシにあるわけではない。メスには角はないが、突起のようなものを見ることができるものがあり、これは産卵時に土壌や腐植質を掘り進むのに都合がよいと考えられている。オスには種類によっては頭部だけでなく前胸部にも角がある。角は餌場やメスの奪い合いの際の喧嘩に使われるが、必ずしも全ての種が角を活用しているわけではない。例えばゴホンツノカブトは5本の角を持ついかにも厳めしい姿をしたカブトムシだが、性格は温和で、角を使って争う姿は滅多に見られない。またタテヅノカブト類は細い竹の環境に適応して脚が長く発達した影響からか、喧嘩の際には角を使うよりも前脚で相手をなぎ払おうとする傾向が強い。その一方で角を武器として有効に使う種もあり、ヘラクレスオオカブトは頭角と胸角で相手を挟んで放り投げることができるし、コーカサスオオカブトは3本の角で相手を封じ込める。

成虫の体長は様々で、20 mmほどのものから、150 mmを超える大型種まである。2023年時点ではヘラクレスオオカブトの原名亜種 D. h. helcules で最大体長182.8 mmの個体が確認されており[21][22]、次いで同属のネプチューンオオカブト D. neptunes が体長150 mm超に達する[23]。アジア産のカブトムシ類で体長が最も大きくなるのは、アトラスオオカブト属 Chalcosomaコーカサスオオカブト C. chiron である。最重はゾウカブト類の大型種であり、これらはゴライアスハナムグリに次ぐ重量級の甲虫である。

本亜科を含む甲虫類は独特の翅の構造を持つが、本亜科に属する種はその大きな体のため、飛翔は至極不器用である。ゾウカブト程の大型種ともなると羽音はすさまじい。足場を決めると、上翅を広げ、その下に畳まれていた下翅を伸ばして離陸する。幹にぶつかるように着地するが、脚を広げて飛ぶため、着地の際には木の葉や枝に引っかかってぶら下がる格好となることも珍しくない。尚、ヘクソドン類は上翅が融合し、飛翔能力がない。


脚注

  1. ^ Rhinoceros beetle は東洋区に分布するタイワンカブトムシ Oryctes rhinoceros (Linnaeus) やエチオピア区に分布する O. tarandus Olivier 、旧北区に分布する O. nasicornis illigeri Minck の英名として用いられる[1]。また Rhinoceros beetles はサイカブト属 Oryctes やオオカブトムシ属 Dynastes の英名としても用いられる[1]
  2. ^ Hercules beetle はヘラクレスオオカブトの英名として用いられる[2]

出典

  1. ^ a b c 矢野宏二 編『世界の昆虫英名辞典 vol.2 M-Z』櫂歌書房、2018年5月12日初版第1刷、914頁
  2. ^ a b 矢野宏二 編『世界の昆虫英名辞典 vol.1 A-L』櫂歌書房、2018年5月12日初版第1刷、536頁
  3. ^ a b c d e f g h i j k 海野和男 2006, p. 204.
  4. ^ a b c d 清水輝彦 2015, p. 70.
  5. ^ a b c d 清水輝彦 2015, p. 75.
  6. ^ 清水輝彦 2015, p. 78.
  7. ^ a b c d e 清水輝彦 2015, p. 86.
  8. ^ a b c d e f g h i j k 清水輝彦 2015, p. 98.
  9. ^ a b c d 清水輝彦 2015, p. 113.
  10. ^ a b c d e f 岡島秀治 & 荒谷邦雄 2012, p. 361.
  11. ^ 岡島秀治 et al. 1987, p. 239.
  12. ^ a b 水沼哲郎 1999, p. 109.
  13. ^ 海野和男 2006, p. 2.
  14. ^ a b c d 岡島秀治 et al. 1987, p. 244.
  15. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t 海野和男 2006, p. 205.
  16. ^ 海野和男 2006, p. 8.
  17. ^ 岡島秀治 et al. 1987, p. 240.
  18. ^ a b 海野和男 2006, p. 162.
  19. ^ 海野和男 2006, pp. 164–165.
  20. ^ a b c d e f 永井信二 2007, p. 8.
  21. ^ a b c (編集者)藤田宏(編集スタッフ)藤田宏・小林信之・谷角素彦・矢崎克己・飯島和彦・中村裕之(編)「世界のフタマタクワガタ大特集!! > カブトレコード個体(2023年度版)」『BE・KUWA』第87号、むし社、2023年4月18日、113頁、ISSN 0388-418X国立国会図書館書誌ID:000004340722全国書誌番号:01004593  - No.87(2023年春号)。『月刊むし』2023年6月増刊号。
  22. ^ はると (2022年7月28日). “【2022年最新版】ヘラクレスオオカブトのギネス記録が更新!190mmも夢ではない!? - ヘラクレスオオカブト専門の飼育情報サイト【ヘラクレス本舗】”. ヘラクレス本舗. 2023年7月6日閲覧。
  23. ^ 坪井源幸 2002, p. 155.
  24. ^ a b 清水輝彦 2015, p. 77.
  25. ^ a b c 水沼哲郎 1999, p. 104.
  26. ^ a b 永井信二 2007, p. 25.
  27. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 岡島秀治 & 荒谷邦雄 2012, p. 363.
  28. ^ a b 永井信二 2007, p. 26.
  29. ^ a b c d e 岡島秀治 & 荒谷邦雄 2012, p. 362.
  30. ^ 水沼哲郎 1999, p. 103.
  31. ^ a b 川上洋一(著者)、上田恭一郎(監修)『世界珍虫図鑑 改訂版』2007年6月25日第1刷発行、120-121頁「オオカブトムシ 昆虫はどこまで大きくなれるか オオカブトムシ族(Dynastini)の総称」(柏書房
  32. ^ 清水輝彦 2015, p. 98-99.
  33. ^ 小林一秀 2022, p. 19.
  34. ^ 図書館:カブトムシについて”. 三春町公式ホームページ. 三春町 (2012年2月24日). 2023年7月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年7月8日閲覧。
  35. ^ キラキラのカブトムシ! 湖東の○○さんが発見 =珍品カブト「みんなも見て」=」『滋賀報知新聞』第14199号、滋賀報知新聞社、2005年9月3日。2023年7月8日閲覧。
  36. ^ 永井信二 2006, p. 8.
  37. ^ 小林一秀 2022, p. 6.
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  41. ^ 清水輝彦 2015, pp. 100–102.
  42. ^ はると (2022年7月28日). “【2023年最新版】ヘラクレスオオカブトのギネス記録が更新!190mmも夢ではない!? - ヘラクレスオオカブト専門の飼育情報サイト【ヘラクレス本舗】”. ヘラクレス本舗. 2023年7月17日閲覧。
  43. ^ (編集者)土屋利行(編集スタッフ)藤田宏・小林信之・谷角素彦・矢崎克己・飯島和彦・中村裕之・坂本伸嘉・阪本優介(編)「カブト・レコード コンテスト」『BE・KUWA』第83号、むし社、2022年5月18日、98-103頁、ISSN 0388-418X国立国会図書館書誌ID:000004340722全国書誌番号:01004593  - No.83(2022年春号)。『月刊むし』2022年6月増刊号。
  44. ^ a b c d e f g 清水輝彦 2015, p. 102.
  45. ^ a b c 清水輝彦 2015, p. 103.
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  50. ^ a b 土屋利行 & 飯島和彦 2018, p. 8.
  51. ^ 土屋利行 & 飯島和彦 2018, p. 9.
  52. ^ 土屋利行 & 飯島和彦 2018, p. 29.
  53. ^ 土屋利行 & 飯島和彦 2018, p. 30.
  54. ^ 土屋利行 & 飯島和彦 2018, p. 38.
  55. ^ a b 坪井源幸 2002, p. 173.
  56. ^ Rowland, J. M., and Miller, K. B. (2012) Phylogeny and systematics of the giant rhinoceros beetles (Scarabaeidae: Dynastini). Insecta Mundi 0263, 1–15.
  57. ^ Krell, F. T. (2007) Catalogue of fossil Scarabaeoidea (Coleoptera: Polyphaga) of the Mesozoic and Tertiary, Version 2007. Denver Museum of Nature & Science Technical Report 2007-8, 1–79
  58. ^ Jin H, Yonezawa T, Zhong Y, Kishino H, Hasegawa M (2016) Cretaceous origin of giant rhinoceros beetles (Dynastini; Coleoptera) and correlation of their evolution with the Pangean breakup. Genes & Genetic Systems 91, 209-215.
  59. ^ a b 永井信二 2007, p. 28.
  60. ^ 岡島秀治 & 荒谷邦雄 2012, pp. 362–363.


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