アイスランド語
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/12 13:44 UTC 版)
音韻
母音
前舌 | 後舌 | ||
---|---|---|---|
非円唇 | 円唇 | 円唇 | |
狭 | i | u | |
広め狭 | ɪ | ʏ | |
半広 | ɛ | œ | ɔ |
広 | a |
前舌 | 後舌 | |
---|---|---|
狭 | ei, öy | ou |
半広 | ai | au |
アイスランド語において、母音の長短は語の構造によって自動的に決定され、意味の弁別には寄与しない。また、長母音と短母音の差は音の長さのみであり、母音の質は変わらない。母音の長短は以下のように決定される。
- 子音が後続しない場合、または子音が1つだけ後続する場合: 長
- 子音が2つ後続し、1つ目の子音がp, t, k, sのいずれかで、2つ目の子音がj, r, vである場合: 長
- それ以外の場合: 短
アイスランド語の母音は、綴りと発音が1対1で対応する。ただし、ng, nkが後続する場合は、次のように発音が変化する。
- ang: [auŋk] ( = áng)
- eng: [eiŋk] ( = eing)
- ing: [iŋk] ( = íng)
- yng: [iŋk] ( = ýng)
- öng: [öyŋk] ( = aung)
- ung: [uŋk] ( = úng)
以上より、母音字と発音の対応をまとめると以下のようになる。
母音字 | ng, nkの前 | |
---|---|---|
a | [a] | [au] |
á | [au] | |
au | [öy] | |
e | [ɛ] | [ei] |
é | [jɛ] | |
ei, ey | [ei] | |
i, y | [ɪ] | [i] |
í, ý | [i] | |
o | [ɔ] | |
ó | [ou] | |
u | [ʏ] | [u] |
ú | [u] | |
æ | [ai] | |
ö | [œ] | [öy] |
子音
両唇 | 唇歯 | 歯 | 歯茎 | 硬口蓋 | 軟口蓋 | 声門 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
鼻音 | m̥ | m | n̥ | n | ɲ̊ | ɲ | ŋ̊ | ŋ | ||||||
破裂音 | pʰ | p | tʰ | t | cʰ | c | kʰ | k | ||||||
摩擦音 | f | v | θ | ð | s | ç | j | x | ɣ | h | ||||
接近音 | l̥ | l | ||||||||||||
ふるえ音 | r̥ | r |
アクセント
アイスランド語におけるアクセントは英語などと同じく強弱アクセントである。これは日本語のように母音の音程が上下する高低アクセント(ピッチアクセント)とは異なり、単語中の特定の音節の母音を特別に強く明瞭に発音することを指す。
アイスランド語のアクセントは(英語を除いた)他のゲルマン派言語と同じく、大抵は各単語における第1音節に置かれ、単語によっては第2音節に置かれる。
ウムラウト
アイスランド語においては、同じくゲルマン語派に属するドイツ語などと同じく(音韻現象としての)ウムラウトが存在する。ウムラウトは、動詞の屈折や名詞の派生などで頻繁に観察され、外来語であってもウムラウトの影響を受ける。(例: japanska (日本語, 単数主格) - japönsku (日本語, 単数対格), Ítali (イタリア人, 単数主格) - Ítölum (イタリア人, 複数与格))
i-ウムラウト
i-ウムラウトとは、一語の単位内において、iやjに影響を受けて、先行する母音の質が変わる現象である。ウムラウトを引き起こす音はしばしば失われている。i-ウムラウトによる変化は次のようになる。
母音 | 例 | |
---|---|---|
変化前 | 変化後 | |
a | e | taka 「取る」- ég tek 「私は取る」 |
á | æ | hár 「高い」 - hærri 「より高い」 |
e | i | setinn 「座った」(過去分詞) - sitja 「座る」 |
o | e | koma 「来る」- ég kem 「私は来る」 |
o, u | y | sonur 「息子」(単数主格) - synir 「息子たち」 (複数主格) |
ó | æ | stór 「大きい」 - stærri 「より大きい」 |
u | y | fullur 「満ちた」 - fyllri 「より満ちた」 |
ú | ý | mús 「鼠」(単数主格) - mýs 「鼠たち」(複数主格) |
ju | y | við bjuggum 「私たちは生きた」 - við byggjum 「私たちは生きた」(接続法) |
jú | ý | ljúga 「横になっている」 - ég lýg 「私は横になっている」 |
jó | ý | bjóða 「提供する」 - ég býð 「私は提供する」 |
au | ey | ausa 「掬う」 - ég eys 「私は掬う」 |
u-ウムラウト
u-ウムラウトとは、一語の単位内において、u, vによって先行するaがöやuに変化する現象である。i-ウムラウトと同じく、ウムラウトを引き起こす母音は失われていることがある。
母音 | 例 | |
---|---|---|
変化前 | 変化後 | |
a | ö, u | land 「土地」(単数主格) - lönd 「土地」(複数主格) |
kallaði 「私は呼んだ」 - kölluðum 「私たちは呼んだ」 |
古ノルド語の単数主格語尾-rから生じた-urの前では、u-ウムラウトは起こらない。 (例: dalur 「谷」(単数主格) < 古ノルド語 dalr)
Breaking
Breakingとは、aやuによって、語幹のeがjaになる現象である。ウムラウトと同じく、変化を引き起こす母音は失われていることもある。
母音 | 例 | |
---|---|---|
変化前 | 変化後 | |
e | ja, jö | gefa 「与える」 - gjöf 「贈り物」(単数主格) |
i | skildir 「盾」(複数主格) - skjöldur 「盾」(単数主格) | |
eがi-ウムラウトによってiに変化しているパターン |
- ^ 森田貞雄「アイスランド語」小学館『日本大百科全書』(アイスランド語とは - コトバンク)
- ^ 言語学大辞典 第一巻 世界言語編(上). 三省堂. (1988)
- ^ Randall, William; Jones, Howard (2015-07-01). “On the early origins of the Germanic preterite presents” (英語). Transactions of the Philological Society 113 (2): 137. doi:10.1111/1467-968X.12045. ISSN 1467-968X.
- ^ Einarsson, Stefán (1949) (英語). ICELANDIC - grammar, text, glossary. London: Johns Hopkins Press. p. 104. ISBN 978-0801863578
アイスランド語と同じ種類の言葉
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