魁題百撰相
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/05/14 08:09 UTC 版)
「魁題百撰相」の題名は「海内(かいだい)百戦争」の語呂合わせになっており、一魁斎が百人の相貌を撰んで題すという意味を表している。歴史上の武将の名をそれと分かるように変えて描いた武者絵のシリーズで、上半身の人物を一図に一人ずつ収めた肖像画である。現在65点が確認されている。主題の大部分は戦国時代の人物だが、図柄から明らかに上野戦争を題材に描いている。背景は暗色に覆われ、ほぼ無背景なのが特徴である。人物造形には、国芳の「誠忠義士肖像」の影響が指摘されている。 従来、無残絵は芳年の独擅場といわれてきたジャンルであり、「英名二十八衆句」における血の手形の頻用から、この絵師の血への嗜好を読み取る向きもある。しかし、明治に入ってからの「魁題百撰相」においては、血が描かれているのは3分の1にすぎず、ある種の静かな死の様が冷静に描かれている。これは、芳年の孫娘によって語られた逸話である、彰義隊の戦場跡をスケッチに赴いたという芳年の経験と無縁ではないと思われる。これら無残絵の存在は、浮世絵が常に時代に敏感であったことの証と考えるのが妥当であるといえる。このような無残絵は、閉鎖的で流動しない泰平の世に倦み、理想的な美を追う反面、刺激的な悪や醜を見るといった時代の反映であり、また、人間の深層心理にも根ざしていると考えられる。そういう点においても、浮世絵師たちは、御用絵師、狩野派などといった本絵師がうかがい知ることも、また考えもしなかった「血みどろ絵」、ブラッディ・シーンなどの人間の深いどろどろとしたところにまで踏み込んでいったのであるといえる。 幅広い芳年の作品群の中でも、無残絵は芥川龍之介、谷崎潤一郎、三島由紀夫、江戸川乱歩らの近現代作家の創作活動に強烈な刺激を与えたといわれる。
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